第14話神域にて

「あぁーもう仕事したくなーい! 萌え萌え不足であたし死んじゃうよシズルちゃーん!」



リフィン達がミスティエルデの世界に帰った後、仕事をサボって水の女神の部屋に遊びにいった火の女神モエルは叱責と罰を与えられ、風の神ソヨグに48時間労働を命じられ現在監視室にてミスティエルデの情勢を監視していた。


神域の監視室には四方八方を映像が流れるモニターが設置されており、国家の重鎮の汚職現場や、のどかで平和な集落の光景、魔物と人間が戦っているものや、汗水流して交尾している映像などが映し出されていた。



「あーつまらん、まじつまらん、全然つまらん・・・ぜんぶ全部つまらーん!」



そういってモエルは両手を投げ出し、座っていた黒い特注の防火防熱のデスクチェアの背に体重をかけてうな垂れる。

ゆっくりと流れる平和な映像や早く切り替わる激動の映像が無慈悲にも流れ続けるも、モエルにはそれらが何一つとして興味を持てなかったのである。 それはこの作業を何千年も前からすっと続けていて飽きた為であった。

これから48時間もの間、この映像の監視を続けなければならないのはモエルにとって地獄に等しかった。



「・・・ちょっとトイレにでも行ってサボっ___」


”もうサボタージュか? 追加でもう48時間プラスしても良いのなら行って来い”


「サボ・・・テンに水やりしてこようかなと・・・」



モエルの背後にはいつの間にか風の神ソヨグがいた。 姿は相変わらず見えないが、ソヨグの周辺には薄緑色の風がぐるぐると舞っているので大体の位置は確認出来るのだ。

ソヨグはモエルがすぐに仕事をサボる事が分かっていたかの様に頃合いを見て様子を確認しに来たのであった。



”お前が水やりなんて出来る訳がないだろう・・・水なんてすぐに蒸発して無くなるし、近づいただけでサボテンも鉢植えもお前の熱気で燃える。 シズルでさえ触れられたら沸騰するくらいなんだから少しは分かるだろう・・・あと神域にはトイレもサボテンもねぇ!”


「ぐぬぬ・・・」



全てソヨグの言うとおりだった。

モエルは常時全身が燃えており、その熱さから近くにある物質を燃やし、溶かし、消し炭すらも残さない身体なのだ。 そして神ゆえに不老で、排泄もせず風邪も引かず、睡眠すらも不要なのだった。



”我はもう少しで定時だが、モエルの監視を怠らないようにユラグに言ってあるから安心して仕事をこなすと良い”


「あたしにだけ不当な罰を与えて自分は定時で上がりぃ? ざっけんなよマジで!」


”調子の優れないシズルに余計な負担をかけた罰だ・・・大好きなシズルから受けた罰だと思えばこれくらい余裕だろ?”


「シズルから罰を受けていないんだけど・・・」


”ではお前に罰を与えるようにシズルに言っておく、これでいいな?”


「直接シズルから聞きたいんですが・・・」


”駄目だ、シズルを見たらお前は飛んで抱きつきに行くに決まっているだろうが”


「っち・・・」



シズルの事が大好きなモエルが、直接シズルと会うと押さえられなくなり飛びついてシズルを捕獲する事は自然の摂理に等しく、リンゴが地面に落下する事と同義だった。

しかし魔法でリンゴが浮かんでしまったが如く、ソヨグの手によりシズルに近づけない状況に陥るモエル、自身の行いは本能によるものなのだと反省する気もなくソヨグに舌打ちするのであった。



「・・・そういえばさっきの可愛い女の子は誰だったのよ?」



モエルはもう少しシズル萌え成分を補給しておきたかったと悔しがったのだが、先程シズルの休憩室の前に居た少女の事を思い出す。 何か面白そうな情報があるのかとソヨグに聞いてみたのだが・・・



”お前には関係ない話だ、あの距離で燃えなかったのは少し驚いたがな・・・”


「名前の先っちょだけでもいいから教えてよ」


”教えぬ・・・あとそれ、先っちょだけでは済まされないような気がしてならんからもうこの話は終わりだ”



情報を1つとして口に出さないからモエルは別の手段を取る事にした。



「・・・えーつまんなーい」


”では我は神殿に戻る、受けた罰はきちんと受けるのだぞ”


「・・・へーい」



そうしてソヨグが居なくなりしばらくした後、モエルはクスクスと笑い、ニヤけた顔で監視モニターを慣れた手つきで操作していく。

次々に変わる映像の数々、あれでもないこれでもないとモニターを操作し続ける。



「へへーん、教えてくれないんじゃあしょうがないよねぇ・・・監視モニター使ってさっきの可愛い子を探せばいいだけだし! そういえば鳥とタヌキもいたっけ、これだけ情報があればすぐに見つかるっしょーあははははは!!」



こうしてモエルによる青髪の少女の捜索が始まったのであった。













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「・・・えぐっちゃん」



江口雫

えぐちしずく

、何百年か前に荒廃しきったミスティエルデを平和な世の中にする為に、異世界に住んでいる地球という星から呼んできた日本人のことである。

呼んできた日本人は全部で12人で、江口雫には水魔法の力をシズルから直接分け与えたのだ。


江口雫と仲が良かったシズルは、シズルと雫

しずく

では呼び間違いが発生した為、雫の名字を使って”えぐっちゃん”と呼ぶようになった。 神以外ではあるがシズルにとって初めての友人であり、弟子であった。

しかし気づけば、シズルが転移ゲートを塞いでいる間にいつの間にかえぐっちゃんは他界していて、それを知ったシズルは水たまりが海に変わる程悲しんだ。


それから数百年経ち、ここしばらくゲート閉鎖で忙しかったので記憶の隅に閉まってあったのだが、突然えぐっちゃんの子孫と出逢ってしまい、親友を失った悲しみが溢れ返ってきてしまうシズルであった。

親友とその子孫を思い出しながら、やっぱり似ているなぁと2人の面影を重ねる・・・



「・・・よし」



親友にはゲート閉鎖の方法を教えてもらった恩があったのに、最期を看取れなかった後悔もあるシズルは、その子孫であるリフィンに恩を返そうと、まずはミスティエルデで問題になっている水魔法の効力の低下を食い止める為に立ち上がったのであった。

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