第25話 雀 仕込み 営業

「うあーー! ……あれ?」

「あービックリした。起きて手伝っておくれ。」

「はーい、すいません。」


 起こしに来たアンナさんが、入口で驚いた顏を覗かせている。

 飛び起きた体勢で謝ると、「そんな事で謝らなくて良い」と言われた。すぐ謝るのは日本人の性だ。

 寝ている間に掛けてくれたらしい毛布を畳んでいると、アンナさんは私の横に立った。


「あんた本当に育ちが良いね……。どっかのお姫様じゃないだろうね?」

「ないない。平民ですよ。」

「ほんとに?」


 アンナさんを躱しつつ顔を身綺麗にして手伝いを始める。

 ディアは食堂のテーブルを吹いていた。私に気づくと寄ってきたので抱きしめる。抵抗されないから良いんだよね?


「おはよう、ディア。」

「セレス、おはよう。やっぱセレス良い匂いする~。」

「そう? ……自分の臭いは分からないけど。」


 何だろう、良い匂いがするらしい。セレスがしたのだろうか。帽子マノンは尻尾を振るばかりだ。

 ディアと開店準備を終える頃には、食堂内を仕込みの香りが占めていた。

 今日は、トロトロのスープらしい。あれ? ジューシーな香りしかしないよ?

 鼻を動かす私たちを見て、アンナさんは言う。


「現金だねぇ、あんたたちは採取行ってきておくれ!」

「「え~。」」

「ほら、昼食も入れといたよ。」

「ディア、行こうか?」


 隣で黙ってしまったディアに優しく聞いてみると、風のギルドに寄りたいらしい。門の外にいる、と伝えると申し訳なさそうに頷いた。本当に、何で一緒に居たがるのだろう。




 ディアと別れ、門を抜ける。

 門番のおっさんたちに、返済頑張れよ、という声援を頂いた。今晩の注文は、つまみ食いしてやる。


 自身の招いた爪痕を一瞥し、ため息を吐く。つまようじが無いと、ただの少女。それが今の私……字面最悪だな、と思う。【ギギ】で埋め直す事など造作もないはずだが、手元に落ちてこない。まだ使えないのだろう。

 待ち時間に採取を終わらせて、昼食も食べないとね。


「あ、そろそろ戻ってくるよ?」

「ディア……あぁ!?」


 門を振り返った私の手元を【ギギ】が、足に刺さる。まるで剣山が刺さったような痛み。図らずも【ギギ】が自身にも刺さる事を確認してしまった。


「固定ダメージは無いから大丈夫だよ?」

「痛いものは痛いんだよ、てぃ。」

「ア―――!」


――――――――――


「しばらく寝るわね。」

「お仕事は——」

「寝るわね?」

「仕事。」

「……はい。」


――――――――――


被害

 帽子の右足「さすって~。」

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