真実B
怪異とは一体なんなのか?それは伝承である。そして伝承とは神が天に開けた穴であり、唯一常世に干渉する為の抜け道でもある。
例えば…その"伝承"に近い末路や境遇の存在が死に絶えたとしよう、それは人間でも良いし動物や虫でも良い。
その境遇の一致とオリジンのカケラ…即ち先天性異能やそれらの再現…この場合は後天性異能も含めるとしよう。それら2つを持ち合わせた存在が死に絶える時、神が天に開けた穴に魂は吸い寄せられ変質し、そして…怪異の皮を被る。
そうして完成するのがアバターなどと呼ばれる現在に干渉する為の神の尖兵だ。彼らは自らを変質させたその穴のある場所でしか存在出来ないが、他の場所に似た伝承があればマトリョーシカのように新たな皮を纏う事が出来き、その存在は安定化する。
伝承はある種プログラムのウイルスと言い換えても良いかもしれない。例えば…政府に恨みを持つ存在が死に絶えた時、世を乱す為の土蜘蛛を生み出す。それは歴史の敗北者となった神が勝利者の神の作った世に悪意をばら撒く為、世界に残した条件発症性のウイルス思うと少し分かりやすいだろうか?
世を乱す、人を襲う、人を助ける、そういった方向性のみを持たせている…一種の装置でしか無いとも言える。
日本にある伝承は多岐に渡り、様々な存在を許容する…つまりそれほどまでに神が開けた穴が多いという事でもある。
少し話しは変わるがソロモン王はそれに目をつけた。つまり自ら伝承を先んじて魔導書という形で作り、"悪魔"という力ある架空の存在をでっち上げて、歴史の間に消えた力ある神々を使役出来る形で復活させたのだ。順序こそ多少前後するものの、技術力さえあれば十二分に可能な技術である。
そして、それをオリジンに似た形…即ちソロモン因子として世界にばら撒いた。そして、それは恐らくこの時代を予期しての事だったのだろう。
「と、まぁ此処まではわかるかな?」
ホワイトボードに絵と共に書かれた内容に目を通しながら頷くアルフォンソ。目の前で青龍はメガネを付けて教鞭を持ち、さながら先生のように振る舞っている。
「あ、ああ…」
「宜しい、では次」
そう言って青龍はホワイトボードをひっくり返す。
「だけど強くなった怪異は突如人に対して友好的になる、もちろん非友好的なのも居るけどね?理由としては人であった時の事を思い出すから…だと思われる」
「つまり、人に近づくと?」
「その通り!人を食って自らの体を得た怪異は人間に対して軟化するか、やけっぱちで心まで本物の怪異に成り果ててしまうって所かな?」
「……アンタ達は死んで怪異に?」
アルフォンソは、あえて言葉を濁さずにそう口にした。
「答えはNO、力があれば僕達の世界…即ち下から上に穴を開ける事が出来る。かつてソロモン王がそうしたようにね?」
「ああ、自ら望む力を神側に強請れに行けるのか…」
アルフォンソの回答に満足と言った表情で頷く青龍。
「うんうん、理解が早くて助かるね?私が選んだのはスサノオ、そっちの彼が選んだのはアポロンかな?」
「内緒にしといてくれよ…まぁ、そういう事だね」
と、まんざらでも無さそうにアルフレドも頷く。同時に、以前よりも格段に強くなっていた彼に対して感じていた威圧感の正体はそれだったのかと納得するアルフォンソ。
「それで…魔界化するから生き残る為に力が必要だったって事でいいのか?」
「いいや、此処からが本番だ……そもそもなんで神は天に居ると思う?なんでそんなまどろっこしい手でチマチマこっちの世界に干渉すると思う?」
「そりゃ、直接干渉出来ないからじゃ?」
「なら、どうして干渉できないと思う?」
「どうしてって…」
と、其処でアルフォンソは以前リーリャが話していた事を思い出した。悪魔は元来この世界とはスケールが違いそれ故に干渉が難しいと。同時にそのスケールを維持したままの使役方法を作り出したとも。
「スケールが違う…この世界と存在の次元が違う?」
「100点の回答だ、凄い凄い!なら、どうしてスケールが違っているかわかるかい?」
「いや、流石に其処までは…あ、いや…待てよ?神って昔はこの世界に居たのか?」
「おっ…良い所に気づいたね、そしてその答えはYESだ」
「…………この世界で強く成りすぎて、スケールが上がってしまった?結果として天に上がらざるを得なかったとか?」
「75点!惜しい!すごく惜しい!ヒントはもっとスケールが大きい!」
スケールが大きい、となると…。
「世界まるごとスケールを上げた…とか?」
「正解!素晴らしい!賢い!大好き!」
突如テンションが最高潮になる青龍を冷ややかに見つめるアルフォンソ、だが…なんとなく話しの全容がつかめて来た気がしていた。
「そりゃどうも…つまり2人の言う魔界化ってのは、その世界全体のスケールを上げる事でいいのか?」
「YES、相変わらず素晴らしい洞察力だね?だけど2つ説明が抜けているから補足しよう、一つは異能は怪異に対する抗体ではなく人類の進化であるという事。もう一つは……この世界は後1回しかスケールを上げる事が出来ない」
「って事は過去何度かそのスケールの上昇が起きたって事なのか?」
「そういう事だね、我々が確認したのは4度、そしてこの5回目を行う事で世界は消滅する」
「………なんで?」
「負荷に耐えられないからさ、というか元々何時滅んでもおかしくない程に世界が弱体化していた、だから余命ギリギリまで待って魔界を作ろうって話しだね」
「マジかよ、勘弁してくれ」
顔を押さえて思考を巡らせる。彼らの言葉に少なくとも矛盾は無い筈だ、だが…本当に鵜呑みにしても良いのだろうか?何か見落としは無いか?何度も何度も自らの脳に問いかけるアルフォンソ。
「まぁ、僕はそれに関してはどうでもいいんだ、この本があるからね」
「……アルフレド、キミはその本を門だと言っていた。つまり、それは何処か別の場所に繋がっているのか?」
「先生が作った楽園さ、彼女はこの滅びを予期していてシェルターを作った、それがこの魔導書だ。使った後はキミにあげるよ…魔界が嫌ならこの本を使うと良い、もちろんあの仔ウサギ達も使う権利があるけどね?」
「ああ、そりゃどうも」
フゥ、と空気を肺から出すアルフォンソ。
「天使の輪が落ちた時にこの門は開く、今回を含めてチャンスは4回だけだから…よく考えたまえよ?」
「ああ、その天使の輪って言うのが世界のスケールを上げる為の装置って事でいいんだよね?」
「そういう事だね、さて、青龍、何時までも悶てないでそろそろ本題に入ったらどうだい?」
その言葉にハァハァと息を荒げていた青龍がハっと我に帰る。
「そうだった、今回はキミに要件があって態々アルフレド君に頼んだんだよ…どうだろうアルフォンソ君、キミも私と共に来ないかい?」
「どっちにしろ魔界化は既に止められないんだよな?」
そう葛乃葉は言っていた、恐らく全ての準備は整っているのだろうと。そして主犯格であろう彼女が自ら姿を見せたという事は、既に彼らの思惑は遂げられたという事だ。
「そうだね」
「なら此処でキミの仲間にならなくても問題ないって事だ」
「そうかな?そうかも?」
「残念ながら、仲間とメイドは裏切れないよ」
その回答に心底残念そうな表情を見せる青龍。
「うん、残念だ、本当に残念だ…」
「俺も残念だよ、もっと早くに声を掛けていてくれればと思う」
「そしたら仲間になってくれたかい?」
「いや、首を落とせただろうになって、こんな風に」
途端、スパンと跳ね上がる青龍の首。
「あら?」
「油断し過ぎじゃないかな、分身とは言えこの程度の事は出来るよ」
アルフォンソの手に握られていたのはレイピア、完全に無挙動、無拍子での一線。恐らくクロウですら回避出来ないであろう、殺気を乗せぬ一撃は完璧に青龍の首を跳ね飛ばした。
「いい腕してるじゃん、油断したよ…」
だが、地面についた青龍の首は言葉を続ける。
「やっぱ死なないか、人間やめ過ぎでしょ」
「お褒めに預かりどうも、というかアルフレド…キミ分かってて分身連れてきたでしょ」
青龍の追求に非常に申し訳なさそうに軽く頭を下げるアルフレド。
「…すまない、普通に何時入れ替わったか分からなかった」
「…わーお、やるじゃん」
自らの首を拾い上げ、くっつけると少し引いた顔をする青龍。もっとも、彼女のその行動の方がアルフォンソにとってはドン引きなのだが。
「いや、本当に相変わらず凄いな…アポロンの力がある筈なのに戦ったら普通に負けそうで怖いよ」
「…ウォーロックだからな」
一言、そう言い残してかき消えるアルフォンソの陽炎、同時に燃え上がった炎は嫌がらせとばかりに2人を巻き込む大爆発を引き起こした。
「まずった、狙われているようだ」
「ほんと彼すごいね」
周囲を巻き込むその大爆発であるにもかかわらず、無傷で立つ2人。だがその表情は少し険しい物である。
「来るよ」
「分かってるッ!」
途端、ビルの屋上が黒い球体に飲まれる。寸前で回避した2人はその攻撃の主を見やると、初めて感情らしい感情を見せた。
焦りである。
「 Добрый вечер!じゃなくて…今晩は!とっても月が綺麗だから…」
「殺しに来たよ、お二人さん」
完全武装のアルフォンソとリーリャが其処に居た。
「青龍」
「うん、ちょっとキツイかも」
「さぁ!遊びましょうか!!」
「そろそろ社長に良い所見せないと怒られそうだからね、たまには本気で行くよ?」
青龍に失敗があったとしたなら長話をしすぎた事であり、アルフレドに失敗があったとするならば…アポロンの力に驕った事だろう。つまり、この結果は必然であった。
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