異能人格


「それで、社長の異能が主神経由の物って話だけど、それと何か今の性格が関係あるのか?」


「そうね、強いていうならば、彼の元来の性格と八咫烏や天照の人格が混じりつつある可能性があるの、あるいは別の物に変質しているって可能性も」


「馬鹿な!?異能事態が人格を持つとでも!?」


 思わず声を荒げるアルフォンソ、だが可能性は0では無いのだ。なにせ異能の根源は人類が怪異に対する抗体、であるならば其処には発現するに至る遺伝子や歴史の蓄積がある。先祖代々蓄積されたそれらの遺伝情報は、異能を発現するにあたり性格上にも確かになんらかの形で現れると考えるのが自然だ。あるいは…神話からの蓄積を考えればある種のと言い換えても良いかもしれない。


 "文化"は人類の性格になんらかの形で影響を及ぼすのはまず間違いない。つまり其処に人格とまではいかなくても、強く人の精神に干渉する"何か"があって然るべきと考えられる、オカマはそれをある種の"人格"という捉え方をしたのだろう。


 事実として社会形態の変化により、現代人に現れる異能も金が多く発生するようになっている。それは過去に異能を持っていた人々の数を見れば年々増加傾向にあり、"金"という汎用性の高い手軽な異能の量産化を人類が獲得したという見方も出来る。


 卵が先か鶏が先かという話になるかもしれないが、社会が変わるが故に大量の異能持ちが現れたのか、大量の異能持ちが現れたが故に社会が変わったのか…という可能性も否定できる要素が無い訳だ。もっとも、そういった難しい話は専門家にでも語らせれば良いだろう。


 なぜなら、オカマには確かにがあったからだ。


「私はね、一度彼が"ソレ"に飲まれたのを見た事があるのよ」


「なっ…!?」


「白虎との戦いの後、彼は一時的に無気力状態に陥ったの。連れて帰るのも精一杯だったわ…其処から数日白虎との戦闘の傷が癒えるまでの間ほぼ昏睡しっぱなしだったのだけれど、たった一度だけ意識が戻った事があったの。その時、彼は病院のビルの屋上で…聞いたことの無い女性の声でこう言ったの『今代の依代は、中々に見どころがある』って」


「そこから、社長は変わったのか?」


 ただの思春期の終わりと考えられる。事実それが起きても良いような事が白虎との戦いであった、だがオカマはそれだけだと切り捨てるには、病院でのクロウの言葉が引っかかっていた。


「ええ、目覚めてから少しづつ冷めた人になって行ったわ。私もその事が気がかりでずっと一緒に居たのだけれど…其処から急に。いえ、前々からね…彼との実力差が大きくなりすぎて、ついに足手まといになっちゃったの」


 其処からクロウは活動の場を日本だけでなく海外にも移した、実際日本からの引き抜きのような物なのだろうとオカマは睨んでいるが…彼が再び日本に戻って来た時にはそのたこ焼き器が握られていたそうだ。


「そうして、彼はたこ焼き屋を営むようになったの、正直どういう経緯があってそうなったか分からないのだけれど…ほら、太陽とたこ焼きって両方共丸いでしょ?」


「いや、多分それはあんまり性格云々と関係無いと思う」


「あら、やっぱり?」


 何にせよ、クロウの異能には何かがあると予想させるには相応しい話の内容だとアルフォンソは思う。あるいは、魔女の業火のように感情を異能にくべているという可能性も否定は出来ない。とはいえ…全てが憶測止まりだ、存外本人に聞けばすんなり分かる事なのかもしれないのだが…。


(聞けないよなぁ)


 というのが本音である。



 片付けを終えて、再び仕切り直しという事でガールズバーの地下で腰を落ち着け話し合いを行うアルフォンソ達。アルフォンソは彼女達が回答を出すまでの間、護衛として派遣されたという事を伝えると、以外…という程でも無いがオカマは少女達に甘えても良いと思うわよ?と口添えしてくれた。


「彼、私より強いし多分並の異能持ちじゃ傷一つつけれないわ、本気出したのにかすり傷一つで押し倒されちゃったんだもの、私も守って上げるけどより安全である事に越した事は無いでしょ?」


「押し倒してはいない、倒しはしたけど…それと他のメンバーは何処に居るんだ?護衛対象の顔ぐらい見ておきたい」


「あん、イケズ、他の子は上で働いてる子も居れば学校に行ってる子も居るわ、全員揃うのは夜になってからかしら?」


「何人程居るんだ?」


「10人程、内、戦闘がギリギリ可能なのは此処の4人の他に後1人だけね、残りは非戦闘員よ、もっとも貴方からしたら全員非戦闘員みたいな物だけど」


「オネエさんは戦力として見てるぞ?」


「あら、恋愛対象としても?」


「それは無い」


 いやんとクネクネ身を捩らせるオカマに、ため息一つで対応するアルフォンソ。強い異能持ちは個性豊かな人が多い為にアルフォンソも別段オカマ程度でうろたえたりはしないのである。


「ん?あれ?電波が繋がらない?」


 と、ふいにシロツユ疑問の声を上げる。おそらく他のメンバーにも夜に話があるという旨を伝えようと思っていたのだろうが、電波が繋がっていないようだ。


「フローラさんの落雷の影響じゃない?」


「あらっ!?私のせいかしら!?」


 オロオロとしだすオカマ。だが、オカマは周囲にかなり気を使って落雷を落とした筈だ、影響が早々出るとも思えない。


「落雷程度でどうこうなる程最近はヤワじゃないと思うが…うーん?電波状況が悪いだけか?」


「こっちも電波ダメみたいです」


「同じく」


 全員の電波が通じない事に違和感を覚えるアルフォンソ、とはいえ彼にどうこうする事も出来ないのだが。


「まぁ、1時間程待ってみてから再度電話掛けたら良いんじゃないか?」


「大概30分以内に治るものね、少し待って様子見てみましょ?」


 一先ず待つという選択肢を取った一同は、再び軽く自己紹介等をして過ごすのだった。



 さて、時間は再び夜に巻き戻る。港まで車を走らせたアリアとクロウは、海岸線にある荷積み場に車を停車させる。時刻は午後7時20分、日は完全に落ちきって周囲は完全に夜闇の中。


「少し冷えるな」


「海沿いですからね」


 そういいながら、そっとクロウの背中にコートをかけるアリア。クルマの中に用意していたらしい。


「相変わらず気が効いてたすかるよ」


「慣れた物ですから」


 熟年夫婦のような会話をしながら、荷積みの為に停泊中の貨物船に近づくと、黒服がそっと遮るようにコンテナの裏から現れた。


「招待を受けたアリアと濡羽だ」


 その言葉に小さく頷くと、再びコンテナの後ろに戻る黒服。彼等はこの貨物船を守る怪異である。人間のように振る舞ってはいるが、おそらく数千万クラスの実力は持っているだろう。


 そうして…貨物船に乗り込むと、不意に周囲の光景が歪む。


「ようこそ、お待ちしておりました、濡羽様、アリア様。この世の極楽の集う船…まりたん号にようこそ」


 執事服に身を包んだ男装の麗人がにこやかに2人を出迎えると、外から見た全貌とは違う世界が現れる。酒を飲み交わす人々と怪異やカジノやルーレットで楽しむ人々と怪異。人と怪異が別け隔てなく楽しむアミューズメント施設が其処にあった。


「医療船まで私、アルハンブラがご案内させて頂きます、もちろん治療後はご自由にお楽しみくださいませ」


 地平の果ての海までが、全て船で埋まっている。船と船には橋がかかっており、船ごとに様々な娯楽施設があるのが遠くからでも見て取れる。中には船程の大きさの怪異…海坊主が船に腰掛けているのもあった。


「相変わらずの盛況だな、3日日本に停泊するだけで一体どれほどの利益が出るやら」


「フフ、そういうCLOSEも相当の稼ぎと聞いております、社員の慰安の際にはぜひご利用の程をお願いいたしますね?」


「政府からも声掛かってるから其処はそちらの営業努力次第と言わせてもらうさ」


「手厳しい、ですが、好ましい……どうぞ此方へ、医療船まで一直線です」


 そう言って男装の麗人は2人を先導するように船を歩き始めるのだった。 



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