第49話 垂直のせいゆ

「切り立った崖。んっ、こんな所にしか生えないなんてっと。」

『あと半分だよー? お腹も減ってきたし、頑張って~。』

「他人事だと思って……。ディア、大丈夫? 休憩する?」

「ううん、耳がキンキンするけど大丈夫。」


 ディアを向かい合うように抱っこしながら上昇する椅子形ギギに座り、ディアの肩越しに風景を眺める。

 マノンに案内された崖は、村から徒歩1時間ほどの場所。ギギの新しい使い方の指南も兼ね、崖を登っている。左にマノン山が、前方には小さく村が見える。

 午前中に村を出発していれば、明るいうちに帰る事も出来ただろう。早くても日没か、と溜息をらしたくもなる。


「上に油が無かったら、マノンのごはん抜き。」

『ええ!? って遠目に確認したからあるよ!』

『マノンの扱いが手馴れてきたわね。』

『騒がしいな、マノンは。』


 「はいはい、ごめんごめん。」と投げやりに言う私に、マノンが食い気味に「自生している植物」を主張している。私はギギの操作に片手を取られているので、邪魔しないでほしい。


 椅子に約300本、崖を登るためのアームに残りのつまようじを動かす指示を一つ一つ与えていかなければならないのだ。うるさい御三方は、手伝ってくれない。

 「ディアの元気が無いので、さっさと回収して帰ろう」と気を引き締め直し操作していた私の頭に、冷たい液体が降ってきた。


「冷たっ。……雨?」

『ん~? 見えてきたよ。』



―――――――――――――――


「あんなベトベトな所、行きたくないわね。」

「保湿。」

「……。」(ガタッ)

「どちらへ?」

「女にも、負けられない戦いが……あるのよ。」


―――――――――――――――


補足

・マノンは数日食べなくとも蓄えがある

・セレスは採取方法を知らない

・未使用ギギ20本ほど

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