(水)魔法使いなんですけど

@akikazecorli

1章 水魔法が弱くなる世界

第1話青い小鳥

「待っててお姉ちゃん、絶対見つけてくる」


 そう姉に宣言し、隣国にある冒険者ギルドに向かって出発したリフィン・グラシエル。

黒くとんがった帽子とローブ、数日分の食料や衣類を揃えて歩くその姿は、まさに旅の魔法使い。

もうじき17歳になるリフィンはれっきとした魔法使いであるが、人前では魔法が使えないのである。

リフィンが水魔法使いであるからだ。


 世界規模で発生している水魔法の出力の低下と、水魔法使いの人口減少により、各国では水魔法使いを拉致または監禁、良くて軟禁するようになった。内陸国では特に著しく水魔法使いを奴隷として扱っているところもあるようだ。水魔法を行使しているところが見つかれば国に拉致されるか、奴隷として捕まってしまう。水魔法使いを捕まえた者は懸賞金を貰える仕組みになる始末、それほどまでにこの世界では水魔法が貴重なのである。



 隣国モニカ共和国を目指すため、地元ヌツロスムント王国を離れ国境付近にある森が鬱蒼と生い茂る山道を歩く、

行商がよく通る道なので道は少し整備されていて荷馬車が通ってもあまり揺れを感じさせない程だ。 

 リフィンの旅の目的は水魔法の出力の低下の原因を探す為であり、ヌツロスムントによって軟禁され水魔法を酷使させられている姉を少しでも助ける為である。 その昔、姉の使った水魔法が世間に知れ渡ってすぐに国家公務員達に連れ去られて行くところを幼いリフィンは目撃していて、その恐怖からリフィンは水魔法使いである事を親にも隠すようになる。 おかげで捕まる事は無かったが、無能力者として育てられたリフィンは両親から酷い扱いを受けるようになった。


 この世界は未知なる生物や不思議な現象が発生する魔法の世界、ミスティエルデ。

多くの人間や魔物が、家事や狩猟などといった生活全般に魔法を使用している。 魔法を使える者は体内に魔石を宿していて、魔石の色や密度によって使える魔法の属性や出力が変わってくる。 魔石が赤なら火魔法が使え、青なら水魔法が使える。 

 魔石は体内の何処にあるかは人によってそれぞれで、何かしらの理由で体内から魔石が取り除かれると魔法が使えなくなる。




 リフィンは旅の魔法使いであるが魔物との戦闘経験はほとんど皆無、ヌツロスムントの魔法学校では公に水魔法が使えないため杖を用いて対人戦を行っていた。

そんな魔物と戦ったことのないリフィンが一人旅をしているのには訳がある。 リフィンの百歩程先には行商の荷馬車と護衛の冒険者パーティーが進んでいて、集団で行動していたら魔物や盗賊に襲われる頻度が低く、襲われたとしても護衛の冒険者がいるので何事にも対処可能な安全な団体が前を進んでいるのだ。 それについて行くだけで危険度は下がるのでリフィンは前を進む人達にバレないように道の脇にある木に隠れながら進む。


 リフィンも冒険者達と一緒に行動すれば安全なのだが、少しばかりお金を取られてしまう。 冒険者になりに行くのに冒険者に護衛されるのはリフィンにとって少し複雑だったというのもあるので、節約を口実にストーカーを続けていると前を進んでいた行商の馬車と冒険者達が止まった、様子を窺ってみるとどうやら昼食に入るようだった。



「・・・」



 携帯食しか持っていないリフィンは歩きながらでも食事が出来るので、まだあまりお腹が減っていない為、山道から少し外れ、森の中へと少し進む。 すると周りの木々より大きな巨木を見つける、巨木の根はまるで荒れる波の様にくねっていた。

リフィンはその巨木の根のなかでも座りやすそうな根に座り、木に身体をもたれかけると上を見上げる。 巨木の枝や葉っぱに遮られて太陽の陽は直接目に映らなかったが、太陽が真上にあるのはなんとなく分かった。



「・・・暑い」



 このミスティエルデという世界では、春夏秋冬の四季があり、現在は夏真っ最中で、暑い季節となっている。脱水症状や熱中症で倒れる人が王国でも既に多くなっていることから、今、捕まって水魔法を強要される水魔法使い達にとっては過酷な季節である。

 リフィンはキョロキョロと周辺を確認し、誰も居ない事を確認するとバッグから透明なビンを取り出すと、それを左手で持ち、右手でフタするように手を上にかざして、目を閉じる。



「・・・キンキンに冷えたの」



 リフィンは、冷たくておいしい水を頭の中で想像する。冷えた水を手で掬った時の感触と透明感、口に含めば澄んだ滑らかな水の心地良さと冷涼感、幾多にも濾過されて綺麗な水をイメージする。



「水の精霊よ、私に冷えた水をお恵みください・・・水、生成!」



 リフィンの右手から水が発生し、ビンに水が流し込まれる。そう、これは水魔法である。

コップ一杯まで水を注ぐと、リフィンはすかさず水を口に含んだ。ゴクゴクと喉を通り、口内と食道が一気に冷やされる。



「〜〜〜っ!」



 キンキンに冷えて澄んだ水は美味しいものである。飲み過ぎには注意が必要だが・・・

 水魔法を使い、水を補給したリフィンであったが、微量の魔力の低下を感じ取っていた。魔力とは体内に流れている特殊なエネルギーのようなもので、行使すると減る。魔法を繰り出す時は想像力が必要で、かなりの精神力と集中力を使う。

リフィンの感じ取った魔力の低下は、ごく一部程度に過ぎなかったが、水を出す時の魔力の消費が昔と比べて、若干増えたような気がした。

魔力自体は自然とゆっくり回復していくものであるが、魔法使用時の消費魔力が昔に比べて増えて行っているとしたら、何年か経ったら水魔法が使えなくなるのではないかと不安になってくる。

 そんな事を考えていると、近くの木からガサガサと葉っぱがこすれる物音が聞こえた。



「え!?」



 誰かに見られたと、反射的に立ち上がって身構えるリフィン。先程まで周囲には誰も存在しなかった筈だ。物音が聞こえた方に恐る恐るリフィンは近づいて行く。



「・・・誰かいるのですか?」



 リフィンが声をかけても何も反応がない、物音があったところに行ってみても人らしき気配もなにもなかったが、少し不安なのでもう少し周囲を確認してみる。



「・・・ピィ」


「え、何!?」



 足下から何かの鳴き声がした、というか何か踏んだ感触があったのでリフィンが驚いてその場を離れると、そこには傷だらけの小さな青い鳥が横たわっていた。自分の足跡から察するに、小鳥の翼を少し踏んでしまったようであった。

 自分が鳥を踏んでしまい傷つけてしまって、慌てて青い小鳥を両手ですくい取る。 ぐったりしている小鳥を拾って様子を見ると、その小鳥はかなり傷ついていた。翼を少し踏んだだけではこんな事にはならない筈だ。 そんな状態の小鳥を見て、リフィンがおろおろしていると、どこかからか声が聞こえた。



『た・・・・・・ぇ・・・・・・』



 人が喋る声が聞こえた、聞こえたならばどこから発生した音なのか、方向が分かるのであるが、直接脳内に響いてくる程なので近い距離に居る筈だ、その筈なのだが付近にはリフィンと傷ついた小鳥しか居ない。



『気・・・・・・上か・・・たが・・・』


「この鳥が私に?」



 小鳥が私に喋ったの!?と小鳥に色々聞きたかったリフィンだが、リフィンの頭上から何かが近づいてくるのが感じとられたので、被っていた帽子を取り、小鳥を黒くとんがった帽子の中に入れてまた被る。

傍にあった杖を手に取って頭上を警戒していると、一匹の鷹が木の枝につかまってこちらを睨みつけているのを発見する。



「・・・なるほど、鷹に狙われて必死に逃げていたようね、獲物を返せって言ってるのかな?」


「ピエェェェエエエエエエエエエ!!!」



鷹が翼をひろげてリフィンを威嚇した。翼をひろげたときの大きさはリフィンと同じ大きさくらいだった。



「私も獲物にされてそうな気がする・・・」


『あぃ・・・・・・とよ・・・』



 ありがとよ、そう聞こえたリフィンは帽子の中の小鳥が喋ったのだと確信したが、まずは自身の安全を確保する為にどうやって鷹を撃退するか考える。 

杖で殴ったら逃げ帰ってくれるかな?というか杖振り回して当たるかどうか・・・



「ピェェェエエエエエエエ!!!」


「っ!」



 鷹は翼をはばたかせて上に飛んで行った、リフィンの死角から急襲するのかと思いきやしばらく経っても襲撃は来なかった。どうやら見逃されたようである。 リフィンはさっきまで座っていた木の根に腰を下ろすと、帽子から青い小鳥を取り出した。傷ついて飛べないようではいるものの、意識はあるので水を与えてみる事にした。 小鳥を膝の上に乗せ、バッグから平皿を取り出して水を魔法で生成する。

それを小鳥に近づけると小鳥は水を飲み出した。


「か、かわいい・・・」


 両手にある水を、小鳥はくちばしでつつくようにして水を飲む姿は、なんとも言えない程にまで可愛かった。チャプチャプする水音に、水を飲むたびに尾が上下にひくひく動く、傷ついてはいるが青い色鮮やかな羽根は高貴なる者が羽織る衣類のような色をしていた。

 そんな姿にうっとりしていたリフィンであるが、小鳥はもうお腹一杯なのか水を飲まなくなった。

リフィンは平皿を片付けると小鳥を両手に乗っける。



「で、聞きたい事があるんだけど・・・」


『ありがとな姉ちゃん、助かったぜ!』



唐突に聞こえた少し高い声、セリフからしても、手に乗せている小鳥から発せられたものだとリフィンは認識する。



「どういたしまして、やっぱり貴方なのね」



人語を喋る鳥とは聞いた事も無い、この小鳥は・・・



「・・・ピィ?」



・・・あれ?声色からして全然違う、というより鳴き声だった。リフィンの求めていた喋るというものではない。



『おーい、聞こえるかー?』



また喋る声が聞こえた、反射的に首を縦に振ってうんと頷いた。

リフィンは小鳥をまじまじと見つめていたのだが、小鳥はくちばしを開いてはいなかったのでどうやって声を発したのか分からなかった。



『それは声だとピィーとかピェーしか発せられないので、頭の中で君に声を発しているんだが、まさか聞こえているとはな・・・』


「へっ?」



驚愕だった、常識を身につけて来たリフィンであったが、まさか小鳥と会話するとは夢にも思わなかった。



『俺もそんな事、夢にも思わなかったぜ!』


「えっなんで?」


『今、頭の中で、夢にも思わなかったって思ったでしょ』


「なんで知ってるのよ!?」


『聞こえてたよ、どうやら頭の中で思った事はそのまま相手に伝わるらしいな・・・これが念話って奴か』


「本当?それじゃあ・・・」



そう言って、リフィルは頭の中で好きな食べ物を連想する、スープに入っているソーセージや、薫製されたハム、厚切りされたジュウジュウ良い臭いを放つステーキ肉をだ。想像しただけで涎が・・・



『姉ちゃん、肉が好きなのか?あと、俺も涎が出そうだから食べ物を想像するのは止めてくれ、お腹が空くだろ・・・』



一理ある。 お腹空いていないって思ってたけど、お腹空いているのかもしれない。

リフィンはバッグから牛の乾燥肉で作られた保存食を取り出す。



「一緒に食べる?」


『良いのか?』


「うん、牛の乾燥肉だけど食べて大丈夫?」


『今の俺じゃあ木の実すら取れないだろうからな、鳥は雑食だから問題は無いと思う、有り難く頂戴します。』


「わかった、水も要る?」


『ほんの少しだけお願いします。 慈悲深き女神様!』


「水魔法使いなんですけど・・・」


『あっ・・・はい』



何故かジト目で睨まれた・・・水魔法使いの少女は黒いとんがり帽子を脱いで食事を始めた。

美形だなーって思ってたけどやっぱり美形だった。

整った綺麗な顔立ちで青色の綺麗な瞳に青色の長髪、なんでこんな可愛い娘が1人こんな森の中に居るのかは知らないが・・・



『容姿を褒めてくれるのは嬉しいんだけど、食事済ませない?』


『あ、いや、そんな、心を読まれるなんて恥ずかしっ!』


『・・・とりあえず食べよ?』



いつの間にか念話しながら食事をしている少女、順応早くね? 



『ああ、頂くとしよう・・・えーっと名前を聞いてなかったな』


『リフィン・グラシエルよ、皆からはリフって呼ばれてたからそう呼んで・・・貴方は?』



リフィンは親から貰った名を小鳥に告げると、小鳥は何故か言葉を考える。



『えーっと、実はさっき初めて飛んだんだよ、巣立ちしてすぐに鷹に襲われたけどな・・・で、何故か親鳥は言葉を発せられないようでな、実は名前が無くてな・・・』


『そう・・・じゃあ私が付けようか?』


『助かる・・・あ、変な名前だけは勘弁してくれよ?』



リフィンはこの小鳥の名前を考える・・・見た目は青いスズメ、でも喋る、多分オス、うーん・・・



『見た目はルリビタキっぽいんだよなぁ・・・オレ』



リフィンはそんな名前の鳥は知らなかった、でもルリビタキってなんか響きがいい・・・ルリビタキ、ルリビタキ、ルリビタキ、ルリビタキルリビタキルリビタキルリビタキ・・・・・・

うん!



「決めた、貴方の名前はタキル」



 そのとき、心が開いたような感覚がした。

ちゃんと言葉で言ってくれたオレの名前、名付け方が安直だけどとかそんなんじゃない、

動物の固有名詞はあるだろうけど、野生のオレに名前をつけてくれるなんて、鳥として産まれてきたオレにはそれが世界一幸せに感じたのだ。



『・・・』


『・・・不満?』


『・・・いや、最高に嬉しいぜ、俺の名はタキル、よろしくなリフ』


『よろしく、だけどまずは身体の傷を癒すのに専念してね』



そう言ってリフィンは干し肉の欠片を千切ってタキルの口元に持って行く



『ああ、遠慮なくいただきます』


『いただきます』


『・・・美味ぇなコレ』


「んむ」



 魔法使いの少女と鳥、変な組み合わせが食事している頃、前に居た行商と冒険者達は既に出発していたが、リフィンはその事に気づくのには食事を終えてしばらくした後の話であった。





ーーーーーーーーーーーーーーー





食事を終え、タキルを肩に乗せて山道を歩くリフィン、最初は急ぎ足だったけど、前方に荷馬車と冒険者達が見えたのでゆっくり歩く。



『なるほどな、アレについて行けば安全に一人旅が出来るって事か』


『そういう事』


『・・・で、リフはどこに向かっているんだ?』


『冒険者になりにアルモニカっていう都市に行くのよ』


『ほぇ〜冒険者かー、マジかー』



 冒険者、それは危険を顧みずまだ見ぬ土地や生物を発見し謎を解き明かす人達の事である。

とタキルは思ってみたが、ファンタジーの世界って魔物とかドラゴンとかが人間を襲ってくるよね?

リフもさっき魔法を使って水を出してたけど、そういう事よね? オレが人間だった記憶があるのも転生とかそういうもんだよね?

オレただの小鳥じゃん! 剣も持てねぇ! こんな物騒な世界で生き残れるか不安になってきたんですけどーここまで1秒



『・・・私には冒険者になれないと?』


『いや、その、危険とかあるかもしれないじゃないですか』


『知ってる、でもそれ以上にこの世界が危険』


『えぇ・・・』


『・・・私には姉がいるの』



リフィンはタキルに姉を助け出すために冒険者になりに行くのだと語った。 水魔法使いが酷使されている事や、無能力者の多くが迫害されている事を

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る