第10話 宿、豚小屋、枯れ井戸の中

 宿を確保しよう。門番さんに聞いた宿はすぐに見つかった。村の中央の広場に面していたし、干してあった数枚のシーツが風になびくのが気になったから。

 2階建ての宿【アコモ・マノン】の入口横に大きなベッドが描かれた看板があり、分かりやすかったとも言うが。


「いらっしゃい、1泊で良いのかな? 銀貨5枚だよ。」

「えっ。」


 宿に入って数秒で、宿の確保に失敗した。応対した年頃のお姉さんの笑顔を直視できない……。銀貨1枚しか持ってない事を伝えると、裏の小屋で良いなら、と言ってくれた。一応、施錠は出来るらしい。寝込みを襲われても困るしね。


「でも、本当に小屋で良いの? 女同士だから言うけど、余裕を持った移動をしないと色々危ないよ?」

「手持ちが無くて……。」

「どうやってここまで来れたんだか……最悪、ギルド行ってみたら?」

「ギルド?」


 お姉さんが私を上から下まで見て、提案された。聞いてみると、村にはギルドがあり、仕事の仲介をしてくれるらしい。ファンタジー要素か、と思ったが困った様子で「行ってみれば分かる」と言われてしまった。


「で、来たわけだけど。」

「ようこそ、風のギルドへ。歓迎しますよ?」

「初めてなのですが。」

「登録ですね、こちらへ。」


 宿から出て、ものの10秒で着いた【風のギルド】。広場の中央にあり、すぐに見つかった。

 宿に移動する時に、広場に数名立っているな、とは思ったんだよなぁ。

 苔で覆われた井戸の前に案内された。釣る瓶つるべなども無ければ、水も無いらしい。

 枯れ井戸の周りにギルド員が立ち、準備を整える。


「では、この井戸を覗いて下さい。風を感じられると思いますので。」

「え? そんなので登録になるんですか?」

「はい。」


 ギルド員は至って普通だ。茶化しているようには見えない。立ち止まっていても埒が明かないので、とりあえず覗いてみよう。帽子マノンを押さえた方が良いかなっと。

 当たり前だが、井戸の底は光が届きにくい。水が無いなら光の反射も無いだろう。苔に触りたくないので覗き込むように身を乗り出し——


 ゲシッ


「ふぇ?」


 ——思わず声が漏れた。目を見開いた。

 為すすべも無く自由落下していく自身が、底に広がる闇に落ちていく。


「あ、ええっ! ああぁぁ——……!」


 手を動かしても何もつかめず、数秒で視界は闇に閉ざされ、今さら「蹴り落された」と気づく。スカイダイビングの恰好のまま、底に激突する恐怖に目をつぶってしまう。















「……そろそろ良いかな? 風を感じたかい、?」


 涙やらで酷い顔になった私の耳に聞こえてきた声は、相棒マノンの舌足らずな言葉だった。


——————————


「落ちるのって嫌いなのよね……。胃が上がる感覚っていうかね。」(ブルブル)

「そうですか。」(メモメモ)

「……の高さ分かってるわよね?」

「はい。」

「やめてね?」

「……ところで、お仕事の方ですが。」

「お願いします、やめてください、一心不乱にお仕事しますから!」

「では、おやつは不要ですね?」

「……はぃ。」


——————————


被害

セレスの心『トラウマ:暗闇ダイブ』


補足

村の住民は、わざと教えません。名物なので。

……という設定。

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