少女二人
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885905609
平行して新しいの書き始めたので一応宣伝しとく
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"ふわり"…擬音をつけるならそんな音だろう。リーリャはその鏡の中に緩やかに落ちて地に足をつける。
警戒するも周囲に敵影は無し、だが…油断出来る状況では無いと理解はしている。
「酒呑童子がしてやられたという事は、恐らく搦手だと思うのだけれど…」
少なくともあの鬼が真正面からの殴り合いで負けるとは思わない、そのルールで勝てるのは同じ神代の化物に片足を突っ込んでいるヒロフミと九尾状態の葛乃葉ぐらいの者だろう。
酒好きの気の良いただの鬼ではない、日の本に根ざす本物の化物なのだ。それこそその気になればこの逢魔ごと吹き飛ばす事も出来た筈なのだが…。
「それをしなかった、あるいは出来なかった?」
酒呑童子を抑えた者と出会った瞬間に、ほぼ勝ち負けが確定するとリーリャは睨んでいる。即ち、何らかの形でリーリャの力を封じられるか否かの違いだ。
リーリャは思考を巡らせながら暗闇の中を進んでいく。
「っ…」
一歩足を踏み入れた瞬間に、周囲の気配が変わった。否、世界が変わったと言うべきか?
「遊園地?」
其処にあったのは…妙に寂れた遊園地だった。かつては賑わいを見せた名残こそあるものの、今は死に絶えた場所とでも言うべきか?
「……ッ!Припять…!?
そして、その遊園地の正体に気づいたリーリャ。
プルィーピヤチ遊園地。チェルノブイリ原発で働いていた人々の為に作られた街に存在する遊園地、彼女はその地に一度だけ足を運んで観光した事がある。
ただし、記録の中での話しだ。彼女の中に眠るふわふわとした他人じみた記録の断片。そして此処に居たのは……。
空を、闇が覆った。もとより曇天模様で薄暗くはあったのに、最早それすら許さぬとばかりに世界が黒に染まり切る。だが…不思議とその観覧車だけはハッキリと見えた。
「Чернобог!!!」
チェルノボーグ、黒き神の具現。彼女は過去に一度コレに挑んで敗北している。悪魔では無い……街一つと数多の命によって一時的ながらこの世に現界せしめた、本物の黒き神だ。
「ああ、ああ、なんてこと…」
口が開いたまま塞がらず、その小さな両手で口を覆った。
「こんな事って…」
その目に涙を浮かべる。
「嗚呼…神様」
そっと、口から手を離す。
「嗚呼……この再びの出会いに感謝します」
彼女の獰猛な笑みが、
緩やかに離れた手により、
顕になった。
地より死が溢れた。
それは、少女と神のどちらが放った物であったのか、最早余人には分からない。
ただ一つ言える事は…神話の戦いの再現が今起きようとしている、という事だろう。
「アハハハハハハハ!!!」
狂ったように、あるいは叫ぶように笑いながらリーリャはカバンからカルシウム鉱を枝のように広げて空を覆う。数多の呪詛が縫い込まれたそれは、掠めれば常人や怪異程度ならばドロドロに溶け落ちる。
『LuLa』
だが、神はただ一声上げるだけでそれを粉々にした。そしてリーリャもそうなる事を理解していた。
「Replay!」
リーリャの声と共に塵のように散った骨が神へとまとわりつく。途端、黒き神は悶えるように体をよじった。
「ええ、ええ!
通常の攻撃で神を殺す事は不可能だ。それを可能とするのは…もっとも原始的な、原初のルール。
「食べればいいのよね?」
スゥと、その骨の灰を吸い込むリーリャ。食物連鎖、それこそが神を最も簡単に貶める事が可能なルールである。
彼等は確かに人とは違う次元に存在している。だが、それを食し自らの中に封じ、血肉としたならば…彼等との次元に架け橋が生まれるのだ。即ち一方的に封じられるだけであった攻撃を通す事が可能となる。
もっとも、神をその体に受け入れる事が可能であれば、という前提あっての事なのだが。
今リーリャが行った事を人に例えるならば、吸水率の高い物を
途端、漆黒の空から黒い槍が降り注ぐ。
防御は不能、回避も不能、瞬きする間も無くリーリャは串刺しになり…。
「ああ、流石にちょっと痛いわね」
そのままに動き続ける。回避も防御も出来ないのであれば、タフネスのみで受ければ良い。それが彼女の到達した対策である。
ブチブチと筋繊維のちぎれる音が響き、だが即座に肉体は修復を開始する。黒き槍を抜けた時には元通りの体になったリーリャが其処に居た。
「La…」
神が、困惑する。
目前の存在の意味が分からない。
これはなんだ?
何故こんな物がこの世界にある?
理解が出来ない。
「спасибо за питание」
誰に祈るでもなく、ただこの運命のめぐり合わせに感謝しつつ。彼女は事もなげに食事を再開した。
◆
「今日は千客万来」
チリンと、鈴が響く25m四方の暗い部屋。其処には棒立ちになったリーリャと酒呑童子が居た。
否、もう一つ影がある。
美しい少女の形を象ってはいるが間違いなくそれは怪異である。コツコツと足音を響かせてゆっくりとリーリャへと近寄る彼女。
「だけどこの世界では誰も私に…」
そっと、リーリャの頬を撫でる怪異。
「勝てないとでも言いたそうね?」
「―――――え?」
ズシャリ、と、リーリャの腹部から突き出る白雪の如くに白い腕。その手は的確に怪異の心臓を掴んだ。
「手っ取り早い地雷の解除方法をご存知かしら?」
「なん――――で…?」
驚愕に染まる怪異の声。
「誰かに踏ませる事よ」
血肉を飛び散らせながら、その細い腕は怪異の心臓を抉り取った。ビクンビクンと体を震わせながら、その怪異は大地へと体を落とす。
「ふぅ、やっぱりちょっと狭いわねこれ」
ズルリ、と、リーリャの体の中から本物のリーリャが現れる。幻覚等がかけられる可能性があるのならば、コピーをフィルター代わりに利用しながら敢えてそれに引っかからせて…自分はコピーの内部に潜み、コピーに発生した異常を確認して対策を練ってから外に出れば良い。
リーリャはそう判断したのだ。
「ある程度当たりを付けておいて良かったわ、酒呑童子が引っかかりそうな物なんて…幻覚ぐらいの物だものね、そういう意味では先行して引っかかってくれて助かったわ」
ゴキン、と、中に潜むために折りたたんでいた骨を元の形状に戻していく。
「自分自身のお腹を割いて出てくる経験なんて、早々出来る事じゃないわよね」
口ではそう軽口を叩くが、その瞳は一切笑っていない。眼の前に倒れた存在が、未だ機能している事を理解しているからだ。
「狸寝入りしてても良いけれど、きっちりトドメは刺すわよ?」
「―――良い勘してる」
ぐじゅぐじゅと、泡と肉を混ぜ合わせたかのような音が響いて倒れていた少女が立ち上がる。
「アナタ、誰?」
「人に名前を聞く時は自分から名乗れって言われなかった?」
「……雲外鏡」
「あら、有名所が出て来たわね」
「アナタ、誰?」
「一つ教えて上げるわ、自分が名乗ったからといって…相手が名乗るとも限らないの」
抜け殻になったリーリャの体がゴキゴキと音を立てて変形していき、それはやがてリーリャと同じ顔の屍鬼神兵へと姿を変えた。
「アナタ、何?」
スゥと、雲外鏡の姿がリーリャと同じ物へと変化する。
「そうね、ただの女の子よ」
「そう」
リーリャへと手を翳す雲外鏡、するとその掌から骨という骨が噴出してリーリャを襲った。
「ッ…!能力もコピー出来るの!?」
リーリャの前に出て盾になる屍鬼神兵。すると骨の嵐は屍鬼神兵の前の空間を逸れるように明後日の方向に捻れ曲がっていく。
「何者でもない貴方を殺して、今日から私が
「…いいわね、興味深いわ貴方」
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