第18話 初陣 戒め 海の火

 どうしよう、ディアが腰から離れてくれない。

 食堂に預けたはずのディアが、村の外に出た私に追いついて準備を手伝うでも無く……。

 森から溢れ出た一団が村と森の中間辺りまで迫っている。地面の揺れは、大きくなっていた。


「私は、どうしたら良いの?」

「90、100……火が溢れてるから、まだまだ出てくるよー?」

「マノン、聞いてよ。私、魔法、下手。どうしよう。」

「シェレシュの冗談は、いつでも冴えてるね。だよー?」


 それができれば苦労は無いんだよ、とマノンを小突くと、腰を掴む力が少し強まった。

 視線を落とすと、泣くのを我慢して下唇を突き出し震えるディア……怖いなら村へ戻れば良いのに。


 「戻る?」と聞いた私に小さく首を振るディアは、俯いてしまった。門番さんがディアを呼ぶ声も聞こえてくる。移動しようにも動きようが無いな。

 そんな私の前に【ギギ】が落ちてくる。私に出来る事と言えば【ギギこれ】を投げるくらいだろう。10メートルも飛ぶだろうか。性質を変えれば、鈍器になるかもしれない。

 ケースを見つめ、黙考する私にマノンは聞いてくる。


「針で、あの数を倒すの? あ、僕ね、から。」

「無理……手前の数匹を倒したって敷かれるし、そもそも戦ったことないよ。」

「そっかー。」


 ん? 戻れない? と疑問に思った時、思い出した。を。

 村人には後で謝ろう、と割り切り、【ギギ】を500本の毒針へと変えていく。

 ケースの中に紫色の液体まで出始めたが無視し、全力投球した。


 地面を数回跳ねた【ギギ】は蓋が開き、中身を撒き散らす。小さな紫色の水たまりからは白い煙がモクモクと上がった。マノンが「えげつない事するねー。」と茶化してくる。

 【ギギ】が戻ってくるまでの間に、ディアを引きずり、村へ戻ることにした。


 再度、ディアを引き離そうとしたが、やはり嫌がる。門番さんに怒られて、やっと離れてくれた……あらら、泣いちゃった。

 とりあえず門番さんに任せ、村の外を見る。どうやら敵は、煙を避けずに突っ切ったらしい。

毒が効かなかったのだろうか。


「いや、効いてるよ。500本分は強烈だねー。」


 マノンと問答している間に、事態は変化していた。バタバタと敵は倒れていったらしい。

 これで安心、と思う間もなく。


「シェレシュ、煙……こっち来るよ?」

「え?」


 村は壊滅の危機に瀕していた。


――――――――――


「あっさりなのは良いとして、早く『水』を向かわせなさい!」

「今、休暇中です。暖かい海で揺蕩たゆたうバカンスぅ♪ って言ってたじゃないですか。」

「……帰ってきたら、と伝えなさい。」

「御意。」


――――――――――

被害

 『火』と『水』の休暇 約4000年

 マノン山の麓 5%消失

 街の防壁 20%損傷

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