学校七不思議2
「バレーボール…バレーボール…」
小さく呟きながらスマホでバレーボールのルールを調べるリーリャ。基本的にリーリャは娯楽という物に感心が無い、否、する相手も暇も無かったと言うべきか?
運動などする必要性も無いぐらい仕上がった体を生成出来るのだ、ドーピングなど目ではない肉体改造を片手間に出来るのだから、体を使う行為など一切の必要性が無いと言っていいだろう。
実際、現状の非戦闘時スペックであっても大半のオリンピック選手の数十倍の身体能力を持ち合わせている。比べるならば強化スーツや戦車などの兵器と並べてスペック比較をすべき物である事を忘れてはいけない。いわば、彼女の体は兵器のソレだ。
「リーリャさん、大丈夫?」
「ええ、多分問題ないわ、ハンデに身体能力を少し下げる必要はあるけど」
リーリャはカバンに手を突っ込むと、掌から液体化した自らの骨を出し、比較的マシな骨を入れ替えて席を立った。……一応は非戦闘用の骨格であるが、重機等と同格のスペックはある為にハンデと言えるのかは不明である。
対戦相手からすれば、絶対に勝てない勝負が100万回の中で1回勝てる勝負になった程度…なのかもしれない。
「よし、と…更衣室まで案内してくださる?」
「ええ、こっちよ」
ミナモに導かれて教室を出て、1階に降りていくリーリャ。途中、不自然に廊下に飾られた布をかけられた鏡を怪訝そうに見つめていると、ミナモがそれに気づいたのか軽く説明をしてくれた。
「あの鏡ね、夜9時ピッタリになると運命の相手が映るんだって」
「誰か試したの?」
「前に此処で努めてた警備の人が学校の卒業生と結婚したの、この鏡に写ってた相手だったってもっぱらの噂」
『隠蔽されているが逢魔の入り口だ』
不意にポケットからリーリャの脳内に語りかけてくる酒呑童子。
『こちらで調べておこうか?』
リーリャはその言葉に小さく頷くと、ポケットからソロリと地面に降り立ち布の間から鏡へと入っていく酒呑童子。
「少し興味があるわね」
「魔界に何か関係が?」
「さぁ、調べてみないと何とも言えないわね?例えば何か悪い兆候だったりするかもしれないし、その逆に有用に使える物なのかもしれない…その辺りは未知の技術なんかと同じよ」
逢魔一つにしても様々な物がある。リーリャが純粋な障壁として使っているような逢魔(尚、使える者はほぼ居ない)や、逢魔が潰れた時に外に強制的に押し出される事を利用した高速移動用の使い捨て逢魔。あるいは道満の使用した糸のように張り巡らせて、周囲を探る為の探知用逢魔。アリアのように公道での高速ドライブが出来ないからと専用コースを逢魔で作ったりと…とにかく千差万別だ。
鏡は昔から特に神秘性を帯びた物として扱われる。先にミナモが言っていたように近い将来を映し出す為の機能を内部に備える事は可能であるし、ソレ以外の機能をもたせる事も可能…というよりもその機能を内包する逢魔として使用出来る。
言うなればパソコンのハコや倉庫と同じなのだ。リーリャはそれを倉庫に見立てて中に沢山の緩衝材を入れて純粋に壁として使用しているし、未来を見せる機能であればそれらの演算機構を内部に入れれば良い。
多様性こそあるものの、あらゆる逢魔に共通する事として内部に入れるという共通点が存在している。中に入れば其処にある物からどういった意図でその逢魔を利用しているのかが分かるし、構築した術者の力量もある程度分かる。
故にある程度力に自信があるならば、その逢魔に入って内部を調べるのが最も時間効率が良いと言えるだろう。もっとも、罠である可能性も0では無いので其処は本人の実力次第と言った所であるのも確かなのだが。
「ほら、急がないと始まっちゃうわ」
リーリャが軽く酒呑童子を見送ると、ミナモを急かした。着替の時間を考慮すると少し急がないと不味い時間に入ってきたのだ。
「え、ああ、ほんとだ…急がないと」
鏡に後ろ髪引かれるような雰囲気を見せつつも早足であるき出すミナモ。彼女もあの鏡が本物なのか気になっていたのだろう。
◆
体育館に揃うリーリャのクラスのメンバー達。お嬢様学校と言うだけはあり、皆それなりに身なりに気を使っているらしく肌の綺麗な者も多い。
もっとも、リーリャが隣に立つと皆その姿が霞むのだが。
「色白っ…外人ズルくない!?」
「小柄でいいなぁ、私と身長交換してほしいわ」
「さっきすれ違ったけど滅茶苦茶いい匂いしたんだけど、香水っぽくないけど何使ってるんだろ」
「アレで化粧してないとかマ!?」
等と外野から色々な声が上がるがリーリャはさして気にした様子も無く、先程確認したバレーの内容を頭の中で何度も思い返していた。
(手で空気を打って風圧でブロックするのは多分OKよね、ルールブックには無かったし。ボールの強度ってどのぐらいなのかしら?強く叩きすぎて割ったらどうしましょう…)
色々と心配する所はズレている気もするが…リーリャも手探りなのだ。元々気遣いとは無縁の所で殺し合いをしていた事もあり、全うな人間という物を上手く理解出来ない。
CLOSEのメンバーもそうだが、基本的に異能持ちというのは人間から数歩踏み外している存在が多い。リーリャとしては小突いたつもりでも不意な接触で殺してしまう可能性もゼロでは無い為に、基本的には注意を払って人々と接触しているフシがある。
……まぁ極論を言えばリーリャの場合身体のスペックを限界まで落とせば良いのだが、彼女は負けず嫌いでなおかつ周囲の少女達を場合によって守る必要がある。ようするにギリギリのラインをリーリャは求めているのだ。
「では次の人」
「はい」
パン、と教師の手からボールが放たれる。今やっているのはゆるく投げられたボールを、スパイクで相手側のコートに返し置かれたカラーコーンに当てる練習だ。小テスト…という訳ではないが多少は成績に響く授業らしく、マトモに取り組む者と見学して適当に過ごす者の2極化が激しい。
リーリャとしてはどちらでも良いのだが、どちらかと言えば苦手な方の運動を頑張らない訳にも行かないのだ。
「ふっ!」
わずかに口から漏れる吐息と共に…その殺人スパイクが炸裂した。
直撃したカラーコーンは大きく吹き飛び壁に激突すると、尚余った衝撃でネットの下をくぐり抜けてリーリャの足元へと滑り込んできた。どうやら直撃した衝撃が大きすぎたせいでカラーコーンが割れてしまっている。
「……失敗したわ」
ポーンと弾道計算の末に跳ね返ってきたボールがリーリャの手に収まると、それを先生の元へと転がしてコーンを元の位置に戻すリーリャ。
「マジで!?すごくない今の!?」
「あれ食らったら骨折れるって、殺人サーブだわ」
「サーブじゃなくてスパイクね、あんな速度で正確に飛んできたら目は動いても体動かないって…」
「あたしは見えなかったけどな!」
ワイワイと騒ぐ生徒達、もっとも…リーリャとしては力加減の方に重視していたので非常に複雑な心境である。
「えー…次の人…」
「は…はい」
リーリャが撃ち終わった人の集まる場所に腰を下ろすと、不意に後ろから声を掛けられた。
「カシアノフさん!バレー部入らない!?」
「あら、貴方は…」
日焼けした活発そうな…すくなくともお嬢様と言うよりはヤンチャ小僧に近いような笑みを見せる少女。
「私は木城湊、ミナトって呼んで!」
「ごめんなさいミナトさん、皆の部活が終わるまで私は校内巡回の仕事があるから部活の類いは出来ないの、それに身体能力が世間一般で言う所のドーピングや改造人間に近いから運動系はダメだと思うわ」
その言葉に目を丸くして驚くミナト。
「えっ!?改造人間!?18号とか仮面のバイク乗りみたいな!?」
「18号…?というのは良く分からないけど、骨と肉に大きく手を加えているの」
そう言って、肘を本来と逆向きに曲げて肉体構造が通常と違う所を見せるリーリャ。
「す、すげー!?」
「そう言う訳だから…全うな努力をしている人と、並んで競い合うのは又違うと思うの」
「うーん、残念、ウチに入ったらバシバシスパイク決めてくれそうだったんだけど…」
「あら、ミナトさんだって悪くない骨格と肉付きよ?」
事実、リーリャの目から見ても他の少女達とは比べ物にならない筋肉の付き方をしている。おそらくは毎日欠かさず基礎練習を行い、しっかりとした体作りを日々行っているのだろう。
「おっ、分かる?えへへ、実はこう見えてエースなんだー」
「見たままとも言うわね」
「ふっふっふ、そうとも言う!」
思わず微笑むリーリャ。
「フフ、そうね…じゃぁ部活に入れない代わりにエースさんにアドバイスを上げるわ。貴方右側に重心が寄っているから、ジャンプの時気持ち左側に飛んで見ると力が効率よく使えるわよ?」
「えっ!?そうなの!?」
「現状それで固定されて肉体が成長仕切ってるから、おそらく体力に余裕がある時は今まで通りで問題ないわ。問題が出てくるとしたら体力の底が見え始めた所、其処まで来たら左側に少し飛ぶ事を意識してみて?打ったボールがまっすぐ飛ぶ筈よ」
「おお…なんか上手くなった気がする!」
「……流石に気が速くないかしら?」
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