誰そ彼
※次回作に考えてるロボ物の導入書いてみたよ、後異世界物も考えてるけどどうなるかは不明 よかったらどうぞ https://kakuyomu.jp/works/1177354054887309272※
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そのクロウのとっさの行動は、確かに彼の命をつないだ。恐らく自爆は無いと踏んでガウスに飛びついたのだ。
途端、浮遊感に襲われ、遥か彼方のビルへと体が投げ出されたクロウ。即座に受け身を取って体制を立て直してガウスの方を見るが…様子がおかしい。
「っク!?マジか」
其処で自らのスーツの異変に気づくクロウ。ガウスに飛びついた際に、2人とも誤ってガウスのグローブに触れてしまったのだ。それにより2人のスーツにシステムダウンが発生したらしく、最早それは動きを遮るだけのデッドウェイトでしか無かった。
クロウは決断を迫られる、相手よりも早くシステムダウンが回復する事に賭けるか、スーツを脱ぎ捨てて殴りに行くかの二択……。だが、クロウに選ぶ時間は与えられず、スーツを投棄した。
【ほう、良い反応だな】
悪魔が、其処に居た。恐らく先にガウスが名前を呼んだガープだろう。蝙蝠の羽を持つ…物語に出てくるような、デーモンというべき見た目の存在が振り下ろした手により、スーツは完璧にぺちゃんこになった…恐らく修理も難しいだろう。
「スーツがお釈迦になっちまったな」
【何、お前も後を追う、気にすッ…!?】
突如、その悪魔の巨体が地平線の果てへと吹き飛ぶ。第三者からの介入、小さな影からリーリャかと思いその主を見ると…其処には、別の見知った顔があった。
「や、クロ君。いや、今はクロウだったかな?」
「せ…先輩!?」
いつもどおりの飄々とした雰囲気で、名前すらしらない彼女が其処に居た。クロウの瞳から知らず涙がこぼれ落ちると、いつぞやのように彼女はその涙を拭いニコリと微笑んだ。
「ん、また貸しができちゃったねぇ?」
「……又、返さないといけませんかね」
「さぁ?それは君次第だ、クロウ…うーん、口になじまないしクロ君でいいかな?なんにせよ、全ては此処を乗り切ってからだよ」
遠くに居たキマリスを指差すフルフル、すると其処では別の悪魔がキマリスとシャックスを襲っているのが見て取れた。どうやら援軍らしい、クロウは僅かに胸をなでおろす。
と、2人から光を遮るように、巨体が唐突に出現した。否、戻ってきたという方が正しいか。
「ッ!?」
それは地平線まで蹴り飛ばされた筈のガープであった。ガープの悪魔の力は一種の転移だ。だからこそ即座に戦線復帰出来たのだろう。
「アッハッハ!久しぶりだねぇガープぅ、元気してたぁ?」
【フルフル!?貴様一体!?】
驚愕したガープの顔が玄武…否、フルフルを見据える。即座に攻撃して来なかったのは対話の為なのだろう。
「人間の中に私を詰め込んだのさ、中々の出来栄えだろう?それに今はソロモン王候補でもあるのさ…つまり」
【待て、本気か貴様!?】
「こういう事もできる】
ガープより尚大きい、その巨体が落雷と共に現れる。ソロモン王候補の未熟な術に呼ばれた仮初めの体の悪魔ではなく…本物の悪魔の肉体だ。大きな2本の角に歪な手足の異形はガープに食いつくと大笑いしながら殴り飛ばした。
【久々の喧嘩だぁ!どれぐらい持つかなァ!ガープゥゥゥゥ!!!】
【フルフルウウウウゥゥゥゥ!!!!】
悪魔同士のぶつかり合いの余波、その落雷がガウスめがけて飛来すると、ガウスも同じようにスーツを脱ぎ捨ててクロウと対峙する。
「オッサン2人が全裸で殴り合いとか小洒落たシュチュエーションだな、ん?ハグしてケツにキスでもするか?」
おどけるクロウにガウスは無言で拳を構える。最早言葉は不要らしい。
「ラウンド2だ!」
互いのストレートが顔面に直撃し、凄まじい衝撃が2人の頭を揺すった。此処まで来て小細工など必要無い、あるのは肉体を駆使した殴り合いだ。掴む服も無い、武器も無い。原始時代よりもっと前、きっと人が道具を手にする前にあった原始の闘争が其処に確かにあった。
髪の毛を掴みガウスの顔面を殴りつけるクロウ。その手を掴み爪を立て、腹部を強く蹴りつけるガウス。ガウスの髪がブチブチと音を立てて引きちぎれ、クロウの皮膚が破れて血が流れる。
頭突きが飛んで、歯がへし折れる。鋭いボディーブローに、肋骨がへし折れる。だが笑う…まるで子供のように。クロウの異能は船の維持で既に余力が無く銃すら作り出せない、ガウスもガープの全力戦闘出力の維持で既に余力がない。
だからこそ、ただの殴り合いがこんなにも楽しい。異能などというまどろっこしい手を使わずに、純粋に装備差も無く互いの肉体のみでの語らいが…こんなにも楽しいのだ。
クロウが口から血をガウスの目に向かって吹きかけると、僅かに半歩下がるガウス。同時に炸裂するクロウの拳は正確にガウスの水月を捉えた。そのまま押し倒して馬乗りで殴り続けるクロウ、だがガウスはクロウの股間を蹴り上げそのまま巴投げで投げ飛ばした。
「テメッ…金玉は卑怯だろうが…」
股間を抑えてヨロヨロと立ち上がるクロウと、胸を抑えて息を正すガウス。全裸の男の殴り合いはまだ終わりそうにない。
◆
「ふっふっふ…満を持して僕登場!」
男同士がムサイ殴り合いをする数分前、別の場所ではリーリャの要請を受けて徒歩で来たコレットが居た。風になびく金髪と男装で隠しきれない胸の大きさ、透き通った蒼い瞳に可愛らしさと凛々しさを兼ね備えた顔。
ちなみに徒歩で来たのは素寒貧でタクシーに乗るお金が無く、電車を使ってから以降徒歩なのである。コスプレと思われたのか、謎の男連中からの写真撮影に対応していたのも到着が遅れた事に拍車をかけていた。
ようするに、見た目は良いが非常に残念な子なのである。
【主人、正直な所を言っても?】
そんな彼女の従者のような悪魔。刃のついた杖を持ち、人間に似た長髪の可憐な少女のような"ネビロス"がコレットに語りかけた。
「なにかな?」
【めっちゃ遅刻してます、減給は覚悟した方が良いかと】
「ええっ!?こまるよぉ!?ホテルのツケも溜まってるしもう通販で色々買っちゃったんだから!!」
【……取らぬたぬきの皮算用といいう言葉をご存知で?】
「えっ、なにそれ?」
【ニホンゴオジョウズデスネ】
「練習したからね!もしも日本のカッコイイお金持ちが僕の事を見初めて結婚してくれ!なんて言われた時に日本語出来ないと困るだろ?」
エッヘン、と胸を張る少女。繰り返す、彼女は頭がアレなのだ。そしてネビロスも流石にキレて杖の刃がついてない方で少女の頭を強打した。
「痛ったああああああ!?」
【アホな事言ってないでさっさといきますよ、ソロモン王の出涸らし】
「ひどくない!?僕召喚者なんだよ!?ネビロスより偉いんだよ!?」
【立場は偉くとも私より馬鹿であるとは断言できますね】
「馬鹿じゃない!馬鹿じゃないし!ちゃんと計算だってできるし言語覚えるのも得意で…」
【黙れ、とりあえず飛べ】
ガッ、とコレットを持ち上げ、民間人から見えないように輪転道が展開している広域隠形の壁越しに見えたキマリスの巨体へと狙いを定めるネビロス。
「え、あの、ネビロスさん?ネビロスサンねぇ?ちょっと、もしもーし?投げるんですか、投げちゃああぁぁぁぁぁっぁぁあ!!!!!」
夜空にコレットの絶叫が木霊して、一直線にキマリスに飛来する1人と1柱。
「キャアアアアァァァアアアァァァァァ!受け止めてえぇぇぇぇぇけるべろすぅぅぅぅ!!!」
空を飛ぶ中、その3つ首の犬の悪魔が突如姿を現し、コレットを優しく咥えるとそのまま空を4本の足で翔った。
【あのー…自分ナベリウスなんですけど…】
【バカの相手はしなくていいですよナベリウス。それよりも…相手はキマリスとシャックスです、私が迅速にシャックスを仕留めますからキマリスの足止めをお願いしますね、シャックスの力でこれ以上主にバカになられると私がストレスで殺してしまいます】
【姐さん、相手は2人でしょ?こっちみたいに複数展開されたらどうするんですか?】
その言葉に、非常に忌々しそうな顔をしながら美しい顔を歪め、眉間を抑えるネビロス。
【この世代で複数の悪魔を展開できるのは、この子だけなんですよ】
72人のソロモン王候補の内、フルフルとコレットを除いて複数の悪魔を同時に使役できる者は存在しない。確かにコレットは控えめに言って人間的に馬鹿ではあるのだが、間違いなく優秀なのだ。
もっともネビロスとしてはそれが非常に頭の痛い所でもあった。できれば他のソロモン王が勝ってほしくあったのだが、実力主義である悪魔が力に嘘をつく事も出来ない。
いっそ、あのリーリャという娘と頭を交換してくれないかと本当に頼もうとした事もある。それにリーリャの操る最新の死霊術にはネビロスも心を引かれており、以前悪魔の遺体を完全な状況で使役する術を見つけたと連絡があった時は、自分だけで会いに行こうかと思った程である。
なにせそれはネビロスにすら不可能であった事であり、それを十数年しか行きていない娘が成功させたのだ。興味が尽きない。
「あっ、今ボクの事褒めたでしょ!?そのとおり!できる子なんですよ僕は」
比べてこのポンコツはどうしたものかと再び頭を抱える。実力もある、否、実力しか無いの間違いだ。金使いは荒いし物覚えは良いのに抜けていて、急に臆病風に吹かれたりする。本当に…何処か誰かの王の休日を思い出して胸が締め付けられるのだ。
【ケルベロス、ちょっとぐらい牙立ててもいいですよ】
【アイサー】
「あー!ダメですケロさんあーダメですダメですこれあーあー!!!刺さってる!ちょっと刺さってるから!!!」
だからこそ、ネビロスは色々な事を言いつつも、きっと彼女を気に入っているのだろう。
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