第48話 約束

 火照る頬を手で隠し、手伝いに行くろうかにでた。ディアと顔を合わせる事になるが、ほんの数秒でも離れて落ち着きたかった。


「すぅ、はぁ……良い匂い。」

「落ち込んでるかと思ったら、立ち直りは早いねぇ?」

「あはは。」


 厨房前で深呼吸したら美味しそうな匂いがしたんだもの。アンナさんに白い目を向けられたけれど、気持ちは切り替えられた。

 胸の前で拳を握っていると、服の裾を引かれる。給仕服の腰より下を引く者は、一人しかいない。


 向き直り、自然な笑顔で言ってあげる。両手を広げ、膝を折る。


「セレス……。」

「ディア、ごめんね。おいで?」

「うん。」


 恐る恐る近寄り、私の腕の中に納まるディアが落ち着くまで、小さな頭を撫でようと手を動かした時、アンナさんの溜め息を肩越しに聞いた。見られていたらしい。


「まったく、今日は二人で一人分だねぇ。」

「あはは、すいません。」

「開店頼むよ。」


 までに、を強調されてしまった。ディアの表情を鑑ての事みたのだろう。ありがと。

 ディアの耳元で「手分けしてやる?」と訊き終わる前に、服をつかむ手と頭が動く。肯定、では無さそうだ。

 「今日は一緒だね。」と言うと、頭が少し動いた。頷いているらしい。


 立ち上がる私を見上げるディアは、服の裾を離さない。ゆっくりと開店準備を行うか……終わるかな?

 行動範囲が私の周辺になっている様を、微笑ましく思う。何となく明日には立ち直っているだろう事も分かるので、互いの動きを見ながら作業を進めていった。




『風向きが変わった。』

「ん? アンナさーん、終わりましたー。」

「間に合ったね。じゃあ、あんたたちは岩壁に行ってきておくれ。」

「……は?」


―――――――――――――――


「イチャイチャしやがっ……ゴホン。あんな事を言って、大丈夫かしら。」

「ギリギリアウト。」

「アンタが事前に説明しておかないから、ややこしくなったんでしょ?」

「黙秘するわ。」『僕も~。』『私も。』『zzz』

「まったく。移動中にでも説明しておきなさい。」

「最悪、寝てても起こしてね? 。」


―――――――――――――――


 本日の被害


 おばちゃん数名の指(百合に過敏に反応して指を切った。)

「……尊い。」

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