光輝くオカマ

 ガールズバーへと足を踏み入れるアルフォンソ、周囲から視線が突き刺さると僅かに苦笑いをしながらコチラへ向かってきた大男のに手をあげて軽く挨拶をする。


「ハイ、此処ってガールズバーでいいんだよね?それともお姉さんみたいな人がたくさん居るバーだったりするの?」


「あら色男さん!日本語お上手ね?ガールズバーであってるわよ、料金説明させてもらうわね?」


「ああ、それはとてもありがたいんだけど…今回はちょっと仕事で来てね、そっちのバックヤードに地下に降りる扉あると思うんだけど、其処に居る女の子4人呼んできてくれる?CLOSEから使……」


 其処まで言って自らの体に蜃気楼の魔術を施し虚像を残したまま後方に数歩下がるアルフォンソ。同時に先程まで居た位置にオカマの拳が炸裂。もちろん虚像を貫きオカマはその目を見張る。


「おいおい、客に対していきなりじゃないか」


タスクレス無詠唱!?」


 腰に隠していたレイピアを引き抜くと、刀身に炎を纏わせ同時に人避けと自らに蜃気楼を複数重ねがけするアルフォンソ。近接戦における基本系であり同時に最もアルフォンソが力を入れて習得した所だ。


「何も敵対しに来た訳じゃない、ちょっとそっちの子達に用があるだけさ、CLOSEからの使…いや、だから話聞けって!?」


 オカマの鋭い拳がアルフォンソの陽炎に飛来し虚像を抉る、オカマも何らかの異能を持っているらしくそのフットワークは恐ろしく軽く、それに反比例するような拳の重さを見せている。恐らくまともに受ければ一撃で骨を持っていかれるであろう拳…だが、アルフォンソ相手では部が悪い。


「言わずとも分かっているわ!アンタ達があの子達を狙っているという事ぐらい!!」


「っくそ!相手に使うのも酷だがッ!!」

 

 薄く透き通った青白い炎の針が、オカマに飛びかかるアルフォンソの蜃気楼を隠れ蓑に飛来してその二の腕へと触れる。途端。


「ぐおおおおおおおおおああああああ?!!?!??」


 オカマが野太い悲鳴を上げ、片腕を抑え大きく後ずさった。


「うっそ、これで気絶しないのか…」


 アルフォンソが放った炎はファントムペインと呼ばれる魔術だ。炎の針が触れた対象の精神体の複製を作りそれを串刺しにして痛みのみを転写するという物である。肉体に傷こそつかないが、精神体側で受けた全ての痛みが圧縮され一気に流される為に通常串刺しにされた時の数倍の激痛が走る。


 本来の使い方としては精神崩壊を起こさせるか拷問の為の魔術なのだが、熟練の術者であれば失神程度に抑える事が出来る。もちろんアルフォンソも失神させるつもりで放った、だが常人であれば失神するであろうソレを気合のみで目前のオカマは耐えたのだ。


「フゥゥゥ…出し惜しみしている暇じゃないようね、貴方、強いわ…私の知る男の中で一番かもしれない」


「残念ながらこれでも俺の組織だと一番弱いんだよ、いいから人の話を…」


「だけど!私の知るには及ばないわ!見せて上げる!魂の輝きを!!!!」


「頼むから人の話を…うごぁっ!?」


 オカマから雷のような発光が起きた後、反射すら許さぬ速度でオカマの拳が僅かにアルフォンソの腹部を掠めた。途端、暴風にでも打ち付けられたように、入り口扉ごと吹き飛ばされながら店の外へ叩き出されてしまう。


「ッ、痛ってぇ…!?」


 ゴムマリのように数度バウンドしながらも即座に体制を立て直し、再び複数の保護魔術を体にかけなおすアルフォンソ。彼の中で眼の前のオカマが素人の異能使いから注意すべき異能使いにランクアップした瞬間でもある。


『オオオオッ!!』


 目ではとてもではないが追えない、だからアルフォンソは追わない。そのかわりに意図的に隙のある構えでそれを迎撃する。


『取っ…!?』


 アルフォンソの左側の顔をオカマの拳が捉えた、否、捉えた筈なのだ。オカマは先のやり取りでアルフォンソが何かしらの隠形により本来の位置とズレた位置に居る事を割り出していた。そして、それを考慮に入れた上で今の拳を繰り出した…筈であった。


 見えない筈の雷音の拳は掴まれ、その速度のままに柔術にて地面に叩きつけられた。通常であれば即死しかねない、だが…アルフォンソはある確信の元に地面に叩きつけた。


「その体術、誰に習った」


 オカマの異能は先天性の金…だが、金の裏の使い方である雷を使っている。これを使うには相当な異能の訓練と、そもそも武器を作り出すという金の優位性を捨て去る必要性がある。

 

 そして雷特有の速度。人間に制御できない程の移動速度をなんとか制御しなければならない。なるほど、確かに机上の空論としては強いのだろう。だが、その空論を確かな物にしている基底がそのオカマにはあった。それこそが本来致命傷と成り得るアルフォンソの柔の威力を受け流すに至ったのだ。


『私の知る限り、最強の漢によ』


 叩きつけられはしたが、受け身を四足全てで取りダメージをほぼゼロにしたオカマは、アルフォンソの腕をすり抜け距離を取る。同時に受け身を取ったその動きがアルフォンソの知る男の動きと重なった。何度もその動きを見せつけられたのだ、嫌でも脳裏によぎる。


「……クロウ」 


『ッ!』


 その言葉と同時にアルフォンソの隙だらけの左足へローキックが叩き込まれる、だがその蹴りは踏み潰すようにして止められ、腹部に追撃の蹴りを受けオカマは吹き飛んだ。オカマは気づいていないが、アルフォンソは隙のある所以外を完璧に固める事により攻撃をその隙の一点に集中させているのだ。これは戦闘経験が豊富な程引っかかりやすい。


 テニスプレイヤーが相手がコートの左に寄り切っているなら右側にボールを撃つように、ボクシング選手がガードが下がってきた所を狙い顔面に拳を放つように、当然であるが故に見逃せない隙。なにせ其処を叩けば確実に勝てると錯覚させられているのだから。


『ガッ!?』


 アルフォンソはその隙をあえて作りその隙の場所に設置した蜃気楼に感知術式を込めている。これにより、実際の位置よりカウンターする為の余裕を持たせて敵の攻撃を感知出来るのだ。蜃気楼側に相手の攻撃が触れた瞬間其処に対して最速でカウンターを放っていれば、アルフォンソの身体能力ならば対応は可能だ。もしも、オカマの攻撃が1方向からではなく多方向の攻撃であればアルフォンソも流石に対応できないだろう。だが一箇所のみ、其処に確実に来るというのであれば話は別なのだ。


「だが、彼と比べれば速度も力も技術も未熟だ、本物なら今の蹴りを確実に当てていた」


『お前が兄貴を語るな!!』


 ザン、と一瞬で間合いに踏み込むオカマ。だが今度はオカマがアルフォンソの周囲を囲うように3体に増えていた。雷による高度な分身…流石にこれには驚き魔術を重ね防御を固めるアルフォンソ。そしてその判断は正しく、即死級の威力の落雷を軽い火傷に抑えたのだ。


 天地を割るような雷鳴が空より降り注ぐと、周囲一帯を焼き払いかねない勢いで雷が広がっていく。だが、アルフォンソはその雷の直撃を掌で受け止め散らした。白虎程の威力ではないが範囲こそ見劣りしない異能は見事の一言に尽きる。


「凄まじいな」


 僅かに焼けた手のひらを震わせて、次の一手を仕込むアルフォンソ。


『まだこれからよ!』


「いや、ここまでだ」


 再び数を増やし踏み込んできたオカマの拳が、今度は落雷を巻き起こさず、触れる事すらなく完全に逸らされた。その事実に目を見開くオカマ。


「先天性異能の弱点をおしえてやろう、属性をメタられたら打てる手が一気に減る事だ」 


 それた理由は雷除けの魔術、非常にポピュラーな物ではあるがオカマには効果絶大である。なにせと化しているのだ。纏の応用としてその体を雷と同化させているのだろうが、その方法は非常に異能の消費が激しく、解除タイミングを見誤れば自らの体がただの電気として霧散してしまう程のリスクを伴う。


 故にこそ強い、だが完全な雷となる為に雷と同じ対応で対処可能であると言う欠点も持つ。


「じゃぁ、寝てろ!」


 そうして体制を崩した所を狙いすまし、必殺の一撃がオカマを襲った。

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