第3話エルザ
リフィンの目の前にオカマが居た。
辺りは真っ暗になりかけていて、人が居なくなる前に冒険者ギルドの場所を知りたかったリフィンは、家へとダッシュする子供に冒険者ギルドの場所を聞き、教えて貰った通りになんとかたどり着いた。
ドアを開けるとカランカランと乾いたベルの音が鳴り、辺りを見回すとまず最初にびっくりしたのが、なんのモンスターなのか分からない大きな牙が天井にぶら下がっていた。 その他にもキングコボルトの剥製が置物の様に置かれ、魔物の骨や皮で造ったテーブルや椅子その他装飾品までもがリフィンの目に映った。
まずは受付で冒険者登録するため、受付を見ると窓口は3カ所あり、その内一つは無人で、その隣の綺麗な受付の女性の人が男性冒険者達と会話をしている。 そしてもう一つ奥に人影が見えたので受付の人が居るのだろうと足を進めて受付の目の前に立つとーーー
リフィンが今日一番にびっくりしたのが目の前の受付にいる筋骨隆々のオカマだった。
美しく見せる為の口紅が恐ろしいくらいに塗りたぐられていて、ヒゲは剃っているのだろうけど青く見える、太い眉毛に視線だけで弱いモンスターなら射殺せそうな鋭い眼光でリフィンを凝視する。
オカマと目が合って反射的に視線を下にずらしオカマの服装を見ると、おそらく受付なのであろう女性モノの衣類を着ていて、たくましい胸、大胸筋がこれでもかと言うくらい前のボタンが外れそうなくらいにパッツンパッツンだった。
・・・勝てない
オカマというのは存在自体は知っていたが実際に見るのは初めてで言葉を失う。 冒険者になりに来たのにまさか冒険者ギルドの受付にすら勝てないと見ただけで悟ってしまう。
「いらっしゃい、ここは冒険者ギルドアルモニカ支部の受付よ、何か困った事でもあったのかしら?」
少し野太い声でリフィンに声をかけるオカマ、この程度でびっくりしていたら冒険者なんてやっていけないだろうと思ったリフィンは一度深く深呼吸して、帽子を脱いで受付嬢?に用件を言った。
「すみません、冒険者になりに来たのですが、登録をお願い出来ますか?」
「えっ?」
「え?」
「・・・お嬢ちゃん、依頼を出しに来たのではなくて冒険者になりにきたの?」
「はい」
「そう、ここらでは見かけた事ないけど、どこから来たの?」
「北にあるヌツロスムントからです、魔法学校での成績はベスト8ですけど大丈夫ですか?」
「ふーん、ベスト8ねぇ・・・分かったわ、とりあえずこの用紙に名前とか使える武器や特技、魔法を書いていって頂戴」
オカマから紙とペンが渡される、リフィンはそれを受け取りその場で書き込む。
まずは名前と性別、年齢と出身
リフィン・グラシエル
女
16歳
ヌツロスムント王国出身
ここまでは問題なかったが、次からが問題だった。
使える武器、特技、魔法で、武器は杖で特技は棒術だから大丈夫だが、水魔法をここで公にして良いのだろうかと悩むリフィンだったが、それに気づいたタキルがリフィンに発言する。
『まだ水魔法は公にしない方がいいと思う、ここは無能力者で行くべきだ』
『どうして?』
『水魔法使いって事はそのうちバレるからな、冒険者やってて実力がついた頃に魔法が使えるようになったら水魔法でしたーって言えば大丈夫だろ』
『大丈夫なの?』
『今水魔法使いって言ったら冒険者登録させてくれないかも知れないぞ?』
『わかった、そういう感じでいく』
無能力者と記入し、その他の蘭も埋めて行くリフィンに受付のオカマが割り込んできた。
「ふむ、リフィンちゃんっていうのね」
「はい」
「さっきから気になってたんだけど、その肩の小鳥はテイムしたの?」
「テイムというか、傷を負っている所を助けたら懐かれたのですが」
「でも、テイムの証が翼に現れているんだけど」
『えっ?どこ!? 自分じゃ見えねーんだけども!』
「もしかして、これですか?」
タキルは自分の翼を見ようとするが見えない位置にあるので自分じゃ確認出来なかったのだろう。
リフィンは出逢った時からあるタキルの翼にある黒い変な模様をさしてオカマに聞いてみると
「えぇ、それがテイムの証よ、動物やモンスターを痛めつけたり調教したりしたら主人と認めた動物や魔物は主従関係の証として魔法を発動するわ、この魔法の原理はまだちょっとよく分かっていなくてね、変な模様が主人とペットに浮かんでくるのよ」
「私にもあるのですか?」
「えぇ、どこにあるかは分からないけどテイムしているんならあるはずよ?」
『・・・いつ使ったの?』
『すみません、わかりません・・・』
「また今度探してみます」
暇な時にでも探してみようと思ったリフィンはさっさと用紙に記入しオカマに渡す。 オカマはそれをふむふむと見て行くとそれを引き出しにしまった。
「リフィンちゃんが本当にあのヌツロス魔法学校のベスト8なのかはちょっと疑問なんだけれど、ウチは来るもの拒まずっていう方針だから受理するわ」
「ありがとうございます」
「あーでも、今日はもう遅いから正式な登録は明日になるわ、ギルドマスターも今居ないから待ってもらう事になるけどそれでもいいかしら?」
「はい」
「なら良かったわ、それで今日泊まる宿はあるの?」
「・・・まだです」
リフィン達はアルモニカに着いたばかりだ、街は広くどこに何があるのかさえも分からない状態で野宿するのは危険だ、どうしようか考える
「ここを宿として活用させて頂くというのは駄目ですか?」
「ここは30時間いつもやってるけど宿としては駄目ね、どうしてもって言うならばアタシの家に来る?」
「えっと、男の人の家に泊まるのは少し・・・」
家に泊めて頂けるのは嬉しい案件だったが男の、それもオカマの家に泊まるのは気が引けたリフィンは少し遠慮したかったのだが、オカマの様子を見て地雷を踏んでしまったと理解する。 男と言われオカマの逆鱗に触れたのかオカマはプルプルと震え顔や腕には太い血管が浮き出てきていて、胸元のボタンが今にもはちきれそうなくらい悲鳴をあげていた。 ふと隣を見れば受付の綺麗な女性や男性冒険者の顔が真っ青になっていて中には痙攣を引き起こしている者もいた。
「リフィンちゃん、一度しか言わないからしっかりと覚えておいてくれるかしら?」
首をブンブン縦に振るリフィン、夏だから汗が止まらないのだろうか。
「アタシはエルザっていうの、こんな成りでも”女”として扱ってくれたら、不幸な死に方はしないかもよ?」
「わ、分かりました、エルザさんは女性として接します」
「正直な子はアタシ大好きよ? あ、オンナは食わないから安心して? 食べるのはオ・ト・コ だけ」
「でっ、でしたら、なにも問題はないですよね?」
「そうねぇ、アタシこう見えて女性冒険者には人気があるのよぉ、アタシがリフィンちゃんと仲良くする事にはちゃあんと利点があってねぇ・・・リフィンちゃん可愛いでしょー? そしたら男が少なからず寄ってくるじゃなーい? そこをアタシが美味しく頂くって訳、いい利害関係だと思わな〜い?」
「エルザさん、すごいです! 私の事はリフと呼んで下さい!」
恐怖からの混乱なのか、またはエルザの口が達者なのかは分からないが、あっさりと堕ちたリフィンにタキルは、ちょろくね?と不安を覚えたのだが、これは心の隅にでも置いておく事にした。
「じゃあリフちゃんでいいかしら?」
「はい、エルザさん・・・でも本当にいいのですか? まだお仕事でしょうし、ご迷惑では?」
「いいのよもう上がりだし、それにアタシなりの先行投資とコミュニケーションの取り方なのよ、仲良くしてくれたら贔屓にしてあげるわよ? リフちゃんでも受けれる依頼とか取っておいてあげられるし!」
「では、お言葉に甘えてお邪魔させて頂きます」
あーこれお持ち帰りされるパターンだわ、そうタキルが心の中で呟くと、リフィンから念話が聞こえてきた。
『無理、逆らっちゃ駄目な人だ・・・』
『無事に帰還する事を祈ってるぜ・・・』
『駄目、タキルも一緒に来るの』
『やめろぉぉおおおお!!!』
タキルを逃がさないように手で掴んだリフィンの手は、プルプルと恐怖で震えていたように感じた。
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