第24話 SS 少女は見た

 揺り起こされる。どうやら寝すぎたらしい。睡眠が足りていない時の、怠さと節々の痛みを感じない、これが若さか。

 体を起こし、伸びをしながら目を開ける。いつものツナギを着ていた。


「ほぁ~、え? 草……外?」


 青空には動かない雲が、太陽や月は見当たらない。

 無風にもかかわらず芝生は、10メートル四方で途切れていた。

 人は見ず知らずの場所で起きた時、呆然とするらしい。自身の声が元の太い声に戻っている事に気づき、体を確認した辺りで後ろからつつかれた。

 振り返った私を待っていた人物は、微笑みとともに聞いてきた。


「おはよう、私の体の感想を伺いましょうか?」

「あ、私……じゃない、セレスか。」

「理解が早くて助かります。で?」


 「で?」と聞かれても困る。女性に体の感想を聞かれる事など初めてだからだ。

 セレスは笑顔のまま芝生に座っているが、放つ威圧は尋常ではない。後退ろうにも芝生から手が落ちそうになり、止まらざるを得なかった。こわ……落ちたら、どうなるんだ?

 眼下に広がるに固唾を飲み込んでいると、セレスに再度突かれた。

 渋々、セレスの問いに答えることにする。


「えーっと、とても良いと思います。はい。」

「まったく。変な妄想しないで下さいね……。」

「ちょっと待て。何故、単語を知ってるんだ?」

「あなたの記憶は私に提供されています。勉強させて頂きました。」


 セレスの精神は少しずつ消えていくらしい。空間の大きさが精神の摩耗を表すそうだ。

 淡々と話すセレスは達観しているのだろうか。精神が消えるという事は……。

 懸念を抱いた私から目を逸らし、彼女は言う。


「あなたは感じなかったかもしれないけれど、全身ボロボロだったのよ?」

「……。」

「だから良いの。あなた用の体、使って? あ、あとディアをよろしくね?」


 返答に困る私の胸にセレスは両手を当て、笑顔と共に突き飛ばした。

 青い空に落ちていく。遠ざかる彼女の声は聞こえないが、口の動きから何が言いたいのか、分かってしまった。


「ありがとう、死んでくれて。」



―――――――――――


「……はぁ、やってくれたわね。」

「彼女は——」

「怒ってないわ。」

「——はい。」

「でも、ここへ。」


―――――――――――


被害なし


補足

 夢の話。自分の事のように理解できる他人の話とは、どの程度の言葉で通じるのだろう。

 次話、主人公は起床。

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