第2話冒険者ギルド

『うぉぉぉおお!!! なんてリフは偉い奴なんだぁあ!!!』



 タキル・・・結構涙もろいんだね、絵面的にはただ小鳥が私の肩に乗っているだけなんだけど、念話で伝わってくる内容からして、若干タキルの瞳が潤んでいるようにも思えてくるよ。



 リフは姉を救うべく冒険者になる事や、いままでの苦労をタキルに話すと感情移入したのかタキルが号泣した。 え?そこ泣く所? って思う所もあったけど案外良い奴なんだと理解した。

 どうしてこの鳥は念話という手段で会話が出来るのか不思議で仕方が無かったので、話を聞き出す為にまず私の事を聞いてもらって仲良くなってからタキルの事を聞けると思ったのだけど・・・



『それに比べ・・・オレは、オレはっ! ・・・リフの事を聞いたんだ、オレも言わなきゃフェアじゃないだろう、聞いてくれるか?』


『うん』



 あ、自分から言ってくれるのね・・・



『オレは元々人間だったんだ・・・い、いやその人間だった時の記憶があるっていうのが正解かな』


『・・・続けて』


『だったらそんな怖い顔しないで下さい』


『驚いていただけでしょ・・・』


『で、まぁその時のオレの名前は青井翼っていってな、間抜けな死に方をしたのが最後に覚えてるんだわ』


『アオイツバサ? 死んだら青い鳥になってたの?』


『おう、ジョークかよって思うけど、そんな感じになってたわ』


『でも、いいねそれ、私も鳥になって大空を飛んでみたい』


『おおー! オレも人間の時はそう思ってた! 空飛びたくて頭脳と肉体を鍛えてたからな!』


『人間がいくら鍛えても空は飛べないでしょ、タキルは本当に頭脳鍛えてたの?』



リフィンは筋骨隆々のインテリ男性が両腕をパタパタと上下させて必死に飛ぼうとしているのを脳内で空想する。どう頑張っても自重で飛べないのが理解できてしまう。



『まぁそれは後々説明しますわ、それで、そのなんとかって都市にはいつ頃着くんだ?』



もうちょっとタキルの事を聞きたかったけど、目の前に見えてきた巨大な人工物が姿を現す。いつでも聞けそうな話なのでリフィンはタキルに説明する。



『モニカ共和国の都市、アルモニカね、目の前にあるやつがそうだと思う・・・私も見るのは初めてだけど』


『デケーッ! 鳥目線で見ると半端無いな!なんだあの城壁高過ぎるだろ!』


『私から見ても大きいけどね』



 モニカ共和国、ヌツロスムント王国の南側に位置する国で、温暖な気候と南北を山脈に挟まれているので比較的雨が少ない地域だ。 ヌツロスムント程ではないが広大な面積の国土を持っており、主に生産されているのは種類豊富な野菜類だ。 都市アルモニカはモニカ共和国の中でも難攻不落とされている高い城壁が特に目立ち、その昔は戦場だったこともある立派な主要都市なのである。


時刻は夕暮れ、もう少しで陽が沈みそうなので急ぎ足で進む、陽が暮れたら外敵が侵入しないように城門が閉鎖される。 そうなるとその都市に住む者やアルモニカの冒険者証を持っている者以外は入れなくなるのだ。


しばらく走っていると城門が見えてきて門番の兵士がリフィンを確認すると、こっちこっちと手で招いてくれた。 夕日はもうすぐ沈む。



「おう嬢ちゃん、ここらじゃ見かけない顔だが、一人で来たのか?」



30代くらいの男性の門番がフレンドリィに話しかけてくる。



「はい、ヌツロスムントから来ました。行商の荷馬車と冒険者さん達を追ってなんとか」


「あーさっきの連中に着いてきたんだな、しかしすげぇな、たまに嬢ちゃんみたいな無謀なのもいたりするんだが、山道は魔物や盗賊が出てくる事もあるからな、悪い事は言わねぇ今後はちゃんと護衛をつけるなりすると良い、おすすめだぜ?」


「ありがとうございます、”次”があればそうさせて頂きます」


「おう? そうか? とりあえず身分証見せてくれるか?」



身分証をバッグから取り出して門番に見せるリフ、その身分証に書かれた文字を見る門番とタキル

リフの肩に乗ってたタキルが身分証を凝視する。


「この鳥はなんだ?」


「道中、傷を負っていた所を助けたのですが、懐かれてしまいまして」


『文字読めねー』


「はは、めっちゃ可愛いじゃねーか、俺もなんか動物助けたら懐いてくれねーかな」


「そのへんにしておかないとまた怒られますよ?」



もう一人いた門番の男性がフレンドリィな門番をたしなめる。 ちょっと引き気味だったリフィンにとっては有り難かった。



「バカヤロウ! これは俺なりの人物観察なんだ、身分証だけじゃどんな奴かもわからねぇだろ? 俺達はこの都市と国民を守る騎士なんだ、ヤベぇ素性の者を入れる訳にはいかねぇだろ!」


「あなたのはやり過ぎなんですと前から言ってるでしょう、連帯責任食らうのだけはもう勘弁してくださいよ」



 ・・・まさか門番同士で口論が発生するとは思わなかったリフィンとタキル、しばらくするとフレンドリィな門番から声がかかった。



「すまねぇな嬢ちゃん・・・見苦しい所を見せちまったな、身分証は返すぜ、中に入って良し!」


「あ、ありがとうございます、お勤めご苦労様です」



おう! と親指立てた門番はまだ仕事があるらしく、城門を閉鎖したあとも警備を続けるようだった。



『めっちゃ面白い門番だったな、アットホームな職場ってあぁいう感じなんだろうな』


『そうね、セクハラ未遂とか浮気性とか言ってたけど、何も聞こえなかった事にするわ』


『そうだな・・・っ! やっぱ中もすげぇな』



 城門をくぐり、目の前に広がる街並みは白で統一された建物ばかりで道もほぼ直線だった。曲がり角は緩やかに造られていて、地面には馬車が通ってもあまり揺れなさそうな感じの規則性のある石畳だ。

現在は陽が沈んでいてあまり人気がないが、先程まで活気に満ちあふれていた余韻があり、子供達が走って家に帰っていく姿や、店じまいをしている人々の姿が確認できた。



『まずは冒険者ギルドに行くんだろ? 人が居なくなる前に場所聞いた方がいいんじゃないか?』


『そうね』






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



冒険者ギルド、アルモニカ支部


 陽が沈んだーーーもう少しすれば仕事も終わりね

と、冒険者ギルドの受付嬢エルザは小さくため息をついた。 何故ならエルザの所に今日は冒険者が来なかった為だ。ずっと受付の窓口に居るのに男の冒険者達全員は、隣の綺麗な受付嬢の所に並ぶからだ。

いつも窓口に来てくれる女性だけの冒険者パーティーも昨日から遠征に行っているので来る筈も無いし、

隣の綺麗な受付嬢の窓口に並ぶ男性冒険者達に熱い視線を送ってみても顔を背けて視線すらあわせようとしないのだ。


 今も隣の受付嬢目当てなのかは知らないが、男性冒険者達がおどおどしながら話しかけている。 モテるって良いわねぇ、こっちは朝から窓口にいて仕事終わりまで誰も寄って来ないのよ? よくこんなんで同額の給料貰えてるわよねとエルザはふっ、と笑った少し後だった。

カランカランと入り口のベルが鳴る、こんな時間に冒険者が依頼を受けに来る事なんて滅多に無いし、誰かが依頼を出しに来たのかしらと思って入り口を見ると、そこには黒いとんがり帽子に黒いローブを着た青髪の小柄の女の子が立っていて、その肩には青い小鳥もいた。

キョロキョロと辺りを見回してここが受付なのだと理解したのだろう、女の子はエルザの前に立つと目を見開いて固まった。



「いらっしゃい、ここは冒険者ギルドアルモニカ支部の受付よ、何か困った事でもあったのかしら?」



固まった少女に声をかけるエルザの声は少し野太かったが、優しさを兼ね備えた丁寧な口調だった。

エルザに声をかけられた少女は勇気を出すように一度深く深呼吸して、黒のとんがり帽子を脱いでエルザに用件を言った。



「すみません、冒険者になりに来たのですが、登録をお願い出来ますか?」

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