第11話ミスティエルデの世界

 宿屋<あけぼの亭>に戻り、ガラクの店で購入した本を早速開いてみるリフィン達

リフィンは相変わらずその本に書かれていた文字が読めなかったが、タキルとポコは読めるようなので念話で教えてもらう事にした。



『うっわまじかよ、これはすげぇもん買っちまったな・・・』


『え、そんなに凄いものなの?』


『ポコも表紙開いただけじゃ分かんない』



 表紙の面にはカタカナで”ミスティエルデの世界”と書かれていてポコには何がどう凄いのか分からなかったが、タキルには理解出来てしまったのだ。



『この本なんだけどな、著者がワキコキスキー・ウッド・ビュルルって書かれているんだわ』


『ぶっ!?』



 著者の名前を聞いて、急に吹き出してお腹を抱えるポコ。 ポコはギルドマスターと会った事が無いから分からないので仕方無かった。

リフィンは大好きな大賢者の書いた本と聞いて少し驚いてしまう。




『え、あの大賢者様の本なの? ギルドマスターのリョルルさんに渡した方が良くないかな?』


『うーん・・・あの人に渡しても読めないんじゃないか? 読めてたらあの人が回収しているはずだろ』


『え? ギルドのマスターが大賢者なの?』


『あー、ギルドのマスターの先祖が大賢者らしいんだわ』


『なるほど、なんか可哀想・・・』


『言うな、絶対に本人に言うなよ?』



リョルルさんが名前の意味を知ってしまったら首を吊りそうな未来が見えるのでタキルはポコに釘を刺す。



『やっぱり、私はこんな意味不明な文字見た事ないし、読めるタキル達の手元にあったほうが良いかも知れない』


『まぁとりあえず読んでみるけど、分かりにくいところあったら読み直すから言ってくれ』


『分かった・・・ちょっとまって、少しメモしておきたいかも』


『あいお』



リフィンは紙とペンを用意してタキルにお願いと伝えると、タキルは大賢者の書いた本を音読しはじめた。







[俺の名はワキコキスキー・ウッド・ビュルルである。


 んまぁ日本語で書いてるからこの世界の住民にはなんて書いてあるのかわからねぇんだけどな、もしこれを読める者は恐らく地球って星の日本から来た転生者か転移者、または独学で日本語を解読したこのミスティエルデの住民であろう。


 俺は日本からミスティエルデの世界に転移した転移者だ、元の名前は捨ててワキコキスキー・ウッド・ビュルルと名乗り現代知識と魔法を活かして活躍し、大賢者とまで呼ばれるようになった変態だ。


 なんで俺がこの世界に来れたかというと、ミスティエルデの六神に

”この荒廃した世界を救って欲しい”

と、俺の意志とは関係無しに連れて来られた訳でだな・・・


 実は俺以外にも転移者は居て、俺含めて12人の転移者が六神によってこの世界に送られた。 その12人は全員日本人で何故なのかと六神に聞いたんだが、理由は”扱いやすい”という何とも巫山戯た返事だけだったのだ。

確かに日本人は良く働くし、そこら辺の国よりマナーがあるし、親切だし扱いやすいだろうよ、こん畜生めが!


 で、俺達は六神に力を与えられ、俺には影や空間を操る力、闇魔法が使えるようになった。 

全部で属性は6つあり、火、水、風、土、光、闇の力を各種につき2人ずつ与えられたのだ。

そして俺達はこのミスティエルデの世界に降り立ち、魔物を狩って俺THUEEしながらこの荒廃した世界に文明をもたらす事になる。


 そりゃあもちろんこの世界の人間が使う文字なんて読めるわけでもなくいろいろと苦労したが、言葉は通じるようだったので現代知識を活かして発展させる事は容易だった・・・



訳ないだろうがバーカ! なんだよここの世界の住民はよぉ・・・

普通に略奪やら殺人やら、もう文字にしなくない危ない事だって日常茶飯事だったさこの世界はよぉ!

 シエロっていう同じ転移者の水魔法使いのくノ一に励まされながら、俺は頑張って平和な町づくりから利器の発明やら色々やったさ! でも壊されたり奪われたりで何度言っても理解してくれないのこの世界の住民はよぉ!


 で、十数年してやっと・・・やっと・・・ようやくある程度この世界の治安が良くなったと思ったらさ、六神がまた現れやがってこう告げたのさ・・・


”お前達を連れてきたゲートなんだが、閉めるのをうっかり忘れててな・・・いつの間にか広がってて閉じる事は最早不可能に近い、このままでは日本人の転生者がミスティエルデに流れ、日本人に乗っ取られてしまう・・・どうにかしてくれ”


とな・・・知るかボケ! 俺達にそんな力はねーし義理も人情もないわ! こちとら疲れてんだよ!

って言い放ったんだが、六神はそれでも引き下がらなかった。

このままじゃ返してくれないしどうしようかと転移した俺達12人で考えていたら、シエロの奴が面白い事を言ったんだ。


”ゲートの設定を変える事は出来ないのか”


とな、最初何の事なのか丸っきり分からなかった俺達だが、シエロが丁寧に説明してくれたら、なんとか解決出来そうだと六神も頷いたのだ。


 んまぁここでは割愛するが、簡単に言うとこうだ。

ゲートから流れてくる転生者を動物や魔物にすればミスティエルデの乗っ取りの可能性は低くなる、

また、転生する条件として不可解な死に方、マヌケな死に方をした人間で、動物にちなんだ名前を持つ日本人に限定するという設定に書き換えたことで流れてくる転生者は減るというものだ。


 あとはゲートを完全に閉じれば完璧なのだが、六神が言うにはゲートを完全に閉じるには最低でも数千年かかるそうで、ゲートを閉じる事の出来るのは六神の中でも水の女神と光の女神だけだった。 空間を操る事の出来る闇の神は何故か参加しないらしい・・・


 んまぁそこら辺はよく分からんが日本の近くにあるマリアナ海溝付近にゲートが繋がっていて、水を塞き止める為に水の女神の力が必要不可欠らしい。

水の女神と光の女神はゲート封鎖に力を使うということなので、ミスティエルデで水魔法と光魔法の効力が下がると告げた。 今すぐ落ちるという訳でもないが徐々に効力が下がってくるだろうとのことだ。


 いずれ水と光の魔法の効力が弱まってくるだろうが、俺はその時には死んでるからどうでも良い訳なんだが、でもやっぱり日本人だからなんだろうな・・・放っておけなくてよ、俺達はこの先の未来の事を話あった訳だ。


 だが、良い案は出て来なくてな、結局は水の女神と光の女神になんとか頑張ってもらうくらいしか出来なかったのだ。]








『・・・リフ、次のページをめくってくれ』


『わかった』



 そう言って何度ページをめくったのだろうか、本は半分程めくれており、窓を見ると辺りは静まり返り真っ暗になっていて、かなり読書に夢中になっていたようである。

 タキルに言われリフィンが次のページをめくると紙が数枚破られており、少しは続きが読めたのだが水魔法と光魔法の効力の低下を防ぐという重要なところが抜けていたのだ。



『ちょっと待ってタキル、この部分が分からないと水魔法の効力がこのまま落ち続けるって事なの!?』


『めっちゃ良い所なのにこんなのってアリ?』



 世界的に水魔法の効力が減少していたのはやはり間違いではなかったが、光魔法までもが低下しているとは思わなかったリフィン。

その原因がゲートを閉じる為に水の女神様と光の女神様が力を使っている為に、このミスティエルデでは水魔法と光魔法の効力が減少しているのだ。

ゲートを完全に閉じる作業は数千年単位必要らしく、水魔法がこのまま何年も徐々に弱まると姉を救うどころか他の水魔法使いすらも助けられないという事になり、おそらくリフィンすらも水魔法を行使できなくなるかもしれないのだ。


そう考えて焦るリフィンに冷静なタキルが本の続きを見ようと勧める。



『・・・まぁ待て、次のページを確認してみるべきだ』



 案の定、次の読める部分は文字が書かれていたので音読を再開するタキル。 しかし次の文章は書き殴ったような力強い文字で書かれていた。










[・・・ソがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!


 シエロの奴が貴族の男と結婚してやがったの! あのシエロが頬を赤く染めて貴族の男と幸せそうに寄り添う姿を想像してたらよ、これ書いてた俺はまじで怒り狂ってしまってな・・・この数ページ前の紙を破っちゃってたわ・・・すまんなこれを読んでる人、次のページに書くから許してちょ]





『・・・え?』


『・・・破ったのは大賢者だったんやな、なるほど納得だわ』


『あー、シエロって人寝取られちゃったんだね・・・』


『まぁこんな変態じみた名前の奴とは結婚したくないだろうさ』


『言えてるー』


『・・・タキル、そんなに大賢者様の名前って変なの?』


『・・・うん、これは説明したくないわ』


『まじで変態の権化』


『そ、そう・・・』



 リフィンの大好きで憧れた大賢者のイメージは、ガラスにヒビが入るような感じで曇ってしまう。

一体どういう意味があるのか分からなかったが、これ以上の詮索は良くないと頭をよぎるリフィンであった。


気を取り直して次のページに進み、またタキルに読んでもらう事にした。





[んまぁ俺がこの本にだらだらと書いても、それを読んで理解するっていうのは難しい話だな・・・まさに百聞は一見にしかずって奴だ・・・

 実はこの件に関しては俺は部外者でな、当事者の意見を聞くのが一番手っ取り早いだろう。

ってなわけで、実際に女神からお話を聞いてなんとかしてくれや・・・がんばってなー]











『いや、女神様からお話聞けって、どうすりゃいいんだよ』


『本当に大賢者の書いた本なのコレ?』


『・・・私の中の大賢者様の像が崩れていく』



 次のページに書いてあると期待したのに、書いてあったのは当事者に聞いてくれとのこと。

それに落胆するリフィン達は次のページにしようと本の紙をめくろうとすると、本が薄黒く光り出しリフィンの手から離れ宙に浮かんだ。



『え・・・えぇ!?』


『なぁっ!?』


『悪魔の書か何かかぁ!?』



 黒く輝き宙に浮かぶ本は次第に光の強さが増していく、一瞬、黒い閃光が辺り一面に広がりリフィン達は退避することも出来ずに黒い光に巻き込まれていった。


やがて黒い光は収まると、部屋にはリフィン達の姿が消え失せていて、黒く光っていた本だけが机の上に残されていた。

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