第12話神域
黒く目映い閃光が発したかと思えば、黒い光は次第に弱まって行き現実の世界とは思えない渦巻く藍色で埋め尽くされた景色が広がる。
そこは両足で立っている筈なのだが、地面が見えなくて足が宙に浮かんでいるかのような空間が姿を現す。
黒く眩しい閃光に耐えられず眼を瞑っていたが、光が収まったようなのでゆっくりと両の眼を開けるリフィン達は、劇的に変化した空間に驚きを隠せないでいた。
『ここは・・・どこ?』
『なぁ、さっきまで宿屋の部屋に居たよなオレ達・・・』
『変態賢者の本が光って目を閉じたら・・・あの世だった』
『私達死んじゃったの!?』
『いや、違うと思うけど・・・』
”ここは、我ら六神の住まう神聖なる場所・・・ここを訪れるとは何用あっての事か”
自分たちの境遇に驚き不安になっているリフィン達に、低い男性のような声が頭に響くように聞こえてきた。
六神と名乗っていたが、彼はそのうちの1柱なのだろうとタキルは即座に理解した。
『リフ、オレ達が何故ここ来れたのかはよく分からないが、彼は神と名乗った・・・あの大賢者が言っていた通りに直接当事者からお話を聞けるかもしれない、だから正直に水属性の効力の低下を押さえる為にはどうすればいいか聞いた方が良いかも知れないな・・・オレとポコは喉を使って喋れないからリフに任せる』
『わ、わかった・・・』
『頑張れリフちゃん!』
リフィンは目を閉じて一度深く深呼吸をすると、決意を込めたようにゆっくりと目を開いて、姿の見えない声の主に聞こえるように少し声を張る。
「突然お邪魔してすみません、私はリフィン・グラシエルと言います、この子はタキルでこっちはポコ・・・えーっと、ワキコキスキー・ウッド・ビュルルさんの書いた本を読んでいたら、本が光りだしていつの間にかこの場所に居ました。
水魔法と光魔法の効力の低下は、ゲートを閉じるために水の女神様と光の女神様がお力を使われている為だと聞きました。 奴隷の用にこき使われる他の水魔法使いの方を救いたいのですが、どうすれば良いのか教えて頂きたいのです。」
”・・・なるほどな、闇魔法が使えて転移が使えるとなるとアイツくらいしか思い浮かばんな、納得だ。
お主が言うようにミスティエルデの世界で水魔法と光魔法の効力が低下していってるのは知っている、すまないが残念な事に今すぐそれを解決する事は難しく、我々でもコレといった対策が打てないのが現状だ。”
「そんな・・・」
”しかし、お主からは懐かしい魔力を感じる。 名前は確か・・・えぐちしずくだったか? ふっ、あの変態も中々考えたな・・・やはり我々の想像を遥かに超える答えを持ってくるとは、流石というべきか・・・”
「えぐち・・・ですか? 私はそのような方とはお会いした事がありませんが・・・」
いきなりそんな懐かしい魔力とか言われても意味が分かりません。 えぐちって誰の事なんですかとよく分からない事を聞かれても困るだけのリフィンであった。
”はっはっは、喜ぶが良い、リフィン・グラシエルよ・・・お主に会わせたい者が出来たので案内しよう”
「はい、どちらに向かうわぁああ!?」
『ぎゃぁぁああ!?』
『ふえぇぇええ!?』
突如リフィン達は暴風に襲われる。
バランスを取る事は不可能で、空を飛んでいるかのような感覚に包まれる。 吹き荒れる暴風に耐え凌ぐしかなかったが、なんとかタキルとポコをキャッチして両手で抱え、暴風が止むまで必死に離れないように守るリフィンだった。
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しばらくしてゆっくりと暴風が止み、足先から地面の感触を感じたのだがバランス感覚を失っていたので尻餅をつくリフィン、ゆっくりと目を開けると白い石の板で出来た床が確認出来る。 驚きと混乱で硬直するリフィンに姿の見えない声の主は優しく声をかける。
”着いたぞ、リフィン・グラシエル”
「ここは・・・」
リフィンは乱れた髪の毛を手櫛ですきながら周囲を見渡すと、地平線まで見えそうな整備された綺麗な通路、ゆらゆらと煌めく白く光る燭台、そして目の前には大きな扉があり扉には[きゅーけーしつ]と平仮名で書かれていた。 リフィンは読めなかったのでタキルに読んでもらった。
耳を澄ますと扉の向こうから女性の声と思われる嬌声が聞こえてきた。 中で何が行われているのかは分からなかったが、不思議と扉を開けて見てはいけない様な気がしてくるリフィンだった。
なぜかタキルは『うっひょぉ!』と興奮していて鼻息が荒くなっており、それがリフィンにとっては鬱陶しく感じた。
ポコに関しては真顔な表情をしており、何も考えていないのか念話が一切聞こえて来ないので無視しておく。
”ゲートを塞ぐ水の女神の休憩室だ、今は休憩している時間帯の筈なのだが・・・あのバカだけは全く・・・”
「あ、あの、今は立て込んでいるようでは・・・」
”構うものか”
相変わらず姿の見えない男性の声の主は一つため息をつき、風の力で目の前にある扉をあける。
ギィと音をたてながら扉の向こうがひらけてくる、そしてリフィン達が目にしたのは、うつ伏せになり頬を赤らめる全身青色をした少女と、その少女の上に乗って抱きついている全身赤色をした少女だった。
「はっ放せ・・・溶ける・・・蒸発するの・・・」
「はーいシズルちゃんゲット~! ひんやりしてて気持ちいいぃ!! うるさいソヨグは勤務中で居ないしこのままお持ち帰りしちゃ・・・あえ?」
全身青色の少女は人間ではなく、水そのものが人型の形をしていて、若干透けて見える事から魔物の類いのようにも見える。 上に乗る赤い少女に抱きつかれて少し沸騰しているようにも見えるが、白い浴衣のような服は湿っていて燃えてはいない。
その上に乗る全身赤色の少女は常時姿が炎のように揺らめいて見え青色の少女と同様に魔物の類いに見える、極部は特に炎が揺らめいていて辛うじて隠されている。 その少女が発する熱はリフィン達の方まで熱気が飛び込んできて汗が流れる程だ。
「んげっ! なんでソヨグがここに居るのよ勤務中でしょ!? っていうかそこの可愛いの誰よ!?」
”それはこちらの台詞だモエル、お前も勤務中であろう・・・何ゆえサボっているのか理由を聞きたいのだが、とりあえずこっちに来い”
姿の見えない男性の声の主はソヨグと言うらしく、全身炎に包まれた少女のモエルを近づいて掴んだのであろうシズルと呼ばれた青い少女から遠ざけようと引っ張る。
「引っ張んなよソヨグ! わかった仕事に戻るから放せっておいぃいい!?」
”シズルはゲート閉鎖の為に少しでも体を休ませないといけないのに貴様が邪魔をするから最近シズルの調子が悪いのだ・・・罰として今から48時間労働してもらうぞ?”
「そんなの嫌ぁ! シズル成分が足りなくなって死んじゃうからそれだけは嫌ぁああ!!」
「・・・悪は滅びたの」
「ちょっとシズルぅ!?」
”おっとそうだ、リフィン・グラシエル・・・そこのシズルから話を聞くと良い、答えは既にシズクが持っている”
「わ、わかりました・・・」
『なんだこれ・・・』
『うけるー』
いきなり火の女神と水の女神を目撃して繰り広げられる喜劇に戸惑いを隠せないリフィン達であった。
見えないソヨグに引っ張られ、全身炎の少女モエルは悲鳴をあげながらだんだんと遠ざかって行く・・・
「・・・君は、どうしてここに?」
透けて見える青色の少女、シズルはうつ伏せで倒れたままリフィンに何の用件があって訪ねてきたのかを聞いてきた。
「私はリフィン・グラシエルと言います・・・水魔法の効力が低下していく今、奴隷の様にこき使われる他の水魔法使い達を助けたいのですが、先程の姿の見えないソヨグ様にすぐには解決出来ないと教わりました。」
「・・・なるほど、理解したの・・・教える」
そういって倒れていたままのシズルは、その場で立って身だしなみを整える。 背の高さはリフィンと同じくらい小柄でリフィンよりジト目だった。
「・・・入って」とリフィン達を部屋に案内する。
丸い小さな机とその両横に椅子が2つあったので片方をシズルがちょこんと座り「・・・どうぞ」と言ってリフィンに着席を促してリフィンが椅子に座るとシズルはゆっくりと小さな口を開き、優しそうな見た目からは想像出来ない強い口調でリフィンに迫った。
「・・・私は水の女神シズル、今はモエルの熱気により蒸発してこんな姿してるけど、本来ならナイスバディな女神なの・・・」
「・・・は、い」
『なんか、これが元の姿なんじゃねーかってオレは思うんだけど』
『ウチも』
『・・・』
「・・・聞こえてるの、今の念話」
念話を聞かれているとは思いもよらず、表情が固まる小鳥とタヌキ。
それを無視するかのようにシズルは水魔法の効力の低下について話を切り出した。
「・・・ミスティエルデでの水魔法の効力の低下は、全て未熟な私の責任・・・しかし水魔法使いの者達に力を分け与える余裕は無いの。」
「ゲート閉鎖の為にお力を使われているのですよね・・・」
「・・・その通り、同じく光の女神もゲート閉鎖に尽力している。 しかしまだミスティエルデでは光魔法の効力の低下は微弱といっていい程なの」
「・・・」
「・・・光の女神、ヒカルはミスティエルデでかなり信仰されているから力が衰える事はないの、それは光魔法が得意とする回復魔法や解呪魔法のおかげで信仰している人が多いの」
「み、水魔法は・・・まさか」
「・・・水魔法は回復魔法にはならないし、一般の水魔法使いでは他の属性の同程度の魔法使いに比べて弱く、水に対する信仰心も薄れてきている事から私の力が弱まっているの・・・私の努力が足りないせいなの」
ミスティエルデの人々の水に対する信仰心が低下しているから、水の女神シズルの力が弱まっているというのだ。
水魔法は戦闘には向かず、回復魔法にもならない、それが当たり前のような常識で育ったミスティエルデの人々に、水を信仰する事なんてまずあり得なくなっており、今や奴隷の用に働かされている水魔法使い達ですら水に対する信仰心が薄れてきている現状なのだ。
しかしそれでも運良くとはいえ、ここまで来たリフィンは諦めたくなくて、ソヨグが言い放った言葉を思い出してシズルに伝える。
「で、でもソヨグ様が、シズル様なら答えを持っているとおっしゃっていました!」
「・・・だからさっき君を見て、理解したと言ったの、君がどうやってここに来たのかは知らない、そして風の神ソヨグが言ってた”私が答えを持っている”というのは少し間違い・・・答えは”君が持ってきた”の」
「えっと、よく分からないのですが、私がどうして答えなのですか?」
「・・・君からは、えぐっちゃんの魔力を感じる」
先程もソヨグから懐かしい魔力を感じるとか言われて、今度はえぐっちゃんの魔力を感じると言われたリフィンは、一体誰なんですかその人、と心の中で思うも、見た事も無いし聞いた事もない人物なのに何故か他人とは思えないような気がしてくる。
そんなリフィンにシズルははっきりと告げる。
「・・・君は、私が力を与えた日本人、えぐちしずくの子孫なの」
リフィンは日本人の、えぐちしずくの子孫だった。 いきなりの知らない事実を聞かされて頭が混乱するリフィン
「・・・そ、そんなの今まで一度も、知り得なかった事なのにどうして」
「・・・でも事実なの、私は君に力を与える事は出来ないけど、与えた力を目覚めさせる事は出来るの・・・その力でミスティエルデの水魔法使い達を救って欲しいの」
「それは、皆を救いたいけど・・・そんないきなりっ___!?」
スッ、っとリフィンの胸元に右手をかざしたシズルは、リフィンの遺伝子の中に眠る、えぐちしずくに与えられた力を呼び戻す。
リフィンは急に薄れゆく意識をなんとか維持して、シズルの作業の終わりを待つ。 しばらくして作業が終わりシズルがリフィンの胸元から手を離した。
「・・・出来たの、すぐにえぐっちゃんと同じ力が使える訳ではないし、えぐっちゃん以上の力を得る事も出来ないと思うけれど、君の頑張り次第で水魔法への信仰が増える事を私は確信しているの。」
「う、うぅ・・・あまり実感が涌かないんですけど頑張ってみます。」
「・・・君には感謝するの、ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。 まだ頭がついて行けないくらい混乱しているのですけどね・・・」
「・・・では、私の役目はこれで終わりなの・・・また会えるといいの」
「そ、そうですね、次は心の準備が済んでからにして下さい」
思わぬ所で神様達と出逢え、先祖を知り、眠っていた力を手に入れたらしいリフィンは別れの言葉を交わすと、どこからともなく黒い眩しい閃光がリフィン達を包む。
『うぉっ!?またこれか!?』
『ばいばーいシズルさまー!』
「シズル様、この力で水魔法使い達を、そしてシズル様のお力になるように頑張ります。」
「・・・君、リフィンの健闘をここで見守っているの」
そうしてリフィン達は完全に真っ黒い光に包まれていった。
「・・・流石は変態賢者なの、死してもなお驚かされるの」
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