学校七不思議1
ホームルームが終わり生徒達がざわめく中、一人の少女がリーリャに声を掛けた。
「カシアノフさん、少し宜しいかしら?」
基本的に金持ち喧嘩せず…とでも言うべきだろうか?裕福層の彼らは全体的に余裕がある。それは行動の節々から現れる物であり、逆に言えば目の前の少女は周囲程裕福で無い、かつ政界に対しての干渉を持たない少女である事が見て取れた。
「あら、何かしら?」
リーリャが非常に興味が無いといった表情を上手く隠しながら笑顔で返答する。概ね先の言葉に関しての確認なにだろうが…。
「さっきの話なんだけど…」
「そうね、アドバイスをあげるわ…此処で貴方が問いかけるのは失敗だったわね?」
「……え?」
少女はリーリャの言葉の意味を上手く理解出来ていないのかキョトンとしている。その様子についついお節介を焼いてしまうリーリャ。
「この場での問いかけは貴方が政界への伝を持たず、そしてこれから先の未来において無力である…という事を周囲に伝えたような物よ?私が情報を皆に伝えた時から、おままごとながらも政治は既に始まっているの。貴方は実銃が配備されているという異常を確認する事で、私が言った言葉の裏付けを最速で行い、誰か他の人に声を掛けて話題に入る事で自らの有用性を示し未来を切り開くべきだったわ」
「っ……」
其処まで言われて初めてリーリャの意図を理解した。先の言葉はまだ間に合うというリーリャなりの優しさだったのだ。とはいえ、このままではただ少女を暴いただけの悪人なのでフォローもリーリャは行う。
「いい?弱みを見せてはいけないわ、漬け込む事ばかりが得意な人間も居るのだから無残に使い捨てられるような隙は作ってはいけないの。信用するなとは言わないわ、だけど信頼はしてはいけない…ラインを見極めて上手く互いに利用するのがもっともこの世界で上手い生き方よ?今このクラスには私の情報を持たずに遠巻きに見ている子と、情報を持っているからこそ遠巻きに見ている子、そして何も知らない子と知っていてもそれを悟られないように平静を装う子や情報を信じていない子がいるわ」
はぁ、と少しため息をつくリーリャ。自ららしくない事をしているのは重々承知なのだが、眼の前の少女が少々以上に哀れに見えたのだ。ただ、何も知らない巻き込まれるだけの人であるならば…それなりに幸せな未来を迎えれたかもしれない、だが中途半端に自らが知識を入れたのならば、最低限の償いぐらいはするべきだろう。
「危険な物に真っ先に突っ込むのはただの蛮勇、そして周囲に弱みを見せたので減点2箇所、そして状況を正しく把握出来ていないので3箇所減点ね」
「…私は」
少女が何かを口走ろうとするとを、リーリャは彼女の唇に指を触れさせて静止する。
「貴方の状況はある程度把握しているわ、だからこれ以上の言葉は貴方が不利になるだけ。だけど、貴方には起死回生の為の一手がある。ヒントは"蛮勇"…貴方が持っていて他者が持ち得なかった物、情報があれば回避すべきだった事、だけど貴方はその蛮勇を一歩踏み出す事で大きく他へリードをつけれる…此処まで言って分からないのなら貴方は正しく時代に淘汰される存在になるわ、思考時間は30秒ほら!頑張って!」
随分と優しくなった物だとリーリャは苦笑した。否、名も知らぬ他人が苦しんでいる所に天より蜘蛛の糸を垂らす程度には慈悲深くなったのだろうか?……等とリーリャ本人は思っているのだろうが、そもそもリーリャの性格として頼られれば答えるのが常である。つまり、殺し合いさえ絡まなければ十分に人の心を持ち合わせた優しい子なのだ。
「………あの」
15秒の沈黙の後、少女が口を開いた。
「はい、何かしら?」
「友達になりませんか?私は天霧ミナモといいます」
「正解、賢い人は好きよ?私はアルヴィナ、親しい人や関係者はリーリャと呼んでるわ、どうぞよろしくね?」
そう言ってリーリャは握手を差し出す。その答えはリーリャにとって100点満点の答えであった。故に、互いにしっかりと握った手は、その少女が他者に確かにリードを付けた証明なのだろう。
「それで、友達になって初めてのお願いをいいかしら?」
「あんまり無茶な物じゃなければ…?」
「これまでの授業でどういった事をしているのか分からないから、ノートを見せてほしいの…代わりに貴方の質問に答えてあげるわ」
「ええ、喜んで」
友情の始まりは打算である、だがそれが続いて大きくなれば…確かに強い物になるのだろう。
◆
「へぇ、意外と進んでるのね」
そう言いながら、リーリャの手は空白のノートにペンを踊らせる。まるで自動書記かの如くに動く手は、目で追う事すら困難な程であり、みっちり書き込まれている筈のノートを3秒に2ページの速度で書き切っていく。まるで印刷機かの如き文字は悍ましい程に正確で、プリンター印刷した…とでも言った方がまだ理解出来る。
「……か、書くの…速いね」
「あらそう?ウチの会社の楓姉さんや社長ならきっともっと速く綺麗に書くわよ?」
と、異例中の異例を上げて謙遜するリーリャ。あの2人に関しては、スーツと皮膚が神経連結を起こしているのではないかという疑惑が浮かぶ程なので、なんとも言い難い。
特にクロウの副腕に関してはデータが集まっても上手く人間側が情報処理できない事から、状況に応じて登録したモーションを引き出すという方法でイギリスの一部の部隊がなんとか使っているらしい。それでも、なかなか慣れないという現場の声が上がる辺りかなり狂っているのだろう。
ペンを手放し背伸びをするリーリャ。たった5分で全てのノートの内容を書き切ったらしい。シャープペンで汚れた手をウェットティッシュで拭うと握り固めて掌で空間圧縮し、自らのゴミ箱代わりに使っている逢魔の中に捨て去る。
「えっ、手品!?」
と、思わずそんな事を口にするミナモ。
「フフ…内緒、ノートありがとう、お礼に先の貴方の質問に答えてあげる。報酬が伴う情報だから、確定事項のみを伝えるわ」
そう言うと、そっとミナモの頬に触れるリーリャは骨を震わせて声を伝えた。
『聞こえるかしら?』
「えっ、ええ?口が動いてないのに声が聞こえる?」
『骨伝導の応用よ、盗聴の心配は無いわ。まず大まかな話の流れを全て聞いてから質問してね?』
そう言う…言うというのは少々違う気もするが、そう骨を震わせて答えると、わずかに微笑み詳細な情報を口にするリーリャ。伝える事の大まかな内容は魔界化現象に関する大雑把な内容を伝えていく。
とはいえ、ミナモを混乱させないように気を使っての説明なので、所々面倒な説明を省いている。ある程度情報を咀嚼できたならば、次の情報を与えて行くという方式である。
「……冗談よね?」
『冗談じゃないから本物の銃が配備されてるのよ、しかも怪物に対して決定打になりえない粗悪な物がね?輪転道の会社から式神も何体か回してもらう予定だけど、現状私と警備さん達で有事の際は対応しなければならないの』
リーリャ達の使う屍鬼神兵は公的な場所でおおっぴらに使える物ではない、故に人に化けて街を徘徊させて治安維持を行う程度の事しか出来ないのだが…それでも相応の成果を上げている。
まず、一度目の天使の輪が落ちた事により活性化した怪異はその日の内にCLOSEによってその概ねが討滅された。その結果として屍鬼神兵の思考力が大幅に上昇したのもあるだろう。なにせ戦う相手に困らず、現場でリーリャと葛乃葉が詳細な調整を行いながら戦闘経験値を蓄積させる事が出来るのだから、改良されない筈が無い。
「じゃぁ、貴方が正体を明かしたのは…」
『ええ、有事の際に私の発言を軽んじられると困るのよ、死人出すともらえるお金も減っちゃうし…仕事のケチがつくと社長から私の評価も落ちるし、何よりも社長の信用問題に関わるわ。私は世間からの評判なんてどうでも良いのだけれど、政界に絡むという手を使った以上はそうはいかないの』
……一応、本当に一応ではあるが…リーリャ達はギリギリ法律には接触しない程度の装備で活動している。異能による火器の生成はギリギリグレーであるし、屍鬼神兵に関しても道徳上はともかく葛乃葉が医師免許を持っていて、権利をしっかりと購入している為にギリギリセーフだ。
リーリャの装備に関してはブラックなのだが、何時でも隠せる為に目撃されても全裸になって無い事を証明すれば立証は出来ない。それに監視カメラの録画程度なら物理的にも権力的にも、もみ消しは可能なのだ。
「……忙しいんだね」
つい、そんな言葉がしみじみと出てしまったミナモ。
『ええ……私も本当は社長とキャンプで息抜きする筈だったのに、アメリカに飛んじゃうし』
「世知辛いのは何処も一緒なんだね…」
「そういう事よ」
添えていた手を離すと、普通に話し始めるリーリャ。
「今の情報で分からない事があったら又別途聞いて頂戴、そろそろ授業が始まるわ」
時計を見やるとそろそろ一限目がはじまりそうな時間である。一先ず話は此処までにして、次の授業の準備をしなければならない。
「体育かぁ、そろそろ行って着替えないと」
「今日は何をするのかしら?」
可愛らしく首を傾げるリーリャ。
「えーっと、確か女子はバレーボールだったかな?」
「……バレーボール」
思わず顔をしかめるリーリャ、実は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます