第7話ゴブリンと遭遇

あれ? さっきの女の子が居ない!?


 タヌキになっているウチに干し肉と木の実をくれた女の子、名前は知らないけど黒のとんがりぼうしとローブを着た青い髪の小柄な少女をウチは今探しているの!


 食べ物食べたらお腹いっぱいになって頭を撫でてくれてたら気持ち良くなって寝ちゃったんだけど、起きたらその女の子が居ないのよぉお! 恩返しとかしたいし、あわよくば連れてって欲しい! 起きたら元の世界に帰れるとか思ってたけど全然そんなこと無かったし!

 この先とても不安だから一人じゃ・・・いや一匹か、一匹じゃやっていけないよぉお! どこに行ったんだろさっきの子、連れて行って貰えなくてもいいからせめてもう一目だけでも会いたい! タヌキってイヌ科だったような気がするから臭いでどこに行ったか分かりそうなんだけど、そんないきなり言われてもわかるかーい!


とりあえずそんなに時間は経っていない筈だから、さっきの子を探そう!







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 収穫カゴ2つをモグロ草いっぱいにして天秤棒で運んでいたリフィンだったが、予想以上の重さに耐えられずドサッとカゴを降ろす。



『ちょっと休憩させて・・・』


『あいお、まぁ無理せず運んだ方が身体の為だな』


『・・・そうね』



 やっとエルルの森の入り口にたどり着いたところで一旦休憩する事にした。 歩行距離としては全然進めていないのだが遠目でアルモニカの城壁が見える。

目標地点が見えるだけでも気が楽になるのでリフィンは安堵した。



『あんまり重労働は好きじゃないけど、やっぱりゴールが見えてるだけもうちょっと頑張れそうな気がする。』


『確かに、重い荷物を持って地平線の果てまで運べっていうより気が楽かもしれんな・・・』


『まぁでも休憩はする』



 草むらの上に倒れて空を見上げると、どこまでも広い晴天が続いていた。 雲は少なく風も穏やかで草木の臭いがして鼻がくすぐったい、少しばかり太陽が眩しくジリジリとリフィンの肌や服を暖めてくる。



『暑い・・・水飲むけどタキルは?』


『頂くわ、オレも丁度喉が渇いてきたところだ』


『・・・はい』


『ありがと・・・・・・・・・くぅぅぅっ!冷えた水うめぇ!』


『生き返るー』



 リフィンはチャプチャプと水を飲むタキルを見て思う、さっきのタヌキはもうどこかへ去ってしまったのだろうかと、出来るのであればもう一度あのフサフサした毛並みに触れたいものなのだが、野生動物だからまた遭遇出来るとも限らない。


 水を飲み終え、また重い天秤棒を担ごうとしたリフィンだったが、近くの茂みからガサガサと物音が聞こえてきたのでリフィンとタキルはそちらに首を向け茂みの中を見つめた。



『・・・さっきのタヌキかな?』


『さぁ? 少しずつ近づいてきているな』



 ガサガサという音は次第に大きくなる、目を凝らしてみても姿が確認出来ないので小型の生物だと推測したリフィンは『タヌキ! タヌキ! タヌキ! タヌキ!』と無自覚に念話を送るほどで、オレよりタヌキなのかよ、まぁタヌキだったらいいなぁと少し嫉妬を覚えつつもタヌキにまた会いたかったタキルだった。


 そしてガサガサという音が一層大きくなりついに茂みから姿を現したのは、リフィンよりも小柄な身長、ドぎつい三白眼、大きな鼻と尖った耳、下腹がポコンと出ていてボロそうな腰蓑一丁、手にはトゲトゲの棍棒が握られておりその棍棒には黒くなったと思われる血の跡、そして全身は緑色をした皮膚していた。


みんな大好きゴブリンである。



「ゴォブォア!?」


『ゴ、ゴブリンじゃねーか!? マジで本格的エンカウントなんだけどぉ!?』


『・・・タヌキじゃない』


『いやいやいや、敵ですよ敵!』


「ブォアァァアアア!!」



 ゴブリンも遭遇時は驚いていたのだが、相手は弱そうな女子供たった一人だけだから楽勝で倒せる、と認識した様で叫んで威嚇しながらリフィンに襲いかかってくる。 タキルはビックリしたのかリフィンの肩から飛び立つ。



『大丈夫、ゴブリン程度ならトーナメントの相手より弱いから』


『おぅ! おやびんやっちゃってくだせぇ!』


『・・・次それ言ったら焼き鳥にするから』


『あっはい』



 襲いかかってきたゴブリンに、リフィンは持っていた杖で迎撃する。 ゴブリンの振り下ろした棍棒を杖で弾き、すぐさまゴブリンの胴体を杖でなぎ払う。


ゴブュアァアアっと悲鳴をあげ一度距離を開けるゴブリン、ただ杖で胴体をなぎ払っただけなので目立った外傷も無く、まだ襲いかかってくる気概もある。 一度リフィンの攻撃を食らっても全然余裕だったのか、それともただ単に怒っただけなのかは分からないがゴブリンは怒号を発しもう一度リフィンに襲いかかる。



「ブォアァァァァァァァァァァァァアア!!!!」


『っ!』


「ゴブュアァアア!?」



 ゴブリンは先程と同様に棍棒を弾かれて杖で胴体をなぎ払われた。 ゴブリンはすぐに体勢を立て直してリフィンに襲いかかるも、リフィンはゴブリンの攻撃を弾き、躱し、防ぎ、軽快なステップでゴブリンを翻弄する。



『すげぇなリフ、攻撃をほぼ読み切っているじゃねーか!』


『攻撃を弾いたり躱したりするのはちょっと得意なんだけどねっ! よっと!』


『・・・まぁリフの実力も分かったしもうゴブリンにトドメ刺さないか?』


『そうね・・・タキル、私が水魔法を生物相手に使用するのは初めてなんだけど、格好よく決めるから光栄に思ってよね! 学生時代、一人でこそこそと練習して何度もカカシを倒した威力があるんだがら!』


『お? おぅ! 格好良くキメてくれ!』



 そこまで言ってタキルはふと思った、水魔法でカカシを倒すっていうのは水量でカカシを押し倒したって事では・・・いやしかし、学校で一人練習をしていたらしいし、オレの前で格好良く倒すと言ってくれたのだ、今はリフィンを信じて見守ろうではないかと・・・


 リフィンに攻撃が当たらない事で半狂乱になりつつあるゴブリンは焦りと疲れから、棍棒を振る攻撃が大振りになっていた。

リフィンはゴブリンが棍棒を空振った時の硬直を狙ってゴブリンの顔面に魔法を放つ。



「ウォーターボール!」


「ゴボボボボッ!?」



 リフィンの放ったウォーターボールはバケツ5杯分くらいの水量で勢い良くゴブリンの顔面に的中しゴブリンは水の勢いに負けドサッと仰向けに倒れしばらく動かなかった。


ゴブリンを水魔法で倒したのでタキルに向かって親指を立ててドヤ顔を決めるリフィンだったが、タキルは難しい顔をしてゴブリンを見つめていた。



『よし!』


『・・・』


『どうしたのタキル、あまりにも格好良過ぎて放心した?』


『・・・・・・いや、まだ生きてるぞゴブリン』


『え!?』



 リフィンがゴブリンの方を向くと、全身びしょ濡れ状態のゴブリンがゆっくり起き上がろうとしていた。 リフィンという敵わない強敵にゴブリンは恐怖を覚えておりすでに戦意は喪失していたが、油断しないようにリフィンは杖を構えて警戒する。



『・・・少量の水ぶっかけただけで生物が、ましてや、ほ乳類が死ぬと思ってんの?』


『うっ・・・カカシは倒せてたんですけど』


『カカシは倒せるだろうさ、倒すだけなら問題ないがカカシを傷つけたり破壊したりは出来なかったんだろ?』


『・・・その通りです』


『確かに魔法を命中させるところまでは格好良かったさ、そこは認めるけど、うん、格好悪かったな』


『っく!』



 タキルにボロクソ言われて顔をしかめるリフィン、そんなリフィンの顔を見たゴブリンは怯えて茂みの方に走り出して行く、まさか逃げるとは思わなかったリフィンはゴブリンを追おうとしたが、こっちをみて走っていたゴブリンは何かに激突して仰向けに倒れて動かなくなる。



ドガァァーッボコリィッ!!



「ゴブァ!?」


『・・・痛った~い』


『『・・・え?』』



リフィンでも、タキルでもない念話の声が聞こえてきて、思わずリフィンとタキルは顔を合わせてお互いに顔を横に振る。



『リフ・・・じゃないよな?』


『タキルでも、ないよね?』


『ってことは・・・』



 リフィンとタキルはゴブリンの方を向く、まさかゴブリンが念話を・・・と、考えもしたがゴブリンは倒れてから全く微動だにぜす、その隣に居るゴブリンより小さい生物が頭を抑えて震えている事から、それは違うと確信した。



『痛たた・・・あ! さっきの女の子見つけた!!』


『タ、タヌキが喋ったぁぁぁああ!!』


『・・・鳥が喋ってるんですけど』



 タヌキはリフィンを見て勢い良く走って近づいてくると尻尾を振りながらリフィンの足下で停止し、リフィンはその場でしゃがんでタヌキの頭を撫でる。



『さっきは水と食料くれてありがとー! もう会えないかと思ってたけどまた会えて良かったー!』


『どういたしまして、お礼にそのフサフサを触らせて』


『是非是非! ・・・って何でかな? 声が聞こえるのは気のせい?』


『気のせいではないよ、私たちは念話で会話しているの』


『嘘ぉ! そんな力があるの? でも気持ちが伝えられて良かったー!』


『驚いているのは私もなんだけどね、いつテイムの魔法が発動したのか全く分からなかったし・・・』


『お姉ちゃん動物使いなの?』


『(水)魔法使いなんですけど・・・』


『あ、そういえば魔法で水を生成してたねー、すごいすごい!』


『そんな事ないよ、まだまだ駆け出しなの』


『・・・なんかジェラシー

嫉妬を

感じるな』



 リフィンとタヌキが仲良さそうに念話しているのを傍聴していたタキルは、動かなくなったゴブリンに近づいて行くとゴブリンが白目で首をねじった状態で倒れていた。 おそらく首を横にしてリフィンを見ながら逃走している時にタヌキが頭にぶつかって首の骨が折れて息絶えたのだろうと推測する。


タヌキが手柄持っていったようだが何故か既にリフィンがテイムしていたようなのでリフィンの手柄になるのか? 



『リフ、このゴブリン死んでるけど処理はどうするんだ?』


『え、嘘!? さっきウチがぶつかったのってゴブリンだったの!?』


『ポコ凄い! 大手柄だよ!』


『やったぁ! リフちゃんに褒められてポコ嬉しい!』


『もう名前まで付けて・・・やっぱジェラシー

嫉妬

だな』



 仲良さそうに歩いてくるリフィンとポコに嫉妬を覚えたタキルは、リフィンの肩に飛び乗るとポコに鋭い目つきで上から煽る。 もちろん無言でだが肝心なポコは死んだゴブリンの上で飛び跳ねていた。



『敵将、打ち取ったりー!』


「くっ、何それポコ、面白い!」



 ポコが死んだゴブリン上で何やらポーズをとっていた、何が面白いのかリフィンまで笑っていた。



オレ、リフとこんなに仲良く接した覚えないんだけど、いつもオレに対しては冷たい態度とってるのに! 新参者の分際でオレのリフィンを奪おうっていうのかタヌキ野郎ぉぉおぉぉぉおお!!



タキルは沸々と身体

の底から嫉妬という怒りが込み上げてくるのを必死に耐えていた。

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