うわ少女強い


 リーリャはカメラの映像を別の屍鬼神兵に移動させて目前で一礼すると、そのまま空高くへ飛翔した。


 驚異的なリーリャの身体能力の秘密は彼女の体内の骨にある。それらは全てリーリャが調整した物であり、体内の骨は全て彼女が作った物に置き換わっている。


 骨への加工前の姿は悪魔や怪異の骨であったり、聖杯や聖槍の破片・仏舎利・魔導書・金羊毛・タラリア…そういった物をふんだんに混ぜ込んだ文字通りのワンオフの骨で、もはや半分以上神話に足を突っ込んでいる代物だ。


 既に骨その物が意思を持つに至り、防壁用の逢魔を展開する一種の怪異と言っても良い程の一品。軽くて重いという矛盾を持ち、本人への身体負荷は羽程であるが…それとは別に計測実重量三トンというを持つ。


 すなわち、リーリャは軽く対象を小突いたつもりであっても、実際には三トンの重さが見た目通りの速度に乗っている事になり…当たっただけで死にかねない。勿論の如く身体能力の強化増幅効果もあり、調整によってはさらに外付けの重量や身体能力を引き上げる事も可能であるので、見た目こそ可憐な少女であってもその内情は実質アーマードスレイブになんら引けを取らない人間兵器なのだ。


 だが、リーリャの格闘センスはCLOSEの他の幹部や幹部補佐にも劣る。彼女は指揮官や科学者ではあっても兵士ではない、弱点を理解しているからこそ接近戦を避けて手持ちの兵士による撃破を基本戦術としているのだ。


 もちろん、センスが劣るからといって接近戦が出来ない訳ではないし、億程度の怪異ならノーガードの殴り合いであっても圧倒できる程度の身体能力とタフネスを持ち合わせている。だが、逆に言えば億を超える能力を持つクロウ達に対しては精々時間稼ぎ止まりという事でもある訳だ。


 そんな彼女がわざわざ本体をこれみよがしに晒しての出陣、つまりは…釣りだ。初めからリーリャはマフィアなど見ていない、自分を狙っているであろう道満を引っ張り出す為のエサとなり…リベンジを行うつもりである。


 道満の存在は未だに謎が多く、何故あのタイミングでリーリャを狙ったのか等も分かっていない。だが、放置して良い強さでもなく…最低最悪のタイミングで彼が敵に回る前に、CLOSEとしてもリーリャとしても確実に殺しておきたいのだ。


(流石に釣り針が大きすぎたかしら?)


 とはいえ、来なければ最悪のタイミングで来る事を想定して戦力を整えれば良いとリーリャは考えている。葛乃葉、そして朱雀からも技術提供を受けた量産兵は、数さえ揃えれば既に悪魔に匹敵する量産戦力となった。


 時間をかければいくらでも補充が効いて、雪だるま式に増えるその兵団を前に放置も出来る筈は無い。リーリャ自身もそう考えているが故の釣りなのだが…。


(来ないか、まぁいいわ)


 気持ちを切り替える。屍鬼神兵を後方に下げ、その日本製のアーマードスレイブの目前に降り立つと、再び恭しく一礼するリーリャ。


「很高兴认识你!我来拜访了!……で良かったかしら?最近日本語ばかりだから他の言語がちょっと曖昧になってきたわ」


 すると、以外にも日本語で返答が帰ってきた。


『オマエ、何物か』


「気を使って頂いてありがとう、私はCLOSEのリーリャ…貴方達がAQUAを送って来たから殺す事にしたの」


『嘘下手ね、こっちもバカ違う、AQUA裏切タの知ってる』


「……占術ね、限定的に未来を読み取る能力だったかしら?」


『他の奴等はとっくに退避済み、オマエ、一足オソカタ』


「フフ、でもね?占術を使えるのは貴方達だけじゃないの…10秒以内に投降してその機体の出処を教えてくれるなら、楽に殺してあげる。10、9、8、7…」


『你是傻瓜!』


「その言葉そっくりそのままお返しするわ!」


 リーリャに向かってガトリングアヴェンジャーより放たれた30mm弾は、リーリャの前方に展開された逢魔防壁によって阻まれ、そのまま反射される。一瞬で数十発放たれた弾丸をそのまま浴びせ返された機体は、ガトリングを盾にして直撃を免れた。この一連の流れを見るに相手はかなりのパイロットだとリーリャも認識を改めた。


 もっとも、路上の小石から水たまり程度の認識の変化なのだが。


「あら、お上手ね」


 煽るようにリーリャが笑うと、今度はその巨体でそのまま押し込んできた。どうやらリーリャを轢き殺すつもりなのだろうが…それはあまりにも甘い考えだ。


 ガン!と鈍い音を響かせて、アーマードスレイブが停止する。リーリャの手によって停止させられたその巨体の装甲は、リーリャの可愛らしい手の形に凹んでいた。


「うーん、体のサイズがちょっと足りないわね…」


『なっ!?』


「フフ、驚いて頂けたようで光栄だわ」


 そのままリーリャの体から羽のように骨が展開されると、スパイクのように地面に食い込み…同時にリーリャの手によって、その5メートル程もあろう鉄塊、即ちアーマードスレイブが持ち上がった。


「ほら、上手く着地出来るかしら?」


 ポイと倉庫の壁に向かって投げ捨てると、大きな音を立ててオモチャのように転がっていく機体。おおよそ人間の所業では無い。だが、相手の闘志はまだ折れていない。否、半ばやけっぱちとでも言うべきなのだろうか?


 吹き飛ばされながらも、空中でスラスター制御を行い体制を立て直した機体が、倒壊させた建物の煙の中からチェーンブレードを振るう。戦車装甲すらたやすく引き裂くソレは、日本が新開発した独自装備であり、一部の軍事関係者にしかその情報は無い物だ。


 だが、悲しいかなリーリャに通常兵装は意味を成さない。


「へぇ、面白い玩…へぶっ!?」


 リーリャが煙の中から伸びてきたソレを手で受けると、思っていたよりも数メートル長かったらしく余った長さの部分がリーリャの頭に直撃したのだ。普通ならミンチであるが…彼女の体はその程度でビクともしない。


「うう、恥ずかしい…」


 雪のような真っ白な頬が、恥ずかしさからリンゴのように赤に染まると、リーリャはそのままつかんだチェーンをグイと引き寄せた。すると煙の中から引きずり出されるようにリーリャに向かって飛来してくる機体。


 逆にそれを利用するかのように、飛来してきたアーマードスレイブは拳を握りリーリャに向かって振るった。少なくともパイロットの腕と判断力は並の物では無い、同じアーマードスレイブ同士の戦闘ならば間違いなくエースと呼ばれていた事だろう。


「貴方のせいで恥をかいたじゃない、もうっ!」


 だが、相手が悪すぎた。


 リーリャは相手の拳に合わせるように自らの拳を当てると、アーマードスレイブ側の腕がひしゃげて吹き飛んだ。そのまま追撃とばかりに飛びかかり、拳を再び振るうリーリャ。


 リーリャの拳を、健在であった掌で受けた機体。だがその掌が衝撃に耐えかねバラバラに砕け散ると、未だ残る勢いの余力で機体胸部に位置するコックピットを叩くリーリャ。


 途端、拳の部位から超重量が加わったかのように拉げて潰れる機体。パイロットは…言うまでもなく即死だろう。


「っ……なんてこと、盛り上がりに欠けるままに倒してしまったわ」


「いやいや、撮れ高十分だったと思うよ?」


 いつの間にかカメラを手にしていたアルフォンソがそう言うと、少し拗ねた顔をしてアルフォンソを殴ろうとするリーリャ。だがアルフォンソはそれを軽々と回避しながら映像を取り続ける。


「もう!意地悪な人!」


「ちなみにまだこれライブ中だよ」


「えっ、嘘!?止めて!ちょっとアルフォンソ!?」


「キュートで良いじゃないか、少なくとも冷酷な表情でアレをスクラップにしてるよりはずっと愛らしいよ?」


「貴方後で覚えてなさいよ!?本当にひどい目にあわせてやるんだから!!」


「以上、ネクロマンサー少女VS二足歩行ロボでしたー、では現場にお返ししまーす」 


「あっ!ちょっと!まだコレットが彼らの船こっちに投げ飛ばしてくる手はずになって…ちょっとアルフォンソ!?本当に後で酷いわよ!?」


 と、そのタイミングで海からキマリスによって投げ飛ばされてきた船。それがリーリャの後頭部に直撃した所で映像が途切れたのだった。

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