第41話 あふれた重し
信じる、という事。
人が社会で生活する上で、衣食住すべてにおいて他人を頼っている。信じられなければ警戒し続ける事になる……セレスの記憶がネガティブな考えをさせるのだろうか。
頭を数回振り、事態を把握し直す。
『あんたも大変ね。』
「アンナさん、この服は着られません。何か嫌な感じがします。」
「……着なくても良いさ。知りたい事は分かったからね。」
肩を落としたアンナさんが床の服を回収し、隠れていたディアに渡した。
好奇の目を向けていた者たちも、納得したのか張りつめていた雰囲気が霧散していった。
ちょっと、注文する前に「何を理解したのか」教えて欲しいんだけど。
取り残されたように感じていると、ディアが目の前に近づいてくる。手にはさっきの服を持ったまま。
「あのね、セレス。」
「ディア、着ないから。」
「見えるか、を試しただけなの。本当に着ようとしたら多分止めてたと思う。」
「……多分?」
「あ、アンナさんって本当は——」
「ディア! 無駄口叩いてんじゃないよ!」
アンナさんが檄を飛ばした。萎縮したディアが、アンナさんの姿が無い事を確認して、私に手を差し出してくる。少しの間、小さな手を見つめ、考えてしまった。
私に信じろ、と言うのか。
何か裏があるのではないか、と勘繰る私は一歩下がる。ディアの顔色が変化した事に、私は気づかない。信じたら、また。
『大丈夫よ? この子は信じて良いわ。』
「私には……分からない、分からないよ。」
『あんたが動かないと、この子は止まらないわよ?』
指輪の水の言葉を理解するよりも前に、ディアは私に決意が宿る目で言った。
「セレス、私がこれを着たら、信じてくれる? 奴隷になればウソも言えなくなるし。」
「……は?」
奴隷? この世界は奴隷制度があるの? 信じるって、信じられるわけないじゃん。
真剣な目で私を見るディアに素で返し、少しひるませてしまった。あまりの事で
あとで謝らないと……。
『ほら、止めて上げないと。』
「え? あ、ディア。着なくていいよ、でも聞かせて欲しいかな。」
指輪の水さんに促され、意を決して着ようとしたディアの腕を掴み止める。優しく言ったつもりだが、作り笑顔は引きつっていたかもしれない。
客の前で辛気臭いのもアレかと寝る部屋に入り、ディアと向かい合う形になっても中々話し始めるキッカケが掴めなかった。もどかしいのは、お互い様らしい。ディアも躊躇っているようだった。
私がリードした方が良いか。
「ごめんね、ディア。気持ちの整理がつかなくて……。」
「セレス、私も……その、ごめんなさい。」
勢いよく頭を下げたディアの腕には、私の指の跡が残っていた。そんなに力を入れただろうか。
ゆっくりと顏を上げたディアは何か呟いたように見えたが、私の耳には届かなかった。
「みんな、ごめんね?」
――――――――――
「気になるわね。」
「止めますか?」
「もう少しなのよ……。」
「もうすこ……
「心配なんてしてないもの。」
「……食事の用意を致します。」
――――――――――
被害
厨房の料理 3品 「誰だい! 盗ったネズミは!」
補足
ディアの腕の跡は、へこんでいるだけです
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