第8話薬草採取の報酬
「おつかれリフちゃん、無事に帰ってきてくれて良かったわぁん♡」
「エルザさん、ただいまです・・・予想以上に肩と腰が痛くなりますねこの依頼」
「これも基礎体力作りの一環よぉ? 魔法が使えないんじゃ頼りになるのは自分の体だけなんだから鍛えておいて損は無いわ」
「そ、そですね・・・では早速薬草の納品をお願いします」
「わかったわぁん、ちょっと薬草見せてもらえるかしら?」
薬草採取を終え、ようやくアルモニカにたどり着いた頃には夕方前だった。
小柄なリフィンではゴブリン討伐より薬草の運搬の方が体に負担だったようで、アルモニカギルドに到着した時には、足はプルプルと震えており、腰に違和感を感じ、肩が重く力が入らなかったのでギルド内にある備え付けの椅子にぐでっと腰掛けるリフィン。
そのリフィンにくっつくように移動し、リフィンが椅子に腰掛けると足下でぐでっとうつ伏せになるポコもお疲れのようだった。 リフィンは薬草を運ぶのに精一杯なので、倒したゴブリンはポコに引きずって運んでもらったのだ。
それを見たエルザはリフィンに問いかける。
「あらやだ可愛いわぁん、なにそのタヌキちゃんは?」
「あ、エルルの森で出逢ったポコです、餌をあげたらいつの間にかテイムしてました。」
「そのタヌキちゃんは幸福ね、こんなにも可愛いご主人様がいるんだもの」
「うぉーん!」『ありがとオネエさん!』
「いやぁん可愛いわぁーん、アタシもエルルの森に行って可愛い動物を探して餌付けでもしてみようかしら? ちなみに今の鳴き声はなんて言ってたの?」
「ありがとオネエさん、と言ってましたよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃなーい♪ アタシをオンナとしてちゃんと認識しているのねぇん」
「あはは・・・ゴブリンの死体を入り口の外に置いているのですが、それもお願い出来ますか?」
「あら本当? そういうのは早く言ってくれなきゃ~、確認するからちょっと待って貰えるかしら?」
「はい」
エルザはギルドの入り口を見てゴブリンの死体をひょいっと片手で担ぎ軽々と回収した後、討伐報酬を用意するからもうちょっとゆっくりしてて頂戴、とバックルームに姿を消す。
『めっちゃゴブリン重かったのに何あの怪力・・・』
『エルザさんだからね・・・でもありがとポコ、私は薬草運ぶのに精一杯だったから助かりました』
『どういたしましてー! しかしリフちゃん冒険者なんだね、知らなかったよ!』
『冒険者になったばかりで、今やっと最初の依頼がこなせたところだよ』
『ほえー、じゃあウチはリフちゃんが冒険者になって最初の仲間なの?』
『うん、そうなるかな? 肩で不貞腐れてるタキルは冒険者になる直前で仲間になったけど』
『・・・別に不貞腐れてる訳じゃないからな?』
『あ・・・タキル先輩、タヌキのポコです、よろしくお願いします!』
『あぁ、よろしく頼む・・・そのままタキルって呼んでくれ、オレもポコって呼んでいいか?』
『うん! リフちゃんと一緒に強くなろうね!』
『そうだな、オレも戦闘に関して何か役に立つような事を覚えないとな』
『ウチはね、リフちゃんを守る騎士になるの! 昔から騎士には憧れててねー、本当は守ってもらう方が良かったんだけど、今はタヌキだしねぇ・・・』
『っ! そうか、じゃあオレは斥候とか伝令役だな、夜目も効くし情報伝達にはもってこいの飛行速度だ。』
『なるほど、タキルは今後そのように使えば言い訳ね』
『スパイとかも出来そう!』
『はは、機会があればな・・・』
タキルが斥候や偵察で周囲の状況を念話で知らせてくれればより安全に行動が出来るようになり、ポコが前衛で足止めをして、後衛からリフィンが魔法で敵を殲滅する。
非常にバランスの取れたパーティーだが、自分の魔法の殲滅力を考えるとまだまだ安心出来ないと、リフィンは自分の弱さを感じた。
火の魔法なら対象が燃えて崩れ落ちるが、水の魔法はただ濡れるだけなので攻撃魔法としては期待できない。 どうにかしてそこを克服出来ないかと考える。
タキルはポコの発言から、タキルと同じような転生者なのではないかと考え、後でリフィンが寝静まった時にでもちょっと話を聞いてみようと思ったのと同時に、今後リフィンの役に立つならばタキル自身も魔法を扱う事が出来ればある程度楽に立ち回れるのではないかと感じ、とりあえずの方針は魔法の習得を第一にする事にした。
「おまたせリフちゃん、今回の依頼の報酬とゴブリンの買い取り価格を合わせたものよ」
エルザがバックルームから戻ってきて、お金が入った茶色いひも付きの袋を持ってきてリフィンの前に置く、リフィンは報酬の金額を数えてみると薬草採取の分の報酬がほとんどで、ゴブリンの討伐報酬は微々たるものだった。
「有り難うございます、ゴブリンはそんなにお金にはならないんですね・・・」
「そうね、ゴブリンは冒険者じゃなくても成人男性でも剣を振り回してたら倒せるし討伐報酬はかなり低いんだけど、リフちゃんが持ってきてくれたゴブリンは首の骨が折れて死んだだけで、その他に外傷も無くて非常に状態が良かったからこれでも多めなのよ?」
「そうだったんですか」
この世界のお金は、基本的に貨幣であり銭貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と分けられており、銭貨1枚が1円、銅貨100円、銀貨1万円、金貨100万円、白金貨で1億円という感じで使い分けられている。 造幣局は国ごとにありモニカ公国の単位はモニである。
ちなみに一般の男性の平均年収は金貨1枚である。
「しかしどうやって首の骨を折ったのかアタシは興味あるわぁん、一般の冒険者なら剣でズバっと斬ってその残骸を持って帰ってくるのにねぇん」
「それは・・・秘密です」
偶然にもポコが息の根を止めたなんて言える訳も無く、実はリフィンにはゴブリンに致命傷を与える有効打が無かったというのもあって、エルザには言えなかった。
「うふふ、謎の多いオンナはアタシ大好きよ? 流石はベスト8の実力なのかしらね?」
「そういう事にしておいて下さい、では私は宿を取りに行きますのでまたよろしくお願いします。 明日はこの街の観光と地形把握する予定です、この街は広くて道に迷いそうですから」
「お疲れ様、宿は昨日教えた所がおすすめよ、また待ってるわぁん」
エルザに一礼してからギルドを出たリフィンは、昨晩エルザに教えてもらった宿<あけぼの亭>に向かう。
あけぼの亭は2階建てで屋根の上には綺麗な鶏の看板があることが有名で、近くに時計塔があるらしいので時計塔を目印にして宿を探すことにした。
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「戻ったぞオカマ野郎、緊急の依頼っていうから強い奴と戦えると思ったのにただの雑魚い盗賊2人だけだったじゃねーか」
リフィンがギルドを出てしばらく経つと、エルザの元に一人の長身の男がやってきて文句を言い放った。 その男は鋭く燃えるような眼光をしており、髪も同じく燃えるような赤い色、整った顔立ちではあるが怒りにより歪んでいた。
「おかえりなさい、情報によれば捕り逃した盗賊2人がエルルの森に逃れたって事だったけど、どうやらちゃんと捕まえてくれたようねぇん」
「巫山戯るな、強い盗賊頭がエルルの森にいるって聞いたから緊急の依頼を受けたんだ。 行ってみればただの下っ端だったとはどういう事だ?」
「うふふ、そう言わないとアナタは動いてくれないじゃない、問題児君?」
「っち、上手いように扱われただけかよ、しかし報酬は提示額と同等の金額を頂くぜ?」
「えぇ、とりあえず身元確認してからになるけどそれでいいかしら?」
「Z・Gに免じて多少はまけてやる・・・次は本当の依頼を寄越すんだな」
そう言って長身の男はギルドを後にする。
エルザはほっとため息をつくとテーブルの引き出しの中にあった長身の男に受けさせた依頼を見ると、依頼人の名前はZ・Gと書かれていた。 実はエルザの名前のイニシャルであるがこれを知っている人はほんの一握りだ。 彼に本名を言った覚えは無いがどこかで知り得たのかもしれない。
この依頼はエルザが作ったもので、エルザがリフィンの身を案じて当時冒険者ギルド内に居た一番実力のある冒険者に、盗賊が逃れたという嘘の情報で依頼を出したのであったが、本当に盗賊を捕まえてくるとは思わなかったのである。
リフちゃんをここで見送った後しばらくして、心配しすぎてどうしようも無かったから丁度問題児が依頼を探しに来てくれて助かったわぁん。 アタシが出した嘘の依頼が本当になるなんてラッキーだったわぁん、怪我の功名ってこういう事なのかしらぁん?
今回の経験を活かして、次回からリフィンに依頼を任せるときはもう少し安全なものを用意しようと未受領の依頼に目を通したのであった。
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