種も仕掛けも看破したら


 其処からの戦いは一方的であった。


「なんでオリジンが使えない…!?」


「嘘でしょ!?無効化とかアリ!?」


 かつてリーリャはオリジンの保有者であるクロウと戦い引き分けた。その際に獲得したデータからある程度オリジンのカラクリを解明しており、次にクロウと戦った時には勝てるように対応策を幾つも練っていたのだ。


 もっとも、クロウよりも先に使われる青龍とアルフレドは不幸としか言いようが無いのだが。


 オリジンの能力は天の穴から直接力を引き出し続ける事が出来る、故に高出力の異能を行使出来るというトリックだ。で、あるのならば話しは簡単、穴に蓋をして供給を止めてしまえばいい。言うのは簡単だが…実際にはかなり難しい、だが可能であるなら技術化までこぎつけるのがリーリャの恐ろしい所である。


「青龍さんがベラベラ説明してくれたお陰で弱点が良くわかったわ!ありがとう!お礼に殺して人形さんに仕上げてあげるわね?」


「サイコだ!この子サイ…ぐぇっ!!」


 リーリャを指さして文句を言っていた青龍の腹に斬撃を当てるアルフォンソ、さらに青龍への援護とばかりに、アルフレドが飛ばして来た炎をイリーガル・ルーラーの魔術にて増幅して撃ち返した。


「それズルイだろッ…!?」


 防御壁を貫通するその魔術に対して回避行動しか取れないアルフレド。だが、その炎の影に隠れ隠形を展開していたアルフォンソに気づかず、腹部を大きく切り裂かれた。


「なっ!?」


「アルフレド、キミを殺す理由も無いんだけど、キミが魔界推奨側である以上どうしても戦わなければならないんだ…すまないね」


 アルフォンソに切断された腹部が赤く白熱し、そのまま大爆発を起こす2人。夜空に咲いたその爆炎は何処か花火を思わせる物だ。


「たーまやー!……死んだ?」


「いんや、二人とも怪異以上の耐久力持ってる」


「そう来ないと」


 次の瞬間、世界がコマ送りになったかのような感覚に襲われるリーリャ。炎の中から飛び出した青龍が、既に刃をその身に届かせていたのだ。


「取っ…!?」


「あは、切ったと思ったかしら?見事な速度…でもそういうのってカラクリがあるんでしょう?」


 リーリャの柔肌に刃が触れたまま、押す事も引く事も出来なくなる青龍。以前、道満に防御用の逢魔を切られた事を気にして今回は執拗なまでの防壁を"体"にも縫い込んでいたリーリャ。ついでに防刃、防弾用のスキンも採用している為に一体何が効果を発揮して彼女の刀を止めたのかはリーリャにもあまり分かっていない。


 とりあえず、出来る防御方法全てを大雑把に試してみようと思う程度には、前回の敗北が悔しかったらしい。


「嘘でしょ…嘘でしょ嘘でしょ!?」


「青龍!離脱だ!」


「強いって聞いてたけどインチキじゃんこんなの!!」


 次の瞬間、再び何らかの術で一気にリーリャの射程圏外まで飛び出た2人。同時に、後方に待機している悪魔から砲撃が嵐のように飛来する。寒空に咲いた数多の黒い球体は何度か直撃を取った物の、ついに青龍と魔術師を叩き落とすには至らなかった。


「逃げられたわ…あの逃げ足、何かトリックがあるわね」


「やれやれ、助かったよリーリャさん、僕一人じゃちょっとキツかった」


 ゴキゴキと首を鳴らしてレイピアをしまうアルフォンソ。アルフォンソ一人でも離脱は出来たのだろうが、相手にダメージを与え追い払う事は難しかっただろう。


「どういたしまして、フフ、仲間って結構良い物ね?」


「まったくだよ…で、その体はコピーの方でいいのかい?」


「ええ、アリスのお母様?が来てくれたからこっちに戦力を回せるようになったのよ、きっとアルフォンソさんも驚くわ…フフ」


 意味深に微笑むリーリャに苦笑いしながら、ふと、海の上で暴れている雷の悪魔を見やるアルフォンソ。実は戦闘中もかなり気になっていたのだが…。


「……アレ何?ヤバくない?」


「本物の悪魔みたい、少なくとも今は味方みたいよ?」


「僕の知ってる悪魔の数十倍ヤバイんだけど…」


「社長の元カノだそうよ?」


「女の子の趣味すごいな社長…」


「ウフフ、同感ね…あら?」


 ミシリと音を立てて、皮膚の一部が崩れ落ちるリーリャの遺体。


「青龍さんもやるみたいね、結構固めたんだけど…抜かれちゃったみたい」


「本人だったら無傷で涼しい顔してそうなのがキミの怖い所さ…さて、有給は返上しようかな」


「後で社長に埋め合わせするように言っておくわ、さて…それじゃぁ社長が男色に目覚める前に助けにいきましょう」


 その言葉が風に飲まれたのと同時に2人の影がビルの上からかき消えたのだった。



 クロウとガウスの殴り合いも又、最終局面を迎えていた。既に双方満身創痍と言った様子で、互いに顔の形が変形していて最早どっちがどっちか分からない。


「頑張れー負けないで社長ー!」


「ねねね!リーリャ見て社長さんのチ○コ!滅茶苦茶大きい!」


「はいはい、女の子がそんなはしたない言葉使ったらあきまへんえ?」


【いや、でも本当に大きいッスよ、ねぇ姐さん】


【……まぁ、そうですね】


「お前ら手を出すなとは言ったけど緊張感消える事言うなよマジで!俺のチンコはどうでもいいんだよ!つーか蜂の駆除してろよ!?」


 フルフルはガープを半殺しにしながら未だ遊んでおり、増援として到着したリーリャコピーと好き勝手に安倍景明を殴ってスッキリした葛乃葉、ついでに言うとキマリスを仕留めたコレットも何故か観戦に回っている。


 ある種休日にプロレスを観戦する家族じみてはいるが…実際そうなのかもしれない。


 ちなみに蜂に関してはリーリャコピーと葛乃葉本人の指揮により精度を上げた遺体達とアリア、そして付喪神達によって盛り返し、最早楽勝ムードである。やはりというか、葛乃葉が抜けていた穴が大きかったらしく前線指揮を取るだけで一瞬で盛り返すのは流石の実力と言う他無い。


「社長!前よ!」


 唯一マトモに応援していたリーリャの声を受け、ガウスの一撃を弾きそのまま何度めかの頭突きを入れるとギシリとガウスの頭から嫌な音が響いた。


「ハァ……ハァ……」


 既にガウスの目は据わっている、恐らく後一発殴れば本当に死にかねない程だ。


「もういいだろ、お前さんの負けだ」


「社長さんやれー!殺せー!!ヤンキーゴーホーム!!」


「コレット、流石にちょっと黙った方が良いと思うわ」


 コレットの首筋にリーリャの手刀が炸裂すると、一撃で意識を奪い取った。同時にそれを感心した表情で見つめる悪魔2柱。


「……っ」


 それでも、尚ファイティングポーズを取り拳を握りしめるガウス。


「国を捨てろ、それでお前は自由になれる!分かってんだろうが!」


「自由など!国を捨てて何が残る!?俺には何も無いんだよ!!」


 ガウスの一生に、自由など無かった。自由の国に生まれながら徹頭徹尾彼には自由など無かった。スパイとして生まれスパイとして過ごし、政府の駒として生まれ政府の為に死ぬ、それが彼だ。引かれたレールはそれしかなく…それ意外の全てを奪われた。


「俺も何もねぇよ!だから生き足掻いて何かを成すしかねぇんだろうが!死んで楽になるのが自由か!?違ぇだろうが!!」


「最初から自由だったお前が言うな!」


「自分で自由を作らない奴が俺を語るんじゃねぇ!!」


 そうして、クロウは全力でガウスの顎を拳にて撃ち貫く。吹き飛ぶガウスの体はついに落下し…その海上にあった逢魔に飲まれた。


「殺したの?」


 思わず問いかけるリーリャ。


「まさか、下でドクターが拾って修理するだろうさ」


 今回の作戦に際してクロウはドクターの医療船を作戦海域の下まで引っ張って来ていた、本来は海に落ちた連中を拾う為だったのだが…存外皆が奮戦したので死傷者の数も非常に少ない物となっていた。


 ちなみに先に船の事を言っていなかったのは、雇われた連中が気安く海に逃げるのを防止する為である。


「……残りの蜂を殲滅する」


「ダメよ、社長は休んでおいて」


 いつの間にかクロウの足元に近寄っていたリーリャがものすごい力でクロウを引き止めた。全裸のマッチョに少女という犯罪的なツーショットではあるが…これがどうして中々絵になっているのは不思議な物である。


「……そうか」


「少ししゃがんで頂戴?」


「こうか?」


 しゃがんだクロウの顔を捕まえて、そっと唇を触れさせるリーリャ。するとクロウの体の傷がみるみる内に癒えて行くのが見えた。


「これは…一体?」


「ネクロマンサーよ?治癒術程度使えるわ…それよりホラ」


 そう言ってリーリャが指差す方向にはフルフルがガープの頭蓋をカチ割りトドメをさしていた。


「選択の時間よ、悔いの無いようにね?」


 そう言って、クロウに服を差し出して微笑むリーリャ。


「……ああ、少し話してくる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る