優しい恋人

麗華

第1話

「疲れた~~~!!!

 明日、いきたくなぁい!!!」


「なんだぁ?いきなり……」


ポカン、と音がしそうなぐらいの顔をして振り返ったのは付き合って2年になる恋人、リョウ。

う~、と下を向いた私に軽くため息をついてポンポン、と肩をたたく。


「なんか、あったか?」


「なんもない……

 でも、行きたくないの~!!!」


うなる私に、リョウは


「そっかぁ、まぁ、そんな日もあるわな」


そんな日は、サボっちまえ、なんて適当なことを言ってる。

それができたらこんな所で愚痴らないっての……

バカ!!!


なんだか、今日は上手くいかない。

天気のせいか、お客様も機嫌の悪い人が多かった。

大きなミスはないものの、小さなミスがやたらに多い……

自分で情けなくなるぐらいのミス。

1発目で気をつけていたのに、注意しても注意しても、ミスってしまう。

自分で何とかできる範囲のミスなのがせめてもの救いだけど、

おかげで時間がかかってかかって、結局かなりの時間の残業。

自分のミスが招いた残業だから当然サービス残業……


遅くなったし、イライラするし、自分のふがいなさが悲しいし。

リョウを呼びつけて、呑みに出て、帰り道での冒頭のセリフ。


黙って笑って聞いてくれてるリョウにまで、イライラする。

コイツは、会社に言ったら管理職なんだよなぁ。

こんなに能天気なくせに。

八当たりの視線に気づいたのか、困った顔で少し笑った。

ああ、その顔にも腹が立つ。


「今日、泊ってくか?」


私の家に送ってくれるところだったが、イライラしている私は自分の部屋に還るのが好きではない。

自分の好きなものに囲まれているのにイライラしていると、たまらなく虚しくなるのだ。

黙って頷いた私の手をつないでリョウの家まで歩いていく。


途中、イライラとしながらリョウの手を思いっ切り握るが

黙って握り返してくれる。

その優しさに、余計に泣き出しそう……。



「ホレ、先にシャワー浴びてきな」


笑ってタオルを貸してくれる。

黙ってシャワーを浴びてくれば、上がるころにはビールとつまみが用意されている。

う~っと言いながら呑み始めたら、リョウもシャワーを浴びに行った。

ちょっと、悪かったなぁ。


少し冷えた頭で考える。

リョウだって、仕事大変なのに。

いきなり呼び出して、愚痴って、泊りに来たのにずっと不機嫌。

これ、私がやられたら笑ってなんていられない……。

今更ながら心の広い恋人に感謝する。


「リョウがシャワーから出たら、謝ろう……」


「ん?別にいいさ、気にしてねぇよ?」


「うわぁ!いつの間に?」


独り言のつもりだった私は、ビックリして思わず大声を出した。

それがツボにはまったらしく、リョウは笑い転げている。

う~、とうなりながら見つめる私に、ようやく笑いをかみ殺す。


「悪かった悪かった。さて、呑み直すか?」


「……うん」



今日あったこと、今の気持ち、上手く言葉に出来ない私は

黙ってリョウにくっつきながら呑み続ける。

リョウもテレビを見ながら、黙って呑んでいる。

テレビを見てるけど、ちゃんと私の肩を抱いて、黙って甘えさせてくれている。


「今日ね、色々ちっちゃいミスをして……」


「うん」


「気をつけたんだけど、直せなかった……」


「そっか」


「明日も同じだったら、どうしよう……」


「明日も、またウチに泊ればいんじゃねぇ?」


リョウらしい解決策……

クスっと笑えば、リョウも笑った。


「笑う角には福来る、って言うだろ?笑って寝れば明日は大丈夫!

 こんなにミスを気にしてるんだから、明日は大丈夫だって!」


大丈夫、大丈夫、と私の頭を撫でてくれる。

あったかい……


「うん……」

朝私が起きるころにはリョウは出勤。

いってらっしゃい、と見送る私に少し心配そうにキスをしてくれた。


「大丈夫、今日はなんともない!」


そういって頭を撫でてくれた。

なんだかリョウの方が心配そう。


終業時間。

心配していたらしいリョウからメール。。。


『今日もウチ泊るか?』


笑って返信


『今日は大丈夫~』


『良かったな、じゃぁ週末な!』


やけにあっさりしたメール。

知ってる。

ほんとはリョウ、今忙しいんだ。

毎日のように終電ギリギリに帰ってるって聞いた。

そんな忙しいのに、昨日は付き合ってくれた。

感謝、だなぁ。


『忙しいのに、昨日はごめんね。週末、楽しみしてる!』


素直な気持ちを送れば


『俺も♡』


……

そういや、昨日はイライラにかまけて一緒に寝たけど、何もなかった……

途中リョウの気持ちは察したけど、シカトした


それでも黙って甘えさせてくれて、心配してくれてる。

週末、たまには私の運転で、ゆっくり温泉にでも行こうかな。





「おい、左寄りすぎ!」


「……」


「そろそろ右だぞ、車線変更……」


「え?え?」


「……そこのでっかい駐車場に入れるか?運転変わる」


「はい……」

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優しい恋人 麗華 @kateisaienn

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