第16話 寝起き 掃除 微動

「んん……ふわぁ~。」


 食事処のおばちゃんたちは早起きだ。まだ日の出前だというのに誰か一人が起きると、次々に起きて部屋を出て行く。私もまたアンナさんに揺り起こされた。


「セレス、早く起きな、仕事だよ?」

「ん~?」

「あんた、あごなんてさすって、どうしたんだい?」


 どうにも長年の癖は抜けないようで、ひげの確認をしてしまった。脇なども生えてないぞ? 詳しくは言わないけど。髭がないけれど、体が少しだるい……。

 なんでもない、と言って立ち上がると、アンナさんが部屋の出入口から言ってくる。


「朝が弱いのかい? 早めに慣れとくれ。あと顏洗っといで。髪もだよ?」

「ふぁ~ぃ……。」


 オカンかい、と心の中でツッコミを入れておく。アンナさんの放り投げた布が頭に掛かったまま、裏の井戸へ。何人かとすれ違ったが……あれ、もう仕事始まってるのか?


「お寝坊さんかな? 朝は忙しいんだから急いでねー!」


 少し遅れ気味のお姉さんが、すれ違いざまに教えてくれた。やばい、私一番遅いじゃん。ほんの少しだけ急いで支度したくませ、厨房に顔を出すと、案の定。

 

「こっちはもういいよ! 机を拭いたりしておくれ!」

「わかりま」

「それはこっちに! セレス! 道具は階段下だよ!」

「はいー!」

「その皿、持ってきておくれ!」


 まるで戦場か、という様相ようそうていしていた。開店前の厨房なんて、ドキュメンタリー番組でしか見たことがなかったため、少し雰囲気にまれていた。

 水みから調理、掃除まで自分から動いて仕事見つけ、こなしていく。何度も注意された。


 後から聞いた事だが、昨晩の売れ行きが仕込み以上だったため、今朝はいつも以上に忙しいらしい。景気の良い話だなぁ、と他人事ぶっているとアンナさんにチョップされた。解せぬ。

 鍋料理をコトコト煮込む頃には手が空いた人から、それぞれ次の仕事に向かう。どうやら食事処以外の仕事もあるらしい。私は掃除の続きだけど。


 アンナさんから『じゃがバターっぽい朝食』を2つ頂くと、帽子マノンが無言のプレッシャーを放ってくる。……分かってるよ?

 マノンにも食べさせて、身だしなみを整えて準備万端。お客さん来るかなー、と思ったのもつか、一人の少女が来店した。


「アンナさーん! 来たよー!」

「あ、いらっしゃいませ!」

「ええぇ―――っ!」

「え? 何? え?」

「二人とも落ち着きな!」


 いきなり目の前で大声を出され、あたふたしてアンナさんに怒られた。散々だ……。で来店した子はのだろう。

 来店早々に大きな声をあげた少女は、私より少し小さい背丈せたけの猫耳で。灰白かいはく色の髪が朝日に照らされ、すごくきれいだった。尻尾は股の間にはさんでいる。


 なぜか無性むしょうでたい、撫でて良いかな……。


 腰に抱き着いて見上げてくる双眸そうぼうに、よこしまな考えを抱いていた私は、地面の断続的な微動に気付かなかった。


————————————


「そういえばマノンの代わりは置いてくれた?」

「え? 考えておく、と言っていたではないですか。」

「え? 今、あの山って……誰が押さえ込んでいるの?」

「あの毛玉が……あぁ、いないですね。」

「う~ん、大丈夫かしら……。」


————————————

 補足

 ヒロイン? ディアでした。乳白色ではなく灰白色!

 マノンを含まない戦力は、主人公とトントンです。

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