第35話 いつもの二人。

 ディアの胸で泣いた。


 恐らく10数年ぶりだと思う。ディアは優しく私を撫で、「大丈夫だよ。」と何度も言ってくれた。

 10分ほどで、今まで泣いていたのがウソのように頭がクリアになった。

 マノンが言っていたのは、この事なのかもしれない。メッチャ泣いてたな、私。恥ずかしい。

 ディアの胸に顔を埋めている事も、凄く恥ずかしくなってきた。……どうしよう。


「セレス……落ち着いた?」

「うっ、はい。」

「もう少しこのままでいよっか。」

「はい、お願いします……。」

「はい、お願いされました。」


 うぐっ、情けない。子ども扱いされてるじゃないか。折角ネガティブ思考から解放されたのに、自分でネガティブになりそうだ。

 今は柔らかさで誤魔化そう。心地良い声を聞きながら。……何か良い匂いしてきた。





 満足したので顏を離すと、何事も無かったかのような顏をしたディアと目が合う。きっと私はキョトンとしていたと思う。


「何を見ていたのかなー? セレスは。」


 いたずらが成功したような笑みを浮かべ、ディアは聞いてきた。……あ、夢か。でも寝てないよな?


「風で幻惑効果のある薬を撒いたんだよ? 何かね、良い夢見れるんだって。アンナさんが言ってた。」

「幻惑って、まぼろしか。アンナさん……。」


 幻だってよ。道理で都合が良すぎると思ったよ! ってどこからが幻なんだ?

 私の逡巡を見て、ディアは続ける。


「井戸の周りに撒いてたから、セレスは気づいちゃうかもって思ったけど。上手くいって良かった。」

「今日の全部じゃーん。」


 ディアの話では、ゾンビみたいにフラフラしながら朝の手伝いをしていて笑いまくっていたそうだ。恥ずかしすぎるんですけど!

 ディアに感謝を伝えたしかえしするおかげで不安は解消したよこの、この、このーー!


 湯気を立ち上らせるディアを寝かせ、採集を開始する。

 体の周りを漂う緑色の粒子を手で払うと、ブワっと風が起こった。え? 私、怪力になった?


「それが風魔法だよ? 見えるようになったんだね。」

「魔法? ……魔法!?」


 いいね、魔法。【ギギ】以外でファンタジー要素が欲しかった。新しい玩具を与えられた子どものように、用途や工夫を考えると楽しくて仕方がない。

 調子に乗って腕を振りまくっていた私は、辺り一面虎刈りにした所で仰向けに倒れた。


「あえ? ひありゃあいああい……。」(あれ? 力が入らない)


 マノンは、私が吹き飛ばした土などが村に飛ばないよう、風を調整してくれたらしい。

 顏に乗ったまま講釈頂いてありがたいのだけど、どいてー。見えないよー。


 あ、誰かに頭を持ち上げられた。


――――――――――


「ああ、うう、ああ!」

「羨ましいなら行けば良いのに。」

「……。」

「もうヤダ、この上司。」


――――――――――


被害

 マノン村北西の草原:約1ヘクタール損失


補足

 セレスは視えるだけです。マノンが『気を利かせた』回でした。

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