タコヤ・キプレート 3

 全ての球、球状のものが集まった。


 街から少し離れた、だだっ広い荒野で儀式を行うことに。


「何が起きるか分からないから」と、一応ランコには伝えてある。

 丸一日経っても連絡すらない場合は、この荒野に来てくれ、とだけ。


「平気か?」

「大丈夫だよ。いざとなったらGMさんの鉄拳が全てを終わらせるさ」

 ルゥは黙々と、鉄板に球体をはめ込む。

「ランコの腕っ節をアテにしすぎだろ」

 ギドの突っ込みをスルーして、ルゥは儀式用の呪文を唱え始めた。


 言語が独特すぎて、ギドには認識できない。だが、不安や警戒心を煽る言葉であるのは確かなようだ。その証拠に、全身の筋肉が電流を帯びたように張り詰めだす。  空が、わずかに薄暗くなっていく。まだ朝を迎えたばかりだというのに。灰色の雲が、青い空を覆い尽くし始めたのだ。


「おお? なんか球が光り出したぞ」

 儀式盤の上に置かれた七つの球が輝き出す。まるで、命を持ったかのように。

 空を見上げると、雷鳴まで轟きだした。

「おいおい、雷まで起きてるぞ。大丈夫なのか?」


「くるよ」


 いつでも対応できるように、ギドは剣を側に置く。

「おお、浮いてきた浮いてきた」

 球が輪になって、浮き上がる。段々と距離が縮まり、一つになる。光がいっそう強さを増し、人の姿を形作った。

「ほら見ろよ。オレの説の方が正しかったじゃねえか!」

 得意げに、ギドが光を指さす。

 本当に儀式用の金属板だったらしい。ギドの説は正しかったようだ。


 突然、落雷に見舞われた。

「危ない!」

 素早く反応し、ギドはルゥを抱えて地に伏せる。


 雷光が直撃して、球体たちが、更に光り輝きだした。


 予想外の出来事に、ルゥとギドは目を覆う。

 球体たちは稲妻を吸収しているかのように、ますます眩しくなった。

 ようやく光が収まる。雷の力を吸い尽くしたらしい。


 ギドたちは目を開ける。

 

 コウモリの羽根を背負う少女が、二人の目の前にいた。

 見た目でいうと、一二歳前後くらいだろうか。


「わあ、なんだこいつは?」

 立ち上がろうとしたギドが、尻餅をつく。ルゥに羽交い締めにされたからだ。

「ギド、見ちゃダメ!」

 後ろから、ルゥが両手で目隠しをしてくる。

 

 よく考えたら、魔物の少女は何も身につけていなかった。


「キミもデリケートな所を隠したまえよ! 目のやり場に困る! そうそう、その蜘蛛の糸と植物の種で。そうそう!」

 ルゥは、目の前の少女にあれこれ指示を出しているらしい。

 ギドの目から、ルゥの手が離れる。


 魔物の身体はルゥより小さく、胸はランコ並に大きい。病的に身体の線が細く、灰色の肌を持つ。顔立ちも幼い。

 蜘蛛の繊維と植物のツルで作ったのか、少女は黒いレオタードを身に纏っていた。

 胸元に輝く宝石は、カトブレパスの瞳だ。


「我が名はシエロ・アーガス。この一帯のモンスターを統べていた、混沌なるモンスターの王……の娘」


 シエロの口調からは、何の感情も感じられない。いわゆる無口キャラのようだ。

 七つの球を手に入れて、誕生したのは、「混沌なるモンスターの王」というモンスターらしい。

 なるほど、「コナモン」ね。


「随分とちっちゃいね」

「生まれたばかりだから」

 ルゥも大概背が低いが、シエロは更に見た目が幼い。

「目的は世界征服か?」

 しばらく考え込み、シエロは口を開く。

「やれるだけやってみるつもり」

 思考も単調な少女である。

「考え直してくれねえか? お前だって、いきなり誕生して、ここら一帯の人間を殺せって言われても困るだろ?」

「言われてみれば」

 よし、話の分かる魔王で助かった。

 シエロがギドと手を取り合おうとした瞬間、シエロとの会話に、横槍を入れた存在が。


「騙されてはなりません、シエロ様!」

「あなたの先祖は人間に退治されたのですぞ! あなたが復活したのは復讐のため!」


 ギド達の頭上に、二つの影が現れた。

 ひとつは、氷原地帯を収める女王。

 穏やかだった表情はなりを潜め、怒りと恨みが混ざった顔をしている。

 もうひとつの影の正体は、古城を根城にしている赤黒い竜だ。

 氷の女王が、竜の首にまたがっている。


「テメエは、氷原地帯の女王!」

「オボロ竜に載って出てきたよ!」

「さあ、混沌なるモンスターの王よ、今こそ我が魔族が復権する時!」

 闇の勢力二人が、シエロに戯言を吹き込む。

「あいつら、余計なことを」

 口を閉ざしてやろうと身構えるが、相手ははるか上空にいて、ギドの剣は届かない。

「でも、それも昔の話。ここにいる人間が、先祖を倒した訳じゃない」

 表情は読めないが、シエロは困っている。あちこち向いて、回答を求めているらしい。

「人間を許すというのですか!?」

「王よ、人類殲滅は我々の悲願! 人間殺すべしですぞ!」

 氷の女王とオボロ竜が、シエロを必死で焚き付ける。

 困惑顔のシエロが、ギド達に向けて手をかざす。

「そうです。まずはその二人を始末するのです」

 氷の女王が、なおもシエロを煽った。

「特大魔法?」

 なぜか疑問形で、シエロが魔法を唱える。

 ここまでか。ルゥの前に出て、ギドが大剣を構える。

 

 ポス……と、シエロの手から空しく煙が上がった。


「な、どうしたというのだ?」

「何かの間違いなんじゃないの? もう一度お願いします」

 二体の魔物が、シエロを焚き付ける。

 だが、何度やっても結果は同じだった。シエロの手からは、小さく煙が立つばかり。

「どういうことなんだ?」

「きっと本人に闘争の意思がないからだよ。ワタシ達を攻撃する目的がないんだ」

 いきなり人を傷つけろと言われて困惑しているらしい。困っているシエロの表情を見ていると、ルゥの言葉通りなのだろう、と思われる。

「どうも、調子が出ない」

「はあ? 何を言うか、この役立たずが! 我々がどのような怨嗟をもって、この日を待ち望んでいたのか、考えたことがあるのか?」

 シエロがその気にならないことに業を煮やした魔物達は、シエロを責め始めた。

 二匹のモンスターから罵倒され、シエロはますます萎縮する。

「あいつら勝手だよね。自分たちが呼び出すようにけしかけたくせにさ」

「ああ、頭にくるぜ」

 魔王の娘にかける情けなんて持っていない。だが、ギドは彼らの叱責が許せなかった。剣の柄に手をかける。

「どうにかならんのか、魔王よ!」

「わたしは元々、そんなに強くない」

 オボロ竜が怒鳴っても、シエロは困り顔のままだ。

「それじゃあ、どうにもならないってこと!? ふざけないでよ! 中途半端な魔王なんて、お呼びじゃないんだよ!」

 もう我慢できない。剣を握り込んで、身構える。

「お呼びじゃねえのはテメエらだ! やるぞルゥ!」

 ギドの後ろでは、既にルゥが手帳型の魔道板を開いていた。

「分かってる。ただ突っ立ってただけのワタシじゃない!」

 高身長のギドの背丈並みに巨大な大剣に、オレンジ色の魔力補正が入る。

「炎上効果付与。剣を振る速度、切れ味、スキルぜーんぶマシマシ完了! いっけー、ギドッ!」

 魔力で剣が強化されているのを確かめ、ギドは柄を握り込む。

「他人のフンドシで漁夫の利を得ようなんて、虫が良すぎるんだよ!」

 二匹もろとも巻き込んで、剣を大きく振り上げた。

「ぶっ飛べ、モンスター共ぉ!」

 フルスイングで、二匹のモンスターを剣戟に巻き込む。

「むわーあ!」

「バカな、人間ごときにーっ!」

 あっけなく、二匹のモンスターが大空高く吹き飛ぶ。

「月にまで飛んでいったか?」

「その前に大気圏で焼け落ちそうだけどね」

 ボスクラスの強い部類だったのだが、ギドの怒りが勝った。

「さて、帰ろっか」

「だな」


「待て待て待てえええい!」

 だが、二匹のモンスターたちは一瞬で戻ってきた。


「おのれ忌々しい人間共め」

「モンスターのボスを舐めるんじゃないよ!」

 二匹とも傷ついているが、まだ戦闘不能ではないらしい。

「へえ、さすがボスクラス」

 どうすべきか。やはり二人相手だと厄介だ。もう一度さっきのコンボはできない。

「人間ごときに遅れを取る我々ではない!」

「あっそ。じゃあ、真の魔王の力ってやつを、試してみなよ」

 ルゥが、カバンに手を突っ込んだ。取り出したのは、飲み口が細い薬瓶だ。紫色に輝く液体が入っている。

「薬局ちゃんが作ってくれた、特製魔力回復剤だよ」

 シエロはためらうことなく、瓶の中身を一気に飲み干した。

「特大魔法を撃った程度だったら、たちどころに回復するんだって。どうかな?」

「力がみなぎっている、と思う」

 自身の両手をまじまじと見つめながら、シエロは何らか力を確認する。

「うん。わたしにも、魔法が使えそう」

「じゃあ、あいつらに向かって撃とうか。あれだけ大口を叩いたんだから、また不発かもしれないよ」

「うん。やってみる」

 シエロが両手をかざす。

 竜と氷の女王の間に、オレンジ色の光が一筋差し込んだ。摘まめば消えてしまいそうな、か細い光である。

「ふん、やはりこの程――」


 オボロ竜がシエロを嘲ろうとした瞬間、轟音が竜の後ろで轟いた。

 光が地面に触れて破裂した音である。

 土煙が晴れると、クレーターなんて生易しい描写では表現しきれないほど、底の見えない穴が開いていた。

 辺り一面の土や石は、シエロの放った魔法の熱によって、すっかり溶岩となり果てている。


 草木も生えない荒野を選んで正解だったと、ギドはしみじみ思う。

 これが街中だったら、大惨事となっていた。


「これぞ、魔王の力」

「素晴らしいわ」

 さっきまで息巻いていた二匹のモンスターも、あまりの光景に目を奪われている。

「でもさ、子供だましかもしれない。だからさ、彼らにもう一回実践してもらおう」

 無邪気な表情で、ルゥがシエロをたきつけた。

「いいの?」と、シエロはルゥに聞く。

「大丈夫大丈夫。ボスレベルだし。シエロが全力出しても、ヤケドするくらいじゃないかな? あいつらめっちゃ強いから」

「そう。では全力で」

 まったく疑いのない顔で、シエロは両手をかざそうとした。

「じょじょ、冗談じゃないわ! あんなの撃たれたら灰になっちゃうわ!」

「えー? また不発になるかも知れないし」

「ふざけるんじゃないよ! 私たちは同士よ! 魔法の的にするなんて!」


「はああああーっ? キミたち、さっきシエロをめっちゃバカにしてたじゃん!」

 これまで聞いたこともない声を、ルゥが発する。


「キミたちさあ、魔族のボスクラスじゃん? だったらシエロの魔法くらい、余裕で受け止められないとおかしいよね? 生きている価値ないよね? 中途半端な魔王なんて、この世界ではお呼びじゃないって、キミ達は言っていたじゃないか!」

 反論するルゥの瞳がまったく笑っていない。

 ルゥも相当怒ってるな、とギドは思う。

 

 言い争っている間にも、シエロのエネルギーは収束されていく。

「ひいいい、撤退よ! あんたの力はよく分かったから! さすが魔王だわ!」

「参った! 降参する! 非礼を詫びよう!」

 怯え切った顔で、女王と竜は飛び去って行った。

「二度とちょっかいかけないことだね」

 トドメとばかりに、ルゥは二体のボスに釘を刺す。

「相変わらず凄えな、薬局ちゃんのスタミナドリンクは」

「いんや。これ、おやつの時に飲もうと思ってた、『ぶどうジュース』だよ」

 鞄に手を入れて、ルゥが人数分の瓶を出す。

 

◇ * ◇ * ◇ * ◇

 

「帰る前に一息つこう」となって、ギドは布製のシートを広げた。

 ルゥは、ジュースの他に、弁当のサンドウィッチと小瓶を鞄から出す。瓶の中身はコンフェルトという砂糖菓子だ。

「だから、今のがシエロの本気だよ。周りに迷惑になると思って、力を発揮できなかったんだよ」

 ギドに向けて、ルゥが小瓶を放り投げる。

 瓶を受け取って、一口含んだ。甘さと酸っぱさが同時に舌を刺激する。

「キミも座りなよ」

 言ってる側から、ルゥはシエロを無理矢理ゴザに座らせた。

 居心地悪そうに思ってか、シエロはオドオドする。

 そんなシエロに、ルゥは自分の分のサンドをちぎってシエロによこす。

「ありがと」と、シエロは申し訳なさそうに礼を言った。サンドの端を口へと運ぶ。

「これ、コンフェルトっていうんだよ。別世界のお菓子を、うちのGMさんが再現したんだ。甘くておいしいよ」

 瓶に手を入れて、ルゥが砂糖の粒を指でつまんだ。シエロの口へ転がす。

「力を発揮できたとしても、わたしは」

 沈んだ顔になって、シエロはうつむいた。瓶に口を付けようとしない。

「わたしは、世界に混沌を振りまくために生まれた。しかし力不足。その辺のモンスターにすら負けてしまうかも知れない」

 シエロの不安そうな視線が、ギドを射貫く。

「ギド、わたしは役に立たない? 生まれて来ちゃいけなかった?」

 しばらく考えた後、ギドは腰を浮かせた。シエロの前に寄って、ドンと腰を下ろす。あぐらを書き直し、深呼吸する。


「オレは昔、傭兵だったんだ」


 依頼を受けては、対象を切り捨てる日々を過ごしてきた。立ちはだかるものは、誰彼構わず。剣を握っていれば、自分は無敵だと思っていた。


「しかし、負け戦に参加して傭兵部隊が全滅しちまった。捨て駒にされたんだよ、オレは」

 自分を見捨てた雇い主を捨て、ギドは逃げ出した。他の仲間も散り散りに。

 数日の後、ルゥの店の前に辿り着いた。金を稼がなければならない。職を探さないと、と思い、ギドはルゥに雇ってくれと頼んだ。

「ワタシはそのとき、『この店で一番価値のある品物がどれか当ててみて』ってテストしたんだよ」

 迷った末、ギドは店の前に立てかけてあった剣を指さした。

「それが、このブロードソードさ」

 ギドは背負っている巨大な剣をポンポンと叩く。大柄なギドの姿を半分隠すほど幅が広い。重量感と威圧感は、まさに鉄塊と呼ぶに相応しい業物だ。


「けどよ、それはルゥが処分に困っていた剣だったんだ」

『タダでいいからもらってくれ』と、屈強な男衆が一〇人がかりで担いで持ってきた代物。力自慢のランコでさえ扱えなかった。


「要するに、店で一番価値がない品物だった」


 そこに、ちょうどギドが通りかかり、一人で担いだ。片手で軽々と持ち上げ、クルクルと振って見せた。一〇人がかりで持ち上げるのがやっとだった剣を。

「ああ、オレはもう文無しだな、と思っていたら、ルゥが言ってくれた」


『キミが持つことで、ようやくこの剣は価値を持った。だから、キミもワタシにとって、価値のある人間なんだろう』と。


「それがこの《重剛剣タテカンバン》な訳よ」

 ギドは剣の鞘をシエロに見せた。鞘の表面には、鑑定屋の店名が書かれている。

 重すぎて誰も盗めないため、普段は外に出して看板にしているのだ。

 この剣が店の前にないときは、『外出中』と同じ意味となる。

「今でも、ギド以外の使い手は見つかっていない。つまり、この子はギドと出会うために、ワタシの店に置かれたんだと思う」

 ギドがコンフェルトを指で弾いた。

 放物線を描き、コンフェルトがルゥの口の中へダイブする。

「つーわけで、晴れてオレは、今もルゥのそばに立たせてもらっている」

 話し終えるまで、シエロはずっと黙ってサンドウィッチにかぶりついていた。

「ルゥは、オレに価値を見いだしてくれたんだ。ただ戦うしかできなかったオレに、未知の冒険を示してくれた。たまにどうしようもないバカをやらかすけど、根っこの所じゃ、オレはルゥには感謝してるんだ」

「バカをやるって部分は余計なんじゃない?」

 ルゥがギドの腕を肘でツンツンつつく。

「つまりよ、物の価値なんて一つじゃないってことさ」

 世界を破壊して混沌の渦に引きずり込むため、シエロは生まれたのだろう。が、当の本人にその意思も力もない。

「使い捨ての傭兵だったオレは、今は人を守る側にいる」

「だからキミも、生まれてきた意味なんて、自分で考えたらいいんじゃないかな?」

 ルゥがシエロに微笑みかける。

「自分で、生き方を決めていい」

 噛みしめるように、シエロは言葉を紡いだ。

「特にやることがないなら、オレ達と一緒に旅でもするか?」

「それも、いいかもしれない」


◇ * ◇ * ◇ * ◇


「これが、新メニュー?」

 ランコが発明したのは、丸形のおやつだった。タコヤ・キプレートの中に生地を流し込む。半球状に焼けた生地の中に、すじ肉やタコの足などを入れる。中の生地に火を通すには、アイスピックでひっくり返しすことで解決した。味の濃いソースをかけてできあがり。

「うう、ルゥの説が正しかったとはなぁ」

「そんな日もあるわよ。少なくとも、儀式用の祭壇じゃなくてよかったわ。結果的にお友達が増えてよかったけど」

 悔しがるギドを、ランコがなだめる。

 このおやつは《まんまる焼き》と名付けられた。

 試作品をギド一行がうまそうに食べているのを見てか、ランコの店には行列ができている。

 シエロも、ギドの膝の上に乗って、丸い生地を頬張っていた。

「うまいか?」

「うん。確かに、キプレートはこの為に存在する」

 口いっぱいにおやつを含んで、タコアシを噛みしめている。

「ギドは、このお料理、好き?」

「ああ、大好きだぜ」


「じゃあ、わたしのことは?」


 唐突な質問を振られ、ギドは悩む。


「もちろん好きだよ」


 シエロの熱い眼差しが、ギドを射貫いてくる。

「お前は、大切な仲間だ」

 当たり障りのない、無難な回答だと思った。

「むうう」

 期待していた答えではなかったのか、シエロの反応は鈍い。

「決めた」

 突然、シエロが立ち上がった。


「わたし、ギドのペットになる」


 シエロの口から、とんでもない発言が飛び出した。

「えっ、何だと? オレの何だって?」

「ギドに拾ってもらって、ギドの添い遂げる」

「はいいいい!?」

 唐突に、ルゥが立ち上がる。

「ちょっとシエロ、考え直した方がいいよ。いつ彼が狼になるか」

「でも、ここでギドを失うと、わたしは心の拠り所を失う」

 確かに、今のシエロを一人にはできない。

「ギドって汗臭いよ? 変な寝言言うよ? 急に抱き寄せてくるよ?」

「あんたが潜り込んでるんでしょ! アンタたちを起こしに言ったとき、見たんだから!」

 ルゥの言葉に、ランコのツッコミが入る。

「構わない。自分に何ができるのか分かるまで、わたしはギドの側にいる」

「うわ、またギドの周りに美少女が……」

 ルゥが頭を抱えている。

 ランコがルゥの肩を叩く。

「ルゥ、涙拭きなさいな」

「んもーぉーっ!」

 ヤケ食いのつもりか、。ルゥが大量のまんまる焼きを口へ放り込んだ。


(完)

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魔法の道具屋筋 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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