判別方法

 2人の実力は互角だった、だが…それでも敢えて差をつけるならば、最初から屍鬼神兵をつれている本物が一歩上だろう。


「っ…!気を抜くと制御を奪われかねないわね!」


 互いに骨を射出しあい、絡み合わせて動きを止めた所を屍鬼神兵が偽リーリャの腕を奪う…が、一瞬で時間でも巻き戻ったかのように再生し、次の瞬間には切断されて落ちた手が屍鬼神兵の首をへし折った。


 が、無論最初から死んでいる屍鬼神兵には一切ダメージにならない。


「やり辛いわね、私自身が相手なんて」


 雲外鏡がそんな事を口にすると、思わずリーリャが苦笑いを浮かべる。


「そういう事を言うのは、せめて私の首を取ってからにしてくださるかしら?」


 とはいえ、眼の前の雲外鏡がもしもリーリャを完全再現出来ているのだとすれば、正直本人でも殺しきれるか怪しい所なのが事実だ。


「フッ!」


「っ!隠形!?」


 突如、足に巻き付いた糸のような骨に動きを封じられるオリジナル。そのまま禍々しいまでの黒い泥のような呪詛による砲撃を受けそうになるが…。


「屍鬼神!」


 屍鬼神兵が骨の糸を切断してリーリャと共に離脱する。


「っ…外した」


「絶対的手数が違うわ、貴方に勝ち目は無い」


「そうね、なら…」


 パン、と手を叩くとムクリと顔を上へ向ける酒呑童子。


「ちょ…っと!?それは卑怯も良い所でしょう!?」


 次の瞬間、目にも留まらぬ速度で酒天童子の腕がリーリャの腹部に突き刺さっていた。守護を怠った訳ではないが…それでも少なくないダメージの蓄積が入る。


「ガぷっ……!?」 


 リーリャの内蔵が潰れ即座に再生が始まる。リーリャは口まで来た血肉に骨と歯と…酒を混ぜて其処に呪詛を上乗せしてカウンターとばかりに酒呑童子に吹きかけると、周囲は黒く影に染まり同時に酒天童子が痛みでのたうち回った。


『ガアアアアアアアァァァッ!?』


「神便鬼毒酒…姫様の血肉じゃなくて私の血肉だけど、其処は勘弁願いたいわ」


 実はリーリャが酒を持ち歩いていたのは酒呑童子が敵に回った時対策である。又、現在最低限の装備しか持たずに動いているのは、自分が洗脳された場合コレットが戦いやすいようにという気遣いからだ。


「あら、仲間に酷い事をするのね」


 その声の方向を見ると、雲外鏡が屍鬼神兵の首を引きちぎり投げ捨てていた。雲外鏡の狙いは最初から屍鬼神兵であり、酒呑童子をけしかければその隙に屍鬼神兵を処理して、1対1を作り出せると踏んでの行動だったのだ。


「1対1なら勝機があるとでも?」


「いいえ、けれど…五分にはなるわ」


 バコン!と歪な音を上げて炸裂する屍鬼神兵。周囲に骨と血肉と呪詛を撒き散らし、雲外鏡を上手く爆発に巻き込んでみせた。


「何が…五分なのかしらッ!!」


 ヒュンと、爆発と同時に屍鬼神兵の片腕の骨を手元まで飛ばしていたリーリャは、一瞬でソレを加工してコンバットナイフへと転生させる。通常のナイフとは訳が違う、名刀すら断ち切る神刀に匹敵する業物だ。


 リーリャは雲外鏡の弱点をこの短時間で既に見抜いていた、即ち…道具の有無の差である。リーリャの所持している道具を雲外鏡は服以外持ち合わせていない、否、それをコピーするリソースを雲外鏡側で確保出来なかったと言うべきか。


 そもそもリーリャ自体が通常の人間では考えられない程の莫大な情報量を秘めている。それをコピーするとなると、どうしても切り捨てなければならない箇所も出てくるのは仕方ない事なのだ。


 が…この優位は一時的な物、もしも雲外鏡が外へと出ればリーリャのように周到に用意をした上で確実にリーリャの首を取りに来るだろう。


「くっ…!ッフフ、楽しくなって来たわね!」


 雲外鏡がリーリャのように笑い、自らの胸に突き刺さっていた屍鬼神兵の肋骨を引き抜くと、瞬時に加工を行いカランビットへと姿を変えさせた。


(……思った通りね)


 カランビットを構える雲外鏡を見て、一先ずこの空間内であれば負ける事は無いと胸を撫で下ろすリーリャ。むしろ問題はその"次"に来た。


「貴方の飼い主、一体だれなのかしらね?」


 リーリャのリソースを削るという事において、この作成は大いに成功したと言えるだろう。苦戦の果てに勝利を掴んでもその後リーリャと同格の異能者がせめて来たとなればリーリャも流石に危うい。


「あら、クロウを知らないの?貴方が?フフッ」


「……本当に私に成り切ってるみたいで少し腹が立つわ」


 コンバットナイフを握り直し、呪詛を体から噴射して加速するリーリャ。一線を振るうとそれに応じるように雲外鏡もカランビットを振るう。


 衝突する2つの刃物。だが、雲外鏡のナイフはへし折れリーリャの一線が雲外鏡の左胸を引き裂いた。


「っ!?」


「骨強度と加工に振り分けたリソースの差よ、装備は使い捨てだけれど…だからこそ良い物であればある程良いわ」


 リーリャはナイフを作成するにあたって、骨の中でも加工しやすく強度のある腕の骨を選び、自らの全体の1%のリソースをつぎ込んで作成した。ソレに対し雲外鏡は体に刺さった肋骨を、0.1%にも満たないリソースで加工作成した。


 真正面から当たったならば、差が出るのは至極当然だろう。


「ッ、く…!」


 後方に引きながら呪詛をばらまく雲外鏡、だがリーリャは敢えて攻めずに距離をとらせる。相手へプレッシャーを与える駆け引きだ。


「貴方、力の使い方が下手ね」


 無論、下手などと言っているがリーリャも雲外鏡を倒すのに全体リソースの9割を使う泥沼になるだろうと踏んでいる。今与えたダメージも常人で言うならば精々指先をナイフでなぞって薄く皮を切った程度のダメージなのだ。


 だが、それを蓄積させれば何れ大きな差になる。リーリャにとってこの場は少しでも損耗を小さくして切り抜けるべき局面なのだ。


「普通なら、私の蓄積した技術と貴方の力を相乗的に乗せて戦えるのだけれど、どうやら私の方が貴方の足を引っ張っているようね」


「あら、本気になった?」


「ええ、貴方は私、私は貴方…鏡など介さず貴方になってあげるわ」


 心の中で苦い顔をするリーリャ、どうやらかなり限界ギリギリの戦いになりそうだと思わず身構えてしまう。が…次に雲外鏡が取ったのはリーリャの想定外の行動だった。


?」


「なっ!?」


 逢魔からの離脱、それが雲外鏡の選んだ選択だった。


「ッ…!まずい!!」


 外にはアーパーコレットが居る。仮に彼女の説得に雲外鏡が成功した場合リーリャの敗北は必至だ。リーリャも急ぎ鏡の外に出る準備をしようとして…。


「あーもうッ!!」


 倒れて居た酒呑童子を回収する、流石に彼をこのままには出来ないのも事実。だからと言って貴重な時間を使いたく無いが…葛乃葉への義理が彼女を其処に留まらせた。


「狭いけど我慢してよね…!」


 無理やり自らの格納用逢魔の中に突っ込むと、雲外鏡を追いかけ逢魔の外へと飛び出るリーリャ。


「ッ…ふ…」


 視界が歪み鏡から出ると想定通りに雲外鏡がリーリャの首を落としに腕を振るう。だがリーリャはそれをナイフで受けると、そのまま雲外鏡を蹴り飛ばし壁に叩きつけ…コレットにそのナイフを一撃で砕かれた。


「あれ?こっちも本物っぽい?」


「コレット、どっちが本物か見抜けとは言わないけど邪魔はしないで、それにコイツの飼い主が仕掛けてくる可能性もあるんだから温存よ」 


 リーリャがそう言うとコレットが眉をハの字に曲げ、レイピアを下ろして後方に下がる。


「えー…どっちもそれっぽい、ネビロスさーん!判別つくこれ?」


 その声と共にズルズルと影から這い出て来るネビロス。


『何故私にそれを言うんですか、オロバス呼べばいいでしょうに』


「いやー2人とも嘘はついてないんだよねぇ」


 うーんと首を傾げるコレットと、一先ず最悪の自体は回避出来たと安心するリーリャ。だが未だ予断を許さない状況である事は確かである。


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