第2話 できること 小屋 ジュクジュク
「おーい、そろそろ送っちゃうね。がんばって!」
「ちょっと待って、説明を——」
「ふっ!」
綺麗にキマったハイキック。声をあげる暇もなく意識を刈り取られ……俺の体は光の粒子となり、虚空に消えた。
――――――――――――
対応していた男を送還した場所で、粒子を見送る。
「……ふぅ。演技は疲れるわね。」
「おつかれさまです。よろしかったのですか?」
「少しは、ね。」
「逐次報告しますか?」
「お願い。」
「わかりました。」
姿無き従者に要件を伝え、女性は目を閉じる。
「少しだけ、だからね。」
—――――――――
「……はっ!」
飛び起きて首を確認する。折れてない? 折れてないよな。ふぅ、何なんだよ……ってここは?
ログハウスのような4畳半程度の広さの部屋だ。俺は木製のベッドで寝かされていた。
窓が1つあり、ベッドの下に革靴が置いてある。ラーメン屋を出た時はスニーカーだったはずだ。首のコリをほぐしている自分の腕が視界に入る。手のひらを目の前に持ってくる。
「えっと、どうなってる……。」
現状を把握しよう。
不意に漏れた声が俺の声ではない。喉ぼとけが無いけれど、首よし。
手は女性の手だ。色白で細く、小さい。さっきから肩にかかる鬱陶しい物……黒髪は手入れされたように滑らかだ。断じて、ラーメン屋で汗だくのボサボサ頭ではない。胸は
着ている服は布か麻だろう。品質表示タグがないので手触りだが。ってツナギはどこだよ。靴もどこ行った?
手元にある爪楊枝【ギギ】の見た目は木製の普通のソレだ。『固定ダメージ』と『性質変化』、それに手元に戻ってくる、だったか。とりあえず1本を手に取ってみる。
じーっと見ていたら鑑定でも……できないらしい。そこまでご都合主義ではないか。あぐらをかき、手を伸ばした位置にギギを置く。戻ってくるか試してみよう。
「……いってぇ!」
実験はアッサリと成功した。ただ、戻ってくる時に尖端が下を向いて現れたため、手に刺さった。このつまようじ……やりよるわ。ケースに戻しておこう。
ファンタジーに定番の『ステータス』や『アイテムボックス』なども試してみたが、出てこなかった。数字や文字で確認できれば良かったのだが。
「よっと。」
ベッドに寝ていても始まらないので、立ち上がる。革靴は拝借しておこう。
改めて自身を見る。ケガは無いようだ。視線が少し低いから150センチくらいか。髪が肩を掠める程度あり、紐があれば縛っておきたい。筋力は男の時よりも無いようだ。こればかりは仕様が無いっと、【ギギ】から手を離して数分が経ち、
ドンッ
「おわっ……楊枝かよ。手から離れると何度でも戻ってくるのか。」
何度も手に落ちてくる。靴を履くたびに落ちてくるのは嫌だな。戻ってくる場所をケースの中に変えられないだろうか。
『性質変化』
1本で試してみると、上手くいった。声を出しても出さなくても出来た。まさか残りも1本ずつ行うつもりはない。両手で挟めるだけ挟んで行う。……これでOKかな?
性質、と言うくらいだからアレコレ試してみよう。
「やば……これ面白いわ。」
ゴッソリと鷲掴みにして投げる。元の世界では後片付けが面倒でやらなかったが、戻ってくるんだもの。ただ投げているわけではない。毒の性質を持たせると、尖端が紫色に濡れた。床に当たると、木がジュクジュクと音を立てながら溶けていった。……どーしよ、床。
気を取り直して、重さを変えてみる。1本では、元が1グラムなので100グラムにすれば多少重くなったのは分かるが、投擲に支障は無さそうだ。全部を重くすると筋トレができそうだ。やらないけど。
…………
……
「こんな所、かな。」
今ある物は調べ終えた。窓の外を見ると、日が傾いてきている。おなかの減り具合は大丈夫だが、明日には食べ物が欲しいところだ。夜の森を歩く度胸は無い。怖いし。
ベッドに戻ってケースごと【ギギ】を持つ。『性質変化』で結界を作ろうとした実験で格子状の囲いを作れることが判明した。つまようじバリアーである。気分はジャングルジムの中にいる子どもだ。半球上に配置しているため隙間は多いが、ある程度は守れるだろう。
つまようじに囲まれるなんて絵面はアレだが、貴重な経験だろう。
明日は日の出前に散策しよう、などと考えながら早めに寝ることにする。
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「あ、はい、寝たようですね。さすがに小屋が壊れるかと思いましたが、ギリギリ耐えました。」
「ギリギリ……? 明日、小屋を出るようなら回収して帰還を。」
「よろしいので?」
「ええ。」
「わかりました。付近の魔物は排除しておきます。」
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本日の被害(?)
小屋 耐久度 41/2000(床:腐食、部分崩壊)
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