巡る情報、巡る感情
輪転道とCLOSEが手を結んだ。そう見えても仕方ない状況を見つめていた顔役達は即座に独自の連絡網を使い組織に情報を送る。様々な憶測が飛び交いながらも、少なくともCLOSEと輪転道は良好な関係であり、政府とその2社は不仲であるという情報だけは確定として扱われた。
「……まぁ、いいか」
周囲の勘違いを一々正すのも面倒だとばかりにクロウはその木造建ての建造物を出る。何やら歴のある建物らしいが、正直然程興味が沸かなかったので振り返りもせずに歩んでいく。
「やれやれ、すっかり暗くなったな」
そんな事を呟いて歩いていくと既にアリアが車を用意しており、そのまま後部座席に座ると普通の速度でのドライブが開始された。もっとも即座に速度を上げる事になるのだが。
「後ろ、つけられていますね」
その言葉にバックミラーを軽く覗くと、少し焦った動きの車が2台見て取れた。
「気づくの早いな」
「軽く飛ばした時の車の動きが不審でしたからね…振り切りますか?」
「放置でいい、通院する所を見られたとしても問題は無い」
一日中せわしなく動いていたクロウではあったが、この時間帯には手を治してもらう予定が入っていた為に何方にしろ早いタイミングで切り上げるつもりだった。結果としてああいった形になったのは政府にとっては不幸と言う他無いだろう。
「腕もそうだが、付喪神の追加が今回で何体来るか楽しみだな」
「しかし…海外の付喪神を回収してしまっても良いのでしょうか?」
「かつて日本は銀と金の交換レートを誤り根こそぎ金を海外に奪われた、やられたらやり返しても良いだろ多分…物の価値を知らないという事はそれだけで損を生む」
クロウ達が買い付けているのは各国で油漬けになっている武器達だ、かれこれ100年以上放置されている廃棄物でもあるが…故障さえしていなければ付喪神としての条件を満たす。故にクロウ達はそれに目をつけ金を払い買い付けさせているのである。
「というか、通信状況はまだ改善されないのか?そろそろ半日以上だぞ…」
TV番組等でも既に騒がれており、海外からのハッキングではないか?などという憶測まで飛び交う事態にまで至っている。とはいえ、SNS等が携帯電話から利用出来ない為に、普段程変な情報は飛び交っていないと言えば聞こえは良いのがせめてもの救いか。
「それに関してなのですが、どうやらカーナビも利用出来ないようで衛星側の問題では無いかと疑われていますね」
「何?カーナビもダメなのか?」
そう言いながらスマホで情報を確認しようとして手が止まる。
「って、携帯使えないんだったな」
「ユビキタス社会…などという言葉も今は昔でしょうか?人類のネットワークへの依存は想像以上ですね」
「頼り過ぎるのも問題って事なのかねぇ…なんか前もこんな話したか?」
ボヤきながらスマホを軽く弄っていると、不在着信が入っている事に気づくクロウ。電話の入った時間は…先の会議中のようである。
「葛乃葉から電話?一体どうやって…」
かかってきたのであればかけれるのでは?とダメ元で電話をかけてみると、数度のコールの後にしっかりと繋がり驚きを隠せないクロウ。
『ああ、社長はん、気づいてくれはりました?』
「葛乃葉!?一体どうやって回線を!?」
『ドローンを中継機に使って無線の真似事をやってみたんよ、周波数に関してはリーリャちゃんが色々と都合つけてくれはったよって混線の心配もありまへん、2人とも大したもんや思わへん?』
「ああ、見事なもんだ…それで?そちらの状況は?」
『女3人で姦しくトランプ中やねぇ、社長はんは会議どうどす?』
「終わった、コチラからはヒロフミさんを防衛に出して俺・葛乃葉・アリアの3名は攻勢に出る」
『リーリャちゃんは護衛続行やね、ん?変わる?社長、リーリャちゃんがなんや話あるみたいやから変わりますえ?』
「おう、政府からの連絡はPCメールで来る筈だ、すまんがそっちも定期的に見といてくれ」
そう言った後に電話の向こうで僅かな物音の後リーリャの透き通った声が響いた。
『社長?私はこのまま護衛続行で良いのかしら?』
「ああ、そうしてもらいたい、何か変わった事は?」
『有栖さんに神経衰弱で挑まない方が良いわね、カードの柄透視してる可能性があるわ』
遠回しな異常無しの報告にクスリと笑みがこぼれたクロウ。
「イカサマに使えそうだな、っと、一つ聞きたい事があったんだった…ソロモン王って知ってるか?」
『ん?コレットの事?それとも他のソロモン王?』
「…知り合いなのか?」
クロウが少し驚いた声を上げると、逆にリーリャが以外そうな声を上げた。
『流石に私だって何の情報も無しに遺骸とは言え悪魔の制御を成功させたり出来ないわ、ソロモン王候補からの情報提供があって初めて制御術式の完成にこぎつけたのよ?代わりにコチラからは邪魔なソロモン王候補から悪魔を剥がしたり色々手伝って上げたけど、連絡先が知りたいならメール送るけど?』
「……頼めるか?」
打算的ではあるが此処でソロモン王とやらの候補に対して友好的な関係を結んで置きたい。なんなら組織を上げてソロモン王に仕立て上げても良いぐらいである。今回の件で、やはり組織としてのマンパワー不足を痛感したクロウは、組織の人材的充足が急務であると判断したのだ。
『今電話番号を送ったわ、楓さん、ドローン追加で飛ばして中継スポット増やすから少し手伝って、ホテル・モンテカルロって何処だっけ…』
何やら後ろでワイワイと騒ぎながらキャーキャーと黄色い声を上げている。女3人よればなんとやらとは良く言ったものである。
「通信の準備はどの程度になりそうだ?」
『早くて20分ぐらいね、40分ぐらいたってから電話掛ければまずつながると思う。夜の10時以降は寝てると思うから、かけるなら早目にね?』
「ありがとう、そっちも護衛の方宜しく頼むよ、じゃあな」
そう言うとプツリと切れる電話。相変わらず有能な部下達だと感心を越えて僅かに呆れすらするクロウ。本当に彼等とならば世界の終わりだろうがなんだろうが、どうにでもなりそうな気がしてきた。
「っと、ついでだ、イケメンにも掛けとくか…」
アルフォンソに確認の電話を掛けてみるが繋がらない、どうやらドローンの中継範囲には居ないようだ。
「…流石に其処まで万能じゃないか」
部下が上手くやれてるか心配になってしまうあたり、クロウも母親気質なのかもしれない。
「ま、アルフォンソなら上手くやるだろ」
◆
時間はかれこれ7時間程前に巻き戻る。
アルフォンソはクロウ達と別れてからマギアのメンバーを追跡していた。実はリーダーの少女の肩を叩いた際に発信機を仕込んでおり、追跡自体は然程難しくはなかったのだが…。
「ッチ…立体構造か、やられたな」
大体の位置は掴んでいる、繁華街の地下室の何処かなのだが隠蔽魔術を使われていない為、逆に感知出来ないのだ。
発信機の反応は丁度自らのいるアスファルトの下なのだが、アスファルトを叩き割る訳にも行かず周囲を見渡す。目に入ったのは4つの店。ランジェリーショップに、スイーツ専門店に、ガールズバーに、アダルトグッズの店。
「入りづらい店ばっか並んでるなぁ…」
ため息を一つ零すと、一旦路地裏に退避するアルフォンソ。感知され警戒される恐れもあるが、面倒なので魔術でさっさと蹴りをつけるつもりである。キョロキョロと周囲を見渡した後に、小さな声でアルフォンソは呟いた。
「炎よ」
……実は、アルフォンソの本名は
母親の影響か、魔女ではあるが日本系術式にも非常に造詣深く、特にカウンターマジックと呼ばれる相殺魔術に日本術式を加えたイリーガル・ルーラーという反撃と攻撃を同時に行うオリジナルの魔術を主に使用するのだが、コレがかなりとんでもない物だ。
相手の魔術を打ち消すのではなく自らの術式で侵食し、相手の守りを抜きながら変質させ貫く魔術。アルフォンソ事態、少なくとも魔術の真正面からの打ち合いであれば最強を名乗れる程の精度と技量を持つ。もっとも、イリーガル系統だけでは騎士としては中間程度の実力なのだが。
彼等の本質はその総合力と対応力、一人で戦争を起こす為の術を持ち、肉弾戦や射撃戦、調略、戦術、戦略、工作…とにかく全てを以て戦うのだ。故に、ありとあらゆる状況に対応できる強さが彼を彼たらしめているのだろう。
「走れ」
アルフォンソの掌からこぼれた炎が薄く地面に広がり、それら全てが彼の為の瞳に変わる。それは水が地面に染み入るように地下へと潜って周囲をギョロギョロと見渡し、瞳達はアルフォンソに獲得した全ての情報を送信した。さながら複眼にでもなった気分を味わいながらも一瞬で周囲の地形を把握を済ませたアルフォンソは、少し顔をしかめた。
「見つけた、よりにもよってガールズバーか…はぁ…」
経費で落ちないよなぁ、と悩みながらも一応領収書は切ってもらうつもりで重苦しく店に足を運ぶアルフォンソ。
「あの様子だと、俺の事覚えてないだろうしなぁ…なんて言ったもんか」
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