正体見たり


『じゃぁ2人に質問でもしていけば良いのでは?变化系の術は記憶等のコピーは出来てもコピーした側から見た場合と、本人側の認識で微妙な記憶の誤差があったりします』


 そう面倒そうに言うネビロス、これに関しては手を出さなくても良いと彼女としては思っているらしくかなり言動が投げやりである。


「ふむふむ、つまり…これは友達として頑張りどころじゃない!?」


「「やめて貴方が張り切ると碌な事にならないから」」


 その瞬間だけは激しくせめぎあうリーリャ2人が動きを止めて声を揃えたあたり、本当にロクな事にならないと考えているのだろう。


『全否定ですね、従者として同意しかありませんが』


「…友達…なんだけどね」


 少し寂しそうな顔をして天上を見上げるコレット。自業自得とも言う。


 気を取り直してとばかりにリーリャと雲外鏡は互いに高速で移動しながら、体術メインでの戦闘を行う。先程と違い派手な技を使わない理由としては、校舎へのダメージを恐れての事だ。


 それこそリーリャなら壁を一発殴るだけで、ウェハースのように壁を破ってしまえるのである。別に雑に更地に変えても良いのだが…それは組織に迷惑が掛かる為リーリャであれば避ける行為だろう。


「…ねぇ、殺しあうにしても外に出ないかしら、おままごとの格闘技じゃ終末の喇叭が鳴る方が絶対早いわ」


「奇遇ね、明日も学校だからさっさと終わらせたいの。宿題もやってないし……と言うかコレット暇ならやっといて頂戴」


「うぇっ!?国語系と社会系は無理だよ!?」


「数学だけでいいわ、頼んだわね!」


 そう言うと、リーリャ2人はグラウンドへと向かって小競り合いを行いながら走り出す。が、一応コレットも心配なのか荷物を全て抱えて彼女達の後を追いかけるのだった。



 一先ず窓ガラスをカチ割って飛び出すでも無く、普通に扉を開けてグラウンドまで移動する2人のリーリャ。こういう所は律儀なリーリャとしての性格が出ていると言える。


 無論、雲外鏡も此処で窓から飛び出れば彼女ではないと一発でバレるので、速る気持ちを抑えて普通に外に出るせいで中々シュールな光景である。


「外に出たのは失策だったわね、ポンコツコレットは援軍として使えない、かと言って逃げれば偽物だとバレる。一瞬の有利の為だけに外に出たのは私らしく無い行動だったわ…猿真似にしろもう少し上手くやる事ね?」


「厚顔無恥とはこの事ね、飛び出しておいて私にそれを押し付けるなんて…頭に異常でもあるのかしら?一度頭を割って中身が入っているか確認してあげましょうか?」


 リーリャはあまり意味の無い煽りはしないのだが、流石に自分の姿をした偽物相手だと文句の一つも言いたくはなるらしい。もっとも…この状況を楽しんでいるのも事実なのだが。


「ま、なんにせよ」


「ええ、貴方は此処で殺すわ」


 互いにグラウンドで距離を取り向かい合うと…次の瞬間月明かりの下に交差する二人の影。互いに心臓部を狙っての一撃だが、重なりあい逸らされた。


「流石に…!」


「埒が明かないわね!」


 互いにタップダンスでも踊るかのように土の上に円陣と六芒星を一瞬で描くと、大地から骨が剣山のように飛び出た。初動での骨や遺体のリソースの奪い合いは五分と五分、差が出るのならば此処からだ。


「がしゃ髑髏、作ってみたかったのよ」


 雲外鏡の足元より、巨大な骸骨が大地からせり上がる。


「あら、手数のお話聞いてなかったのかしら?」


 リーリャの足元より、数多の骨が湧き上がる。


 古来より数と質どちらが上かと言う問いかけがある。実力が双方同じ場合には何方が勝つのか?その答えを…少なくともリーリャが真面目に出す筈もない。彼女は常に辛辣で、ロジカルで、容赦が無いのだから。


 数と質、そう思わせての裏の取り合い手のつぶしあい。長引くことは必至であり、激戦になる事も又必至。


「先手は譲って上げるわね」


 強者、そして本物としての余裕の現れという訳では無いが、本物のリーリャは微笑みながら数歩下がり待ちの姿勢を取る。もっとも素直に待っている訳ではない、足元からジワリジワリとトラップを広げて行く程度には容赦はしない。


「あら、お気遣いどうも」


 雲外鏡もリーリャが待ちの体制を取った理由を理解している。如何にリーリャとしての思考をコピー出来たとは言えど、瞬間的な発想力は常にリーリャに軍配があるのだ。


 何も雲外鏡は、戦場における第六感に近い直感までもコピー出来る訳では無い。脳に関しては、あくまでも能力と経験と知識と思考までを盗めるにとどまる。


 雲外鏡にとって幾つか不運だったのは、リーリャがこの世界に存在できる頭打ちのスペックに達していた事。リーリャ本体は然程戦闘力が高く無い事。リーリャが自作の道具に頼るタイプであった事だろう。


 リーリャの基本戦術として火力が必要な場面では悪魔に頼り、数が必要な場面では骨や屍鬼神兵に頼るという物がある。だが、それらの"道具"は即座に用意できる物ではなく、リーリャの現状の手持ちリソースで作った骨や簡易の呪詛で、神に匹敵しかねない彼女を殺せるかと問われれば甚だ疑問である。


 何より、以前胴体を真っ二つにされた件から、より生命力と再生力に能力を振り分けている為に驚く程にしぶとくなっている。


 結論として何が言いたいのかというと…リーリャ同士の戦いではハトの争いの如く双方決定打の出せる火力が無い。そして直感ではリーリャが雲外鏡を上回る、これは他人の運を真似出来ないのと同じ原理だ。それらを踏まえて言うならば雲外鏡は決して小さくないハンデを背負って居るとも言えなくは無いだろう。


 もっとも…その上で尚勝利を互いに掴む事が出来る程度には、リーリャのスペックが侮れないのも又事実。結局の所は、双方が及びの付かない"運"という1点に収束される戦いとなる。


「じゃ、いかせてもらうわ!」


 周囲に隠形が張り巡らされた途端、5階建ての校舎より尚大きな骨の巨人が立ち上がり、恐ろしい質量でもって大地を叩いた。まるで地震と勘違いしそうになる地響きと共にグラウンドの土を舞い上げ、更に薙ぎはらうようにリーリャと骨を砕こうと腕を振るった。


「土埃嫌いなのよね…」


 そんな事をボヤきながら、まるで大縄跳びのようにリーリャと理科室の標本のような綺麗な白骨が、振るわれた腕を飛び越えようとタイミングをあわせて飛ぶ。だがタイミングが完璧であったのにも関わらず数体の骨が砕かれた。


「っと、流石」


 その巨大な腕の骨から、釘バットのような骨が四方八方に伸びて飛び越えた骨達を引っ掛けたのだ。質量と呪詛で塗り固められた骨から生じた破壊は、呪詛で固められただけの骨をガラス細工のように砕いてしまう。


 だが、リーリャは動じない。少ないリソ―スで作り上げた空洞の骨は元より様子見の為の使い捨てだ。もっとも、使い捨てにする以上ただでは壊されないのもリーリャのポリシー。


 砕けた骨達がその巨大な骨へと降りかかると、その骨粉や破片が結合し、同時に巨大な骨の椀部が融解し始める。


「…っ、カルシウム同士の結合させての結合崩壊!?」


「知識は最大限活かす物よ?猿真似だけじゃ出来ない事も沢山あるの、お分かりかしら?」


 ネクロマンサー同士の戦いで、使役している対象への制御に食い込まれるのは初歩的かつ致命的な失態だ。その為にリーリャも様々なセキュリティを入れているのだが、そもそも自分の作った物であるならばある程度セキュリティの内容が絞り込める。


 が、もちろん完璧に乗っ取るまでには行かないだろう。リーリャも其処まで甘いセキュリティの組み方をするような素人でもない。だが、最低限の解析で最高の効率を発揮する事は可能である。その手の一つが今回使った結合分解だ。


 リーリャは常にカルシウムを半流動体として使用している。流動体の利点は先程雲外鏡が示した通り、骨の形状を即座に変更して状況に合わせて戦闘を行える。そしてなにより、骨自体のタフネスが非常に上がり敵の攻撃を液体として回避する事も出来るのだ。


 ちなみに今雲外鏡が利用している巨大な骨も、流体として使用して重量バランスをリアルタイムで振り分け上手く保つ事で、超質量のままに二足歩行を実現している。普通であるならば先程の振り下ろしやなぎ払いで転倒乃至ないし破損しているのが普通である。


 さて、そんな便利な流体。実際かなりの状況に対応出来る上に制御も相当複雑化しているせいで、リーリャ以外の他者がイジれる物でもないのだ。


 だが今回はリーリャ本人が相手なので"普通"ではない。骨同士の結合部位に自らの制御が入っている骨を割り込ませ、そのまま自壊させると…あら不思議、その部位から下がボトリと腐り落ちるというトリックである。


「じゃ、片腕貰うわね?」


 そうして、腐り落ちた腕をリーリャが奪う。形状を変化し、球体化してわざわざ見せつけるように空へと浮かべて…これがお前の失敗なのだとあざ笑うように。


(ま、これで頭に血が登るような私なら楽なんだけどね…)


 ……と、実力差を見せつけたようにも見えるが、実際の所さして最初と変わっていない。相手の巨大な池の水からコップ一杯ぐらいすくってみせても、たいした事は無いように…とにかくベースとなるリーリャが大きすぎるのである。


(自分の事ながら化物すぎないかしら…?人間止めすぎね、私)


 自らの事ながら心の中で苦笑いする。今度から少しは加減しようと心の中で少しだけ反省するのだった。



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 ちょっとSSRの方一旦公開停止します、アレだよ…次あたりのコンテストに向けての小説書かなきゃいけないの忘れてたんだよ…すまない。


 コンテスト用の小説書くにあたってさしあたりリーリャみたいな狂人一歩手前のリアリスト錬金術師がはっちゃけて無双する奴か、女子供死にまくる陰鬱なイン○ィニットス○ラ○スみたいな世界に二足歩行ロボでドーン!無双!女の子キュン!みたいなのどっちか書こうと思ってるんだけどどっちが良いかな?

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