第33話 大人になる、という事。
燃える。
焦り近づいた時、ちょうど火を消そうと、ディアが井戸から汲み上げた水を撒いた所だった。
ロシア帽にかかるかと思われた水は帽子を避け、たき火の炎のみを鎮火した。
走り寄り、火傷の心配もせず帽子を拾い上げる。
損傷を確認するが、元から燃えてはいなかったようだ。柔らかい風が髪を撫でた。
よかった。何で火に晒されてるの……。
「あ、あのね……セレス。」
ホッとため息をついた私に、ディアが申し訳なさそうに話しかけてきた。帽子が風を送っているのか、少女の髪は後ろに流れている。服の一部が焦げているのは、消そうとしたからだろうか。
大人の対応をした方が良い、と。無駄に長く顔色を
帽子を撫でながら聞く事にする。
「説明して?」
「えっとね、ここで火を焚いたらね、落ちてきたの。ブワーって!」
ブワーって何よ。チラっと見上げるが、空しか見えない。雲がちらほら……うん、今日は晴れだ。
ディアに
「ディアは、燃やそうとしたわけじゃないのね?」
うんともすんとも言わなくなってしまったディアの足元に、涙が落ちていく。うーん? どういう事だろう。帽子からの風は止んだ。何か関係があるのか?
「ディア、答えなさい。重要な事だよ? ……下を向かない!」
ビクっと肩が震え、顔を上げた少女の目を見つめる。怯えさせてしまっただろうか。気弱な性格だもんなぁ。
近づき膝を折り、目線を合わせてみる。帽子を頭に乗せ、ゆっくりと抱き寄せる。
努めて優しく訊くと、ぽつぽつと話し出した。根気よく聞いていくと、幾つか気になる事があった。
火魔法の練習ができる時間は朝に限る事。
たき火はディアが自腹で用意した事。お腹から火が出るらしい……模様から噴き出す様は異様と言えた。
人様に感謝と服従する事。落ち零れから選ばれ大人になるらしい。ディアも良く知らないと言う。
私に言わなかったのは、嫌われたくないから。嫌う理由なんか無いのに。
「だって、だってぇ……。」
「ディア、昨日の続きだよ? ぎゅー。」
「あぅ、セレス……ぎゅぅ。」
あぁ、もう。また手伝いに遅れちゃうなぁ。ぐずるディアを宥め、子どもの頃へと思いを馳せた。
こういう風に泣いたりして、毎日遊んでいたなぁ。
物思いに耽っていた私の耳を、帽子の尻尾が覆う。変な声が出た……。
『その子は大人の女性だから問題ないよ?』
えっと、マノン? 問題って何の? と頭に直接聞こえてきたマノンの声に反応する。
問題しか無い気がするのに。まさか性別関係ないのか。
『相思相愛なら障害は乗り越えられるよ?』
戸惑う私の頬に手を添えたディアが近づき——
――――――――――
「何なの? この空気……。」
「幸せそうですね。」
「え? 良いの? 女の子同士……。」
「あなたが言いますか。」
「え?」
「……はぁ。」
――――――――――
被害
特になし?
補足
大人になる儀式:落ち零れに文様を施し、服従させる。ディアは孤児なので問答無用で選ばれた。劣悪な環境ではない。(差別意識やいじめ等)
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