第10話アルモニカ探索

『リフちゃん! あそこで串焼き売ってる!』


『待って! あんまり私から離れちゃ駄目!』



 早朝、都市アルモニカの眩しくて活気のある街並を歩くリフィンは飛び出したポコに静止するように言い放つ。



『ぶぅ、お腹空いたの!』


『まぁ待てって、ここで逸

はぐ

れたらポコはただの食材だぞ』


『なにそれ酷くない!?』


『・・・タキルの言うとおりだよポコ、知らない人に捕まってタヌキ鍋にされちゃうかも知れないんだから!』


『・・・はーい』



 リフィン達は宿屋<あけぼの亭>を出て少し歩いた所にある朝市に訪れていた。

新鮮な肉や野菜、完成したばかりの洋服や武具などが各店舗に分けられていて、朝なのに多くの人で賑わっていた。


 空腹だったポコは軽食屋で串焼きを見つけ飛び出すもリフィンに止められる。 今のポコは他人から見たらただのタヌキであり、リフィンから離れて行動する事は食材に成りに行く行為に等しかった。



『リフ、ポコには何か首輪みたいなモノが必要じゃないか?』


『そうね、そのままだと食べられちゃうし何か対策を打っておかないとね』


『首輪以外でお願いします』



 いつもリフィンの肩に乗るタキルは良いとして、ポコは何かリフィンが飼っているタヌキだと第三者から分かるような物をつけないと攫われて食材になってしまうので、どうしたものかと考えるリフィンとタキル



『小さな鎧と兜を・・・』


『いや、重そうだしお金もかかりそうだしな・・・布っぽいのを着せるとかどうだ? スカーフ巻くとかパンツ穿かせるとか』


『いいねタキル、それ採用』


『首輪じゃなかったらそれでいいよ』



 こうしてポコはスカーフのマントとパンツを得る事になったのだが、洋服店にタヌキ用のパンツを売っている訳が無かった。

スカーフは赤色にしてポコの首に巻くと、それだけでも野生のタヌキには見えなくなる。 パンツはリフィンが宿で作る事になった。



『おー、これで野生のタヌキには見えなくなったね! リフちゃんありがとう!』


『どういたしまして、タキルはどうする?』


『オレは基本的にリフの肩や帽子の上に居るとするよ、視野だって広いし、いざという時は上空に逃げれる・・・まぁオレを捕まえて食べようとしても肉なんて小さ過ぎて誰も狙わないだろうよ』


『わかった、下手に何か付けたりしたら飛べなくなりそうだし止めておく』


『それもそうだな』


『・・・串焼き〜』


『ごめんねポコ、じゃあ買いに行こうか』



 ポコの腹の虫が収まらないのか、ぎゅうぎゅうと音が良く聞こえる。

リフィンに食べ物を要求するポコは贅沢な奴だなと思ったタキルだが、タキルもそれを頂くのでポコの事は強く言えないでいた。



 リフィン達は串焼きを数本購入して人気

ひとけ

の無い広場の椅子で食事を始めた。



『クセがあるけど中々いけるな、この串焼きの肉』


『そだねー、ちょっとパサパサしてて弾力あるけど、おかげでたくさん咀嚼出来るしお腹も膨れそう・・・何のお肉なの?』


『・・・ゴブリンの肉よ、昨日ゴブリンを倒したしその味を知ってもらおうと思ったからこれにしたの、それに安いから今のお財布事情には丁度良い』


『へー、じゃあ昨日ゴブリンを買い取ったギルドはこういう店に提供してんのか?』


『そういう事になるわね』



 なるほどなーと、ゴブリン肉を啄

ついば

みながら食べるタキルは、ある一つの疑問が頭の中に浮かんだので、もぐもぐと可愛く頬を膨らませながら串焼きを食べるリフィンに聞いてみる事にした。



『そういえばリフ、あの時くれた干し肉はたしか・・・牛の干し肉だったよな?』


『あ、ポコもそれ貰った!』


『うん、あの干し肉はムント牛っていう牛の肉で、王国

ヌツロスムント

で飼育されている高級な牛のクズ肉を干し肉にしてあるの、干し肉の割には高価だけど美味しいから保存食としては人気が高い・・・でもここでは売られていないようね』


『それは残念だ』


『ざんねーん・・・じゃあクエスト頑張って達成していって、いっぱいお金を稼がないとね!』


『そうだな、今は我慢して節約していこう』


『そうしてくれると助かるよ』



 現在のリフィンの財布の事情的に、高級そうな食材は控えるべきなので仕方が無いと節約する方針で固めたリフィン達は、とりあえず食事を済ませる事にする。

 しばらくして串焼きを食べきり、次はどこへ足を運ぼうかとリフィンは立ち上がると、リフィンと同じ目線の高さにいたタキルが少し遠くにある人ごみに目をつけて念話を飛ばしてきた。



『リフ、あそこの人ゴミは何やってるんだ? ガヤガヤ騒いでいるようにも聞こえるけど』


『ウチは視線が地面に近いから何にも見えないんだけど・・・』



 リフィンはタキルが言う人ゴミに視線を移すと、リフィンの顔が急に険しくなる。 実はリフィンにとってはあんまり見たくないものであったが、タキル達の為に言って説明するより直接見てもらった方が理解出来そうだったので連れて行く事にした。



『あれは・・・あんまり行きたくないだけど、直接見てもらった方が良いかもね』


『ん? リフがそう言うなら・・・そうするか』


『ポコ、抱えるからこっちにきて』


『はーい』



 リフィンはポコを抱き上げて外からポコがあまり見えないようにローブの中に隠す、ポコはリフィンの両腕で抱えられてリフィンの喉元から顔を出すようになって前が見えるようになった。

そして今一度、黒いとんがり帽子を深くかぶってリフィンの顔が少し隠れるとガヤガヤしている人ゴミの所へ向かった。


 少し歩いていくと鉄格子の檻がいくつも並べられていて、その中には何やら生き物

人間

が蠢いていた。 震えて怯えていたり、狂気に狂ったかのように暴れていたり、弱っているのか動かなかったりしていた。



『う、わ・・・タキルこれって』


『あぁ、奴隷市場だな・・・』



 奴隷市場、それは人として扱われない人間達を売買する市場の事だった。 鉄格子の檻の前には何やら文字が書かれている木のボードがあり、名前、年齢、罪状、犯罪履歴等が記入されていた。



『・・・リフ、オレやポコはあのボードの文字がなんて書かれているのか読めないから教えてくれないか?』



 リフィンの持っていた身分証にも記入されていたが、日本語でもローマ字でもなく、見た事の無い文字で書かれているのでタキル達はこの奴隷達のボードに何と書かれているのか読めなかったのだ。



『この人達は犯罪奴隷で、重い犯罪を犯した者は捕まると奴隷落ちなるの・・・そこの虚ろな目で座っている人は窃盗、強盗、殺人の罪で奴隷になったようね。』


『ざまぁ!』


『おい・・・で、こいつらはどうなるんだ?』


『素直に言う事聞くようなら炭坑送り、そうでないなら・・・』


『そうでないなら?』



 リフィンは先程から鉄格子の中で暴れていた犯罪奴隷の方をみると、タキルとポコも同じように視線を合わせる。

暴れていた犯罪奴隷の周りに長い槍を持った兵士が数人集まり犯罪奴隷に槍を向ける、一人の裕福そうな男が隣に立ち犯罪奴隷の名前や罪状等を高らかに掲げると、それに興味を持った住民達が見学しようと集まる。 あっという間に人ゴミが形成されてリフィン達はそれを見れなくなった。



『すごい人だね・・・』


『うん、もう離れた方がいいかも知れない』


『賛成、別のとこ見学したいぜ』



 リフィン達は奴隷市場から背を向けて別のところを見学する事にする。

程なくして背後から「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」と歓声が上がった。

リフィン達は先程暴れていた犯罪奴隷が殺されたのだと理解してしまった。











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 一通り街を見て回り、ある程度地形を把握したリフィン達は宿に帰ろうと歩いていると、壁に穴が空き屋根はボロボロに風化して今にも崩れ落ちそうな程に古い<ガラクの店>と書かれた小さなお店を見つける。



『なんだあのボロそうな家・・・人住んでるのか?』


『ガラクの店って書かれているからお店だったんじゃない?』


『うーん・・・でもちょっと寄ってみたい!』



 大して見るような物は置いていないと思いながらも、ポコが寄ってみたいと言うのだ。 何も無ければすぐに帰るつもりなので寄ってみるくらいなら良いだろうとリフィンはガラクの店に入った。



「ごめんくださーい・・・」


「あらんまぁ! こげな店にえれぇきれぇな別嬪さんが来るとは思わなんだのぉ、物好きかぇ?」



<ガラクの店>に入ると、白髪をはげ散らかした、腰が90度くらいに折れ曲がって杖をついているヨボヨボなおじいさんが出迎えてくれた。



「あーいえ、ちょっと寄ってみただけなんですけど・・・」


「んまぁ!それでもえぇ・・・わしがここの店のガラクじゃけぇ、んまぁ元々は雑貨屋をやってたんじゃがいつの間にかゴミ溜めみたいな所になってのぅ・・・んまぁ大した物は置いてないんじゃがゆっくりしていけぇぃぁ」


「では、少しだけ見物させて頂きますね」



リフィンは埃だらけの棚に無造作に置かれている品物、もといガラクタを眺める。


ゴミ、ガラクタ、ゴミ、ガラクタ、ゴミ、ガラクタ、ゴミ、ガラクタ


 もう少し丁寧に説明すると、壊れたオモチャ、折れて持てない箒、欠けて錆びた包丁、破れて読めない本、等どれも使い物にならない物ばかりで購入するにも躊躇われるものばかりだった。



『流石にこれは酷過ぎよね・・・』


『だねー・・・ごめんねリフちゃんもう帰ろう』


『うん、タキルも___』


『いや、待て・・・』



 帰ろうと促そうとしたリフィンを遮り、何かを見つけたタキルはリフィンの肩から飛び降り、一冊の本の前に止まってリフィンに”コレ”と示す。

それを見たポコも何か感づいたようであったが、リフィンにはその一冊の本が何なのか分からなかった。



『リフ、この本を買ってくれ・・・財布の事情としては節約するべきなんだろうが、お願いだ』


『何その変な文字が書かれた本は・・・』


『ウチからもお願いします! この本が欲しいです!』


『・・・わかったわ、ちょっとおじいさんに値段を聞いてみて高かったら諦めてね』


『わかった』



 リフィンは何の文字なのかよく分からない一冊の古い本を手に取り、おじいさんに金額は幾らなのか尋ねた。



「んまぁ!そりゃぁなんじゃったかのぉ・・・んまぁ!わしが読める本でもねぇけぇ、んまぁ!あっても邪魔やし銭貨3枚でえぇでぇ!」


「本当ですか、有り難うございます!」

『よっしゃ!』

『めちゃ安くて助かった!』



リフィンは銭貨3枚をおじいさんに渡し、古びた本を手に店を出る。



「んまぁたけぇよ!」


「あはは・・・行けたら行きます」


『それ、もう行かないって遠回しに言ってるだけだからな?』


『もう用事はない筈・・・』



 リフィンはこれが何の本なのか分からなかったが、タキルとポコが目を輝かせてまで欲しいと言った本なのだ、じっくり宿屋で教えてもらおうと思ったのだが、その必要は無かったらしい。



『ポコ、日本語で書かれているぞ日本語で!』


『ひらがな!カタカナ!漢字!』


『・・・え?』




変な文字で書かれていて全く読めない本なのだが、どうやらタキルとポコは読めるようだった。

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