第5話モグロ草
「そういや魔法使いの格好してるけど、たしか魔法が使えないんだったよな?」
ギルドマスターのリョルルさんがリフィンに質問してきた。 おそらく昨日リフィンが書いた書類を読んで気になったのであろうが、リフィンはあらかじめそう聞かれる事が分かっていたのであろう、すぐに言葉を返した。
「はい、私はまだ魔法が使えませんが魔法を日々学んできました。 才能は無いかもしれませんがいつか魔法が使えるその日まで私は魔法使い見習いで在りたいのです。 あと、この格好してたらどんな魔法を使う魔法使いなのか分かりませんので襲われる確率が低くなるからです。」
「・・・なるほどな、しかしあの魔法学校のトーナメントでベスト8になるってことは容易じゃない筈だ、毎年腕に覚えのある生徒が魔法を連発し合う激しい戦いだと聞くんだが、背も低くて魔法も使えないひ弱そうな君がベスト8になるってかなり厳しい筈だ。」
「でも事実です。 疑われるようならば学校に直接聞いてみてください、そんなに古い記録でもないので残っていますでしょうし覚えている人もいる筈です。 あまり詮索して欲しくないのですが・・・」
『え? 本当に事実だったの?』
『タキルまで・・・』
ギルドマスターのリョルルさんはガハハと笑ってくれた。 納得したのか馬鹿にされているのかは分からなかったが、これ以上詮索する気はない様子だ。 隣のエルザさんは信じられないものを見るような顔をしてちょっと驚いていた。 タキルには後でデコピンを食らわせる事にする。
「まぁ今は猫の手も借りたい程冒険者が足りてないんだ、冒険者が受注したくない依頼とか難易度の高過ぎる依頼とかがありすぎてギルマスの俺が直接動かないと駄目な状況でな・・・ある程度慣れてきてランクが上がったら馬車馬の様にこき使ってやるからな?」
「ほどほどにおねがいします・・・」
リョルルさんは、バシバシとリフィンの肩を2回叩いて喝を入れると、んじゃ俺は忙しいから後はエルザに任せるわ、と言って大きなバッグを背負い外に出て行った。 どこにいったのかとエルザに問うと、Cランクモンスターの討伐に行ったのよ、と何枚かの依頼の紙を見ながら教えてくれた。
「う~ん、やっぱり冒険者最初のお仕事は薬草採取が無難かしら・・・じゃあリフちゃん、登録早々悪いんだけどこの依頼を受けてくれないかしら?」
「見せてもらってもいいですか?」
「えぇもちろんよ、この依頼なら今のとこ盗賊とか危険なモンスターは今のところ発見報告はないから他の依頼より比較的安全で、頑張れば日帰りで帰れるわよぉん」
エルザから受け取った依頼書は薬草の採取だった。 依頼人は薬剤師ギルドとなっていて個人の名前ではなく組織名で記入されており、場所はアルモニカからすぐ東に位置するエルルの森、モグロ草と呼ばれる薬草を大きな収穫カゴ2つ分、期限は2日以内とある。 報酬はそんなに高くなく2日間普通に暮らせば無くなるような金額だったが、折角仲良くなったエルザが選んでくれた依頼を撥ねるような事はしたくなかった。
「分かりました、ではこの依頼を受けたいのですが、収穫カゴってどれくらい大きいのですか?」
「あーんちょっと待っててね持って来るから、道具は無料で貸し出してるから心配しないでぇん?」
そう言って備品庫から収穫カゴを持ってきたエルザはリフィンの目の前に置く。 収穫カゴの大きさは縦がリフィンの身長の半分、直径45cmくらいの大きさで、素材は竹で出来た取っ手のついてある円形のカゴが2つと、1本の長い棒が置かれていた。
「あの、私一人でこれ持てるでしょうか?」
「ちょっと小柄で細身のリフちゃんには厳しいかもしれないけど、基礎体力をつける事と何事にも経験が大事なのよ、あっその天秤棒は良くしなる上に軽くて丈夫だから壊れる事は無いと思うわ。 使い方は分かるわよね?」
「この棒の両端にカゴを吊るして移動するのですか?」
「えぇそうよ、丁度真ん中で支える事によってバランス良く運べると思うわ、まぁこれくらい出来なければ冒険者として失格だからそのつもりでいるのよ?」
「・・・わかりました。」
これくらいの依頼が出来なければ冒険者として失格と言われ思わず息を飲むリフィン。 魔法研究ばかりで肉体労働や実戦とは余り縁の無かったリフィンには、ただの薬草採取がだんだんと厳しい仕事に思えてくるようになった。
『オレも手伝ってやりたいんだが、どう考えてもそれは運べないからな・・・すまねぇ』
『それは仕方無いでしょ・・・タキルは上空から周囲を警戒してくれればそれでいいよ』
『おう、それなら出来るから任せろ、傷が治ったから飛びたくて飛びたくてたまらないからな』
どうやら飛べるようになったので空からの景色を早く見たくてうずうずしているようだ。 リフィンは早速エルザに依頼受注の手続きをしてもらい、いってきますとエルザに告げた。
いってらっしゃい、気をつけるのよぉん!という少しむず痒い言葉を背に浴びて冒険者ギルドを出た。
『エルルの森はアルモニカからすぐ東だったね、東門へ向かうよ』
『おう・・・・・・そっち西じゃね?』
『・・・間違えただけよ』
その場で向きを180度回転し、また歩き出すリフィンの顔はちょっと赤くなっていた。
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『すぐそこって感じだったな、エルルの森ってのは』
『そうね、東門出た時から見えてたし、カゴが重くてもこのくらいの距離ならなんとかなりそう』
『間違えて西門に出てたら森が見つからなくて大変な事になってたかもな』
『飢えた時は真っ先に焼き鳥にしてあげる』
『その意気だ! んじゃあオレはリフの上空で周辺警戒でもしてるからなー』
そう念話してタキルは飛んでいった。 リフィンは現在エルルの森の入り口に入ったところで、目的のモグロ草と呼ばれる薬草を探していた。
モグロ草とは、「もう何この草グロい」から来ている言葉で、数百年前に存在した天候を操る偉大な魔法使いが当時名前なんてなかったこの草につけたのが由来だ。 その偉大な魔法使いにグロいと言わせる程、モグロ草はグロいのだ。
モグロ草の見た目だが、まず草とは思えない程全体がドス黒い赤色をしており、葉となる部分は太く触手のようにプニプニとしていて葉を切ると血しぶきのように溢れ出す。 採取するときは茎を摘んでねじれば汚れずに済んで新鮮さを保てる。 その後葉を失ったモグロ草は1週間後には元通りに再生するので色々な意味でグロい草なのだ。
「・・・あったあった、何度見てもグロいからすぐ発見出来るけど、ここ結構大量に群がっているわね」
見た目故の見つけやすさからモグロ草をすぐに見つけたリフィンは地獄の一部ような景色をしたモグロ草を採取し始める。 リフィンは学生の時にモグロ草に慣れていた為、採取の方法や使用法まで熟知していた。
リフィンが採取を開始して間もなくすると、上空から顔を青くしたタキルがやってきた。
『リフ、まさかとは思うが・・・このグロいのがモグロ草なのか?』
『そうよ、見た目は確かにグロいけど、薬草の中でも一番スタンダードな薬草でこの草から作られるポーションは傷薬や滋養強壮として重宝されているわ』
『・・・まじすか、想像以上にグロくてオレちょっとこれ無理だわ』
『慣れるまで余り見ない方が良い』
『・・・そうする』
「うぉっ、うぉぉぉぉぉぉおおおん!!!?」
『っ!?』
余りにもグロい光景にゲンナリしたタキルがまた空へ戻ろうとすると、近くの茂みからガサガサガサとした物音と犬の遠吠えのような声が聞こえてきた。
リフィンとタキルは驚きながらも物音が発生した方を向き警戒していると、一匹の獣が姿を現した。
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