◇哀れな蟹はそれに落涙す ……♀

 白が、似合う。

 あの人にはどうしようもなく白が似合う。


 だけれども、同時に黒も似合う、と思ってしまった。あの人が時折覗かせる闇を連想してしまったからだ。


 いけない、と私は首を振る。

 それではあんまりな気がしたのだ。


 黒よりは、赤。

 そうだ、あの人には赤も似合う。

 高貴な色だ。

 何しろ、あの人は貴族めいているのだ。王子なのだ。

 私は笑って、滞りないよう準備にいそしんだ。


 明日。

 全部明日、決着が着く。


 これが済めば、私はもしかしたら繭から抜け出せるのかもしれない、と思った。

 少しは世の中にましなことをやってみせるのだ。


 それは、かすかな希望。

 愚かな、でも希望。


 どんな言葉を加えても、それはやっぱり希望だった。だから私は微笑んで明日を想う。


 結局、私は白と赤、両方が良いと思い直した。

 片方よりは両方で。

 どうせならば、徹底的に。


 白と赤というと、どうもワインを連想するな、だったら字面としては白と紅の方が綺麗だろう、なにしろあの人なのだし。と思った矢先で。

 ひょっとするとあの人にはそれも良いかもしれない、なにしろあの人は貴族なのだから、とまた思い、微笑した。

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