真実A

「では、少し話しやすい場所に行こうか」


 そう言うとアルフレドはいつの間にか手にもっていたステッキで、2度地面を小突いた。途端、アルフォンソは僅かな浮遊感を感じ…次の瞬間見知らぬビルの上に居た。


「ああ、此処からならば全てが見える」


「アルフレド……お前、人間をやめたのか?」


 その言葉にニコリと笑うアルフレド。完璧な転移など人間の手で行える筈が無い、それが出来るのは最早怪異や悪魔のような存在だけだ。


「キミはまだやめていないようだけどね…ま、其処も関わって来る話しだから少し長話になるけど…説明聞くかい?」


「是非とも」 


 周囲にもう少女達は居ない、今なら余裕を持って互いに対話できるという物だ。


「そもそも、全てにおける前提がおかしいんだよ」


 アルフレドが語った内容はこうだ。異能などと言う謎の力が何故現代においても此処まで秘匿され続けているのか、何故政府は異能持ちの横暴を半ば黙認しているのか。


「何を驚いた顔をしてるんだい?」


「…いや、確かに君の言う通りだ、国家としては犯罪者である僕らに賞金こそかけるものの…本当に殺す気もないように思える」


「そう、普通に賞金額とリスクを考えるなら怪異潰した方が割りが良いからね、触らぬ神に祟りなしって言葉もあるように過剰に恐れているって可能性もあるけれど…本当は違う、あ、いや、触らぬ神に祟りなしって言うのはあってるか?」


「どう言う事だ?」


「何処から説明した物かな、事の始まりは…日本だと卑弥呼の時代まで遡る事になる」


 意外な名前が出てきた事に動揺を隠せないアルフォンソだったが、アルフレドはそのまま話を続けた。


「彼女は巫女だった、力を持ち、知恵を持ち、その異能で未来を見据えて国を導いた」


「異能は既にその時代から?」


「ああ、だがそれは異能では無くオリジンと言うべき力、この世に溢れるまがいものでは無い。異能の種類は正確には3つのカテゴリーがあってね?一つ目が先天性異能、二つ目が後天性異能…そして三つ目がオリジンだ…先天性異能は根源こそ同じだがオリジンの大幅劣化版だと思えばいい」


「それは…初耳だ」


「君、先生の授業中に寝てたからね」


 痛い所をつつかれ目を逸らすアルフォンソ。それに肩で笑いながらアルフレドは続けた。


「話を戻そう。今現状確認されているオリジンは幾つかあるが、君が知る所で言うなら…朱雀の不老不死。君の雇い主の八咫の鏡。そして…青龍の天叢雲剣が挙げられる」


「なっ…」


 驚く以上に腑に落ちてしまう。確かにクロウの異能は既に異能の範疇を超えているように思えた。つまり、その規格外の力こそがオリジンと呼ばれる物なのだろうと推察する、だが…それでも不明点は多い。


「が、オリジンでなくともそれに迫る力もある。キミや僕のようなウォーロックや…リーリャのような、葛乃葉のような九尾狐、白虎の持つ陰雷だ」


「オリジンとそれらの違いは?」


「かつてはあった、だが今はもう無い」


「つまり…力こそが?」


「そう、力こそが神であり、悪魔であり、天使である」


「その言い分だとまるで俺達が神か悪魔の類じゃないか」


 そして、その言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑うアルフレド。


「相変わらずキミは頭がいい、まさにその通りなんだよ」


「は?」


 意味が分からず停止するアルフォンソ。否、というのが正しいか?ある程度の仮設は出来上がってしまっている、アルフォンソは馬鹿でも間抜けでも無い。


「世間一般で呼ばれている悪魔とやらと、僕達は一切違いが無いんだ」


「何を…言って……」


「ウォーロックの来歴は知っているだろう、迫害された魔女達を救う為に立ち上がった…では迫害された大本の理由はわかるかい?」


「ええと、魔術を獲得してそれを人々に分け与えた…?」


「正確にはオリジンの一部を簒奪し、万人に分け与えようとした…そしてオリジンの保有者とは」


「イギリス王家…!?」


「正解、結果として我々は迫害された…当然だろう?オリジンの保有者こそが王家の正統後継者足り得るのだから動乱の火種は全て消し去らねばならない。そして我々ウォーロックはその簒奪したオリジンを使いこなす事こそが、本当の使命…そして進化を促す為に歴代のウォーロックは過酷な前線で戦い続けた」


 そうして我々の代でようやくの完成を見せたのだと、目の前の怪物は呟いた。


「少し、話しを戻そうか?日本も又、オリジンの保有者が権力者となった…だがイギリスとの違いとしては、日本のオリジンは血ではなく人に宿る。相応しき者を選んでは乗り換えて、また乗り換えてを繰り返す…そういう物だ」


「その結果が…戦国時代って事か?」


「そう、正しくはそれよりももっと昔…太古より連々と続く闘争の勝者と敗者の歴史、その影に付きまとう"ソレ"こそがオリジンだ。強いオリジンを持つ物が勝者となる…そんなルールの元で戦争は続いている」


 少し、話しが繋がってきたようにアルフォンソは感じた。つまり日本政府は異能者の中にオリジン持ちが居ると理解しているが為に、下手に手出しをすると国家をひっくり返されてしまうと危惧している。


 逆に言えば金さえ出してある程度飼いならせばそう悪い話しではない。その時代の政府は安泰であり、大きな争いも起きないのだ。アルフォンソは知らない事だが、政府がイザナギ側の言う事に言いなりになっているのもソレがあっての事である。


 同時に、それならばオカマ…フルフルが言っていた事に信憑性が出てくる。異能に宿る人格とは即ちオリジンでは無いかという事だ。


「前提としての話しは少しわかった…気がする、だが俺達が悪魔だってのはどういう事なんだ?」


「個人が国を揺るがす力を持つ、オリジンに打ち勝つ可能性がある。そういった物を本来の尺度での悪魔と言うんだ…否、神の亜種とでも言うべきか?神に勝てるのは神だけだからね」


「だが俺達は人間だぞ?」


「一般人、なんの異能も持たない人々から見ればそうは見えないよ?それに君達が殺す怪異だって元を辿れば人間や力や霊力を得たただの動物なんだ。先に闘争の勝敗にオリジンが関係するという話しはしたと思うけれど…食物連鎖、適者生存、そういった繰り返しの中でもオリジンが常に何らかの形で作用してきた」


「つまり、オリジンが色濃く出た動物や昆虫、植物が…怪異?」


「あくまでも推察だけれどね?僕が思うに知性が強い生物に対してオリジンはより強く作用するようにも思える…信憑性は結構ある気がする」


 怪異は動物であれど上位の物になればなる程、葛乃葉のように人に近づいていく。これは知性の獲得によりそうなったと考えられないだろうか?


 又、下位の怪異でありながら人の形状を持った怪異というのは、オリジンを持ったまま死に絶えた時代の敗者であると考えれば分からなくも無い、土蜘蛛のような存在もそうであった可能性が高い。


 同時に日本やイギリスに怪異が多い理由も理解出来る。先天性異能を持ったまま死ぬと怪異になる可能性があるのだとすれば、異能持ちが多い島国では沢山の怪異が生まれるのだろう。ある種のマッチポンプな感じもする。


「分からなくはない、少なくとも話し自体は上手く繋がっている気がする。だが、相変わらず俺達が悪魔だという話しには……それに」


 其処でアルフレドは何処からともなくイスを取り出し座った。アルフォンソも後ろをみやるといつの間にかイスが用意されていたので一先ず腰を落ち着ける。


「まぁ、少し落ち着きなよ…まずは話しを整理しよう。要点として、歴史の勝者や権力者に宿る物がオリジン=神の力であり、これは動植物や昆虫達にも小さく伝わっている、そしてそれが原因で怪異化する…これは良いかな?」


「ああ」


「続いて、僕達ウォーロックが簒奪したのはオリジンの一部であるこれもいいかい?」


「……え?待て、待て待て待て!」


「気づいたかい、オリジンの一部を得た動物は怪異となる、ではオリジンの一部を得た人間は…やはり怪異なんだよ」


「そんな…そんな筈は…」


「さて、実は特別講師を招いてるんだ…では、どうぞ


 そうして、その少女が天空よりフワリと降り立った。瞳に写っても、なんの印象にも残らない所を見るに何らかの認識阻害が掛かっているのだろうが…。


「はじめまして、アルフォンソさん、私が青龍…そして世界魔界化計画の発端者です」


 にこやかに握手を求めた少女の登場、そしてその自己紹介に面食らうアルフォンソ。様々な情報が頭をめぐり一先ず自分が何をすべきなのかを何度か問いかけた所…自然とその手をとって握手を交わしていた。


「あはは、握ってもらえるとは思わなかった…ありがとう」


「どう、いたしまして…」


「じゃぁ…早速だけど先生の役目を引き継がせてもらうね?まずは、異能持ちが怪異になる理由からかな?」


 どうやら、まだしばらく話し合いは続きそうだ。

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