第32話 私という落ちこぼれ。
ディアが寝付いたのは、夜半過ぎだった。
恥ずかしかったらしく、寝床に入ろうとしないディアの説得に時間を取られた。アンナさんに断ってシャワーを浴びたので、ディアも私も臭わない。
今、私の腕の中でスヤスヤと寝息を立てる少女は、少し泣いていたようで。指で頬をなぞると、寝返りを打とうとして体をよじった。
朝、起きれるかな。クマできたら嫌だなぁ。
小さくため息をついた時、ディアのお腹がチラ見していた。
掛け布団代わりの毛布を掛けて上げようと体を起こした私は、ディアの鳩尾辺りに痣がある事に気づいてしまう。
「これ……模様?」
「それは落ちこぼれって意味の証だよ。毎年決めてるんだ。」
後ろで寝ていたアンナさんが目を開け、こちらを見て言った。意味は置いておくとして、それなりの人数がいるのだろうか。
「気になるかい?」と言うアンナさんに曖昧な返事をすると、「明日、教えてあげるから寝な。」と言われてしまった。
「人の優劣なんて、興味無いよ。すぐ
皆が寝付いた頃、帽子は独り言ちる。残念ながら私の耳には届かなかった。
寝室の扉が音も無く開かれる。
「セレス、朝だよ。起きとくれ。」
「……おはよう、ございまふ。」
寝ぼけ眼であいさつする私に、アンナさんは苦笑して厨房へ歩いていった。ディアは先に起きたらしい。鳥の囀りが見回す室内に響いた。
部屋に一人きりだと理解すると、少し寂しいものがある。
顔を洗おうと、井戸へ向かう途中で頭の軽さに気づいた。いつも乗っかっている帽子が、いないのだ。
「あれ? マノン?」
私は立ち止まり、誰もいない廊下と戸口から見えている井戸を見る。何だろう、寂寥感と言うか心にポッカリと穴が空いたような……。
胸に手を当て、感情を宥めていく。何を考えているのだろう。厨房にはアンナさんたちがいるし、さっさと顏洗って、厨房に行けば良い。
そんな思いから早足で井戸へ向かった私が見たものは、慌てるディアと——
——たき火に焼かれ、一部が燃えているロシア帽子だった。
――――――――――
「んん? 雲行きが怪しくなったかしら?」
「問題ないかと。」
「そう? マノンは何をしているのかしら。」
「不思議ですね。」
――――――――――
被害
主人公の心:以後、一人で居る事を嫌がります
補足
落ち零れ:容器から零れ落ちた何か、を指して使っています
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