第23話 足音 心音 玉音

 息を整え、着替え終えた私たちは、しんと静まり返った食事処に戻る。おばちゃんたちは寝ているのだろう。足音を立てないようにゆっくりと歩く。

 昨日寝た部屋に行くと、案の定アンナさんたちは寝ているようだ。

 静かにカギを掛け、私たちも空いているスペースに寝ることにする。

 

「おやすみ、ディア。」

「くっついて良い?」

「……おいで。」

「うん。」


 小さな女の子を抱きながら寝る。鼓動が高鳴るのを、どう抑えれば良いのか。

 一人悶々としていると、背中越しに声が聞こえてくる。


「良い声で鳴いてたね、久々に聞いたよ。」


 ギョッとして振り返ると、部屋のあちこちから含み笑いが聞こえた。皆、起きてるんじゃん。

 慌てて言い訳をしたが、この村の女性は皆通る道だと教えられた。全然うれしくない。

 私の声真似までして楽しそうなおばちゃんたちを尻目に、不貞寝する事にした。


 が、胸元のディアは寝付けないようだ。モゾモゾと胸元で動くと、私まで眠れない。


「……子守歌でも歌ってあげようか?」

「セレスの歌が良い。」

「え? 私?」


 おばちゃんが提案してくれたが、ディアは私の子守歌を所望らしい。最後に歌ったのは小学校だぞ……。

 ディアは私をじっと見つめ、待っている。固辞しても寝てくれないかもしれない。

 はぁ、さっさと歌って寝てもらおう。下手だと分かれば、もう言ってこないだろうし。


「少しだけね。ちゃんと寝るんだよ?」

「うん。」


 囁くような声で。暗い部屋では全員に聞こえていると思うけど。

 壊れものを扱うような撫で方で。ディアを撫でていると、耳を私の胸に寄せてくる。鼓動が早くならないよう歌に集中しよう。

 帽子マノンを枕代わりにして、揺れる尻尾が調子を示してくれる。できれば音頭を取っていっしょにうたって欲しかった……。


 10分程度でディアは、うつらうつらとし始めた。どうやら効果があったようだ。もう撫でなくても良いだろう。目は冴えていたが、ディアの体温を感じつつ、このまま寝てしまおう。

 ほんの少し夜は長くなりそうだ。


――――――――――


「悔しいけれど、上手いわね……。」

「お上手ですね。誰かさんより。」

「……。」

「そんな顏をして、どうしました?」

「事実だけにぃ。」


――――――――――


被害

 おばちゃんたちの心「上手だねぇ。」


補足

 の歌唱力:小さい頃から歌っていたので、喉は

             歌えば人が立ち止まる。

 

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