第6話タヌキ

ウチの名前は田沼皐月。


 28歳彼氏無し、幼い頃から都会に行く事を夢見てて、修学旅行で一度東京に滞在してからは都会に住みたいって気持ちが押さえきれなくなって、高校卒業した直後に東京に住み込んで職探ししたんよ。

 とにかく漫画やアニメが好きでメイド喫茶とかアニメのキャラクターのグッズを売ってるところでバイトして毎日幸せに暮らしてたんよ。


 特にウチが好きなジャンルはBLっていうやつでね、2人のイケメン男が恥じらいつつも綺麗でたくましい肉体をぶつけ合う作品が好きなんよ。

 いわゆる腐女子って呼ばれる男の人がちょっと近寄り難い存在だったせいか、全然彼氏が出来なくてね、コミケで知り合った友達に男の人を紹介してもらったんだけど、イケメン過ぎて鼻血ブシャーってなって、あれやこれやでイケメン君のホモダt・・・友達たちと仲良くなってね、交際までは進展しなかったんだけどウチはめっちゃイケメン君に惚れてて、もしイケメン君とその友達が合体しちゃったらって想像してたら、ついうっかりそのイケメン君をモデルにした危ないBL同人誌を描いちゃったの!


 あんまり絵は得意ではなかったんだけど何故かすんごい(悪い意味で)注目される作品になっちゃっててね、それを読んだモデルのイケメン君達にまるでゴミを見るかの様な目で見られてからそれっきり疎遠になっちゃって・・・


 でもウチが描いた同人誌はシリーズ化してたから次の納期までに原稿を完成させないとーって頑張ってたの。

しかしウチにとって失恋はかなりショックでね、ハートブレイクだったの、でも2次元のイケメン君を描きたいが為にバイトを休んで何日も徹夜し、栄養ドリンク漬けでもう少しで原稿が完成ってなところで締め切り最終日・・・


出来たーっ! とやっとの想いで原画が完成して嬉しさが込み合って背伸びしたとたん、原稿の山にインクがこぼれてしまってギャァァアアアって発狂したところまでは覚えているんだけどそれからの記憶が無くてね・・・



 で、今のウチがどうなっているのかというと、

茶褐色の体毛、四肢が黒い、尻尾がふさふさで太く、四足歩行の状態が確認出来てね・・・水たまりに映ったウチの顔は、イヌっぽいんだけど目の回りに黒いふちがあってね、どうみても森の中に居るタヌキな訳ですよ。


 んで、よく分からないけどこの世界にはモンスターがいてね、ゴブリンやスライムがその辺をうろうろしてるの。


モンスターに捕食されないように逃げてたら人間がいてね、顔はブサイクだったけどボロそうな服装の男が2人仲良さそうに何か会話してたの、丁度歩き回ってお腹へっていたので食べ物くれるかなーって愛想良く近づいてみたらまさかまさかの、ウチを襲ってきたの!

ウチを見ると男達は舌なめずりして、懐からナイフを取り出したの! ウチを殺して食べる気まんまんじゃん!? ってなんとか命カラガラ逃げてきてなんとか逃げ切ったかと思えば、ドス黒い触手のど真ん中でした。

この気持ち悪い触手から逃げなきゃいけないのにもう歩けない、お腹空いたし疲れたし意味分かんないし、夢なら覚めて欲しい、原稿を描き直さなきゃいけないのに・・・









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『・・・タヌキか?』


『ちょっと弱ってそうね、様子をみてみる。』



 モグロ草の採取でエルルの森を訪れていたリフィンとタキルは、ガサガサと草むらの方から物音と犬のような鳴き声が聞こえたので注目してみると、一匹の弱ったタヌキがドス黒いモグロ草の上でうつ伏せになっていた。 リフィンは弱ったタヌキの様子を見るとどこも怪我は無かったが、毛並みが乱れていてぐったりとしていた。 どうやら何かから逃げてきたかの様だったがそれが何なのかはわからない。



『何かから逃げてきたようね』


『そうか、ちょっとこの辺を見渡してくる』


『うん、お願い』


『まかせろ』



 周辺に危険な生物がいないかどうかを確認する為にタキルは空へ飛び立った。 

リフィンはタヌキを両手で抱えて倒木の上に腰掛け、水を生成し平皿に入れてタヌキの前に出すと、ジャブジャブと舌を使って水を飲み始めた。



「おぉ、かわいい」


「うぉ〜ん」



 勢い良く水を飲むタヌキにリフィンは心を奪われてしまう、タキルを拾って水をあげた時もそうだったけど、動物が水を飲む動作は可愛く、そして純粋で、生命力に溢れていた。


人間はコップという道具を使って水を飲むが、もし人間が野生だったらどうやって水を飲むのだろう等と考えている内に、いつの間にか水を飲みきったタヌキがおかわりが欲しいと言わんばかりに尻尾を左右にブンブン回し、綺麗な黒色のつぶらな目でリフィンを見つめていた。


あまりにも可愛いその光景に負けたリフィンはバッグから干し肉を取り出すと、平皿の中にちぎって入れた。

入れた途端にタヌキが食べそうになったので「待て」と右手でタヌキの顔の前に出して静止させる。

「待て」が理解出来たのか大人しくなるタヌキ、

尻尾はビンビンに暴れ回っていたがそれがリフィンにとってまたタヌキが可愛らしく見えたので、バッグから追加で木の実を取り出して皿の中に入れて「良し」と言うと、余程お腹が空いていたのであろうガツガツと木の実や干し肉を食べ始めた。



 それから追加で水を飲ませたらお腹がいっぱいになったのか、タヌキは気持ちよくリフィンの膝の上で寝てしまった。

幸せそうな寝顔で寝るタヌキの頭をフサフサと優しく撫でたリフィンは、タヌキを膝から降ろしてリフィンが座っていた倒木の上に乗せると薬草採取の作業に戻っていった。







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 薬草採取を再開して数時間が経ち、遂に収穫カゴ2つをモグロ草でいっぱいにする事に成功する。

リフィンの手は真っ赤に汚れていて、ローブも帽子も少し汚れていたので水魔法で軽く洗い流した。



『お疲れ様やで』


『うん・・・疲れた』


『さっきのタヌキは?』


『多分、向こうの倒木の上で眠ってる、エサもあげたからもう大丈夫だと思う』


『そうだな、まぁ無事ならそれで良かったわ・・・それと周辺を見て回ったんだが、南に盗賊っぽい男が2人居たわ』


『そう、じゃあ早くここから退散しないとね』


『んじゃ帰るか』



 ふぬぅ! と天秤棒に肩を掛けて収穫カゴ2つを持ち上げるリフィン。 その小さな体躯ではかなり重いだろうが、エルザにこれくらいは出来ないと冒険者失格とまで言われているのでなんとかして運ぶリフィンであった。

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