包囲網

 青龍。そう呼ばれる少女が、退屈そうに深夜の学校のイスに座っていた。彼女の瞳には空を覆う蜂の群れが写っていて…だからといって動くつもりもない。組織が何も言って来ないのだ、自らが動くつもりもないのだろう。


 ふと、何かを思い出したかのように携帯電話を胸ポケットから取り出すと、打ち慣れた番号を入力してそっと口を開く。


「ハロー玄武、面白い情報ほしくない?」


『あら、貴方から電話なんて……そういえば貴方私にはよく電話かけてくるわよね?』


 その電話の向こうから聞こえたのは、野太い男の声であった。


「数少ない友達だからね、そんな私の友達の貴方にも関係のある重要なお話…聞きたい?」


『聞かない選択肢は無いわね、どうぞ?』


「ソロモン王候補の内アメリカの息の掛かってる2人が、アメリカのエージェントと連携してお兄さんを襲うみたいだけど?」


 携帯越しに玄武の困惑を感じ思わず微笑む青龍。そもそもソロモン王決定戦は茶番に過ぎず本来であればアメリカのバックアップを受けた40人の内、何方かが優勝する事になっているのだ。もっとも…空気の読めない息の掛かっていない2人が最後まで残ってしまった為にアメリカも頭を抱えているのだが。


『確定情報なの?高々制御された悪魔数体とエージェントの一人程度じゃあの人止められないわよ?』


「向こうもそのぐらいは理解してる。だから状況を上手く利用するみたいだね」


『状況?』


「ああ、偉大なるアバドンは来たれりって所かなー?今日は空見た?」


 その言葉から概ねの事情を察する玄武。


『私に何をさせたいの?』


「わかってる癖に」


『……先んじる方を選んだのね、確かにを倒すのは全盛期のソロモン王でも連れて来なきゃ無理だもの』


「あっ、やっぱりあの子そっちでもそういう扱いなんだ?時々居るんだよねぇ…突然変異みたいに滅茶苦茶強くなったりする子が」


『あの子と同レベルのポテンシャル持ってるのは日本じゃ…そうね、桃太郎ぐらいの物よ?貴方の一番の失敗を教えて上げると、あの子をフリーにしちゃった所…絡んで来ないとタカをくくってたんでしょうけどなんだから警戒ぐらいはしとくべきだったわ』


「痛い所突くね、敵対してるかと思ったけどそうでもなかったし…一番のネックなんだよね」


『ま、私にはあんまり関係無いケド…じゃ行くわね』


「ご武運を、私はうーん…暇になったら覗きに行くかも?」


『何時も暇な癖に、ありがと、じゃあね?』


 そういって電話を切る玄武にバレてたかと独り言を呟いて席を立つ。


「さぁさぁ此処が分岐点だよおにーさん?白虎も玄武も動き出しては準備万端!道満来たりて混沌直下!ソロモン王が加わって坩堝が溶けて落ちちゃいそう!!」


 青龍は嗤う、既に仕込みは終えたとばかりに。全ての状況を見渡すその碧く輝く目が空を見据えて、これから起こる世界の変革を虚空の夜空に描いた。


 だが、それでも一つの失敗が青龍にあったとするのならば。


 全てを見据えるは一つでは無く、常になのだという事を忘れていた…その1点に尽きるのだろう。



「ごめんなさいアルフォンソちゃん急用が出来たわ」


 スマホを耳から離して、深々とアルフォンソに頭を下げるオカマ…もとい


「訳は…聞かないほうが良いんだろうね、むしろ俺をそこまで信用してくれてる事の方が謎だけど」


「人を見る目はあるつもりだからね☆」


 バチコーンとウィンクを飛ばす玄武に思わず数歩ノックバックされるアルフォンソ。どうやら玄武のウィンクは物理的な威力があるらしい。


「皆、最後まで守って上げられなくてごめんなさい…私行かなくちゃ」


 そういって、今揃っている女の子を呼び集めてそっと一人一人を抱きしめる玄武。


「まるで今生の別れみたいだ」


 と、ついつい思った事を口にしてしまうアルフォンソ、僅かに少女達に睨まれたが即座に玄武がフォローに入った。


「そうなったとしても、貴方が居るから大丈夫ね?兄貴とこの子達の事任せるわよ」


「本当にどうしたんだ?」


 だが玄武はアルフォンソには言わない。私があなた達の元を離れればもう帰れないだろう、と、少女達に既に伝えてある事を。


「聞かないで…乙女には秘密が多いの」


 チュっと投げキッスをすると今度はそれを割と必死に回避するアルフォンソ。どうやら玄武の投げキッスは当たると致命的らしい。面白がったのか連続で投げキッスをすると今度はウォーロックとしての体術で回避し始める程である。


「遊んでる暇あるのか!?」


「最後に一発ぐらい当てたいじゃない?」


「アンタがそう簡単に死ぬとも思えないけどな!」


「戦場なんて何かの拍子にあっさり死ぬ事の方が多いじゃない、心残りは作りたくないのよ」


「心残りで生き残れよ其処は!」


「……それもそうね」


 説得に成功したのかやっと投げキッスをやめて再び少女達に向き直ると、再びそっとハクノエを抱きしめた。


「貴方の事を見守ってくれてる人はたくさん居るわ、其処のウォーロックさん然り、先生然り、たくさんの愛を受けて貴方は生きている事を忘れないで」


「はい…」


「リーダーちゃんとやれる?」


「はい」


「私が居なくなっても、頑張れる?」


「はい……」


「泣かずにお別れ出来る?」


「い"い"え"」


 わっと泣き出すハクノエをあやすように優しく何度も何度も頭を撫でる玄武、その後他の子達も釣られるように泣き出した。一時的であれ路頭に迷った訳ありの少女達を優しく迎え入れてくれたのが玄武だったのだ。


 たとえ一緒に居た時間は短くとも其処には愛があった。家族のような愛であり、母のような愛であり…父のような愛。深い愛を皆に惜しみなく注いだのだ。少女達が泣き止むとそっと立ち上がり、アルフォンソの瞳を見据えて頷く玄武。


「後を任せる」


 初めて、男として玄武が言葉を放った瞬間だとアルフォンソは感じた。ならば…最早男として頷くしか無い。とは思いつつも、何故かそうしないといけない気がした。


「生きて帰れよ」


「その時は兄貴も一緒にランチを食べたいわね、お高い店でお腹いっぱい…ね?」


 漢が立った。背中に少女達の愛を背負って。その振り向く顔は何処までも漢らしく、何処までも慈悲深く…戦場に赴く戦士の顔であった。



 ビルを出て先程とは違うを纏い、ビルを駆け上がる玄武。摩天楼の天辺で周囲を見渡し、誰の視線も無い事を確認すると…そっとその


 其処に立っていたのは美少女とも美少年とも見分けがつかぬ存在。すると再びが音を鳴らした。かけてきた相手は再び青龍。


「もしもし?」


 先程の男の声と違い老人のようにしわがれた声で玄武は答える。


『あら、脱いだの?』


「今回は辛そうだからね、それにさっきボコボコにやられちゃったし…慢心は良くないかなーって」


「あら、じゃぁ正しい名前で呼んだ方が良いかしら?」


 背後から聞こえた声に振り向くと、其処にはいたずらっぽく嗤う青龍が居た。


「相変わらずだねぇ」


「服を持ってきたのに、随分な言い草じゃない?」


 そう言うと、セーラー服を差し出す青龍。それは玄武にとっても思い出の品である。


「うわっ、懐かしい…まだこの制服なんだ」


 クロウと共に闘った日々の制服、わざわざ青龍はそれを手渡す為に制服を盗みに学校まで行って居たのだ。もっとも、そんな話を玄武にする筈も無く意味深に微笑むだけだが。


「私は見てるわ、今回は上から許可が出るまで私は手を出せないの」


「あら?私にはそんなメッセージ来てないけど?」


 と、スマホを取り出し念の為にメールボックスを確認するもやはり何も無いと頷く玄武。


「住所不定だし、携帯繋がらないからじゃない?」


「あ、それもそっか」


「合法的に動けるのは貴方だけだよ、白虎は本部で捕まってるし朱雀も出張中」


「今回イザナギは動かないの?」


「いいえ、一番良い所で動く、街に被害がある程度出てからね?そこで見事解決してイザナギの発言力を取り戻す魂胆」


 玄武の表情がひどく冷たい物になり、青龍も思わずため息を漏らした。


「……クソだね、そんな下らない事の為にイザナギは此処までお膳立てしたの?」


 ストレートな物言いに苦笑しながらも、頷いて同意する青龍。台頭し始めたCLOSEへの牽制と自らの発言力を取り戻す為に、民間人を犠牲にする事を決めた組織から2人の心は既に離れていた。


「クソだよ?そんな下らない事の為にアメリカの介入を政府に認めさせたのだから」


「これ終わったら玄武やめていい?」


「うーん、無理強い出来ないからなぁ、私としてはもう少し居てほしいんだけど」


「限界なんだよね、イライラ抑えるのもさ」


 ミシリ、と、玄武の頭から2本の角が生える。それは鬼の物ではなく…もっと別の、何か歪さすら感じさせる物だ。そうして、先にアルフォンソと戦った時よりも激しいが体の周囲に生じた。


「落ち着いて…なんて言えないか。うん、暴れて来るといいよ、その名に冠した雷と嵐…ワイルドハントで一切合切薙ぎ払ってしまえばいい…だけど」


「だけど?」


「彼の本気、みたいでしょ?」


 その言葉にキョトンとした表情を浮かべる玄武。数秒後、その言葉の意味に気づいたのかクツクツと嗤うとまとっていた嵐は消え失せ角が再び体の中に収納されていった。


「……青龍、ホントキミ悪い子だね」


「玄武もでしょ?」


「おっと、玄武はもう廃業、きーめた」


「なら、なんて呼ぼうかな?」


 その言葉に、上機嫌そうに制服へ着替えながら青龍に。


「出会った時の名前でいいよ」


 と、言うと、全身を雷へと変換して空へと舞い上がって行く玄武。


「じゃ、こう呼ぶね」


 フルフル。それが玄武の正しき名であり…ソロモン因子を持つ、アメリカの息のかかった2人ともリーリャが協力していたコレットとも違う、ソロモン王候補最後の一人であった。







※※※ちょっとだけ報告※※※


 練習がてらにこの小説書いてたけどスタートアップコンテストの中間まで生き残っててびっくりしました。いやマジで。


 全体構想として120~200話程で終わる予定なので起承転結の起が終わって承と転あたりが混じりながらも見え始める所でしょうか?ある程度終わりが見えて来たのでそろそろロボ物も平行して書きたいなぁと思いつつも先にこっち終わらせたいなぁという気持ちもチラホラ。


 所でなんか面白いロボ物のカクヨムとかなろう小説無いですかね、無いですかね…無いですかね……。 


 更新はまぁ、時間ある時に出来る限りやってますが本業が割と忙しいので睡眠時間削りながらの執筆になってます、今も風邪引いてベッドの中での更新ですええ。時間を下さい…主に睡眠時間。まぁそれはそれとしてソシャゲーとガンダムとボダブはやる。


 そんな感じなのでこれからも生暖かく見守って下さい。


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