踊らぬ会議
「一先ず最悪の状況は回避できそうで何よりだ、かといって楽観視も出来んのは確かだな…何か後1手が欲しい所だ」
そうは言ってもある程度使える手札は皆出したと言って良いだろう。というか大蜂と相性の良い能力者が少ない為に、クロウ達のような純粋にスペックの高い組織が前衛として立つ事になる。つまり最低でも数千万クラスの依頼を一人で完遂出来る幅広い異能が必要なのだが…そういった能力持ちは無論少ないのだ。
「では、ソロモン王達に依頼してみては?」
「ソロモン王?」
輪転道の男から飛んだ聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまったクロウ、今の発現で少々苦手意識のある彼にロックオンされたような気がしないでも無いが…まぁ其処は考えるだけ無駄と割り切る。
「ええ、正しくはソロモン"18"ですか、現在日本でソロモン王決定戦がやっているのはご存知ですか?」
「……いや、知らないな」
というかソロモン王決定戦ってなんだよと頭の中でツッコミを入れるクロウ。確か昔そんな番組あったよなぁと思いながらも、あえて口には出さずに言葉を待つ。
「あまり会議に関係無い話しなので少し割愛しますが、72人のソロモン因子を持つソロモン王候補がソロモン王になる為にソロモン72柱を一体づつ振り分けられて総当たりの勝ち抜き戦を行うのがソロモン王決定戦です」
「ソロモン因子は聞いた事あるな、なんでも悪魔を従えさせる事の出来る稀有な才能だとか」
「ええ、正しくはソロモン王を先祖に持ちその中でもかつてのソロモン王の持ち合わせた異能を強く発現した者をソロモンホルダー呼びます。もっとも、かの王の異能がどういった物なのかまでは分かりませんが…今までは海外で予選を行っていたのですが18柱まで集めた後の決勝戦を日本で行う事になっていまして」
「なんで日本なんだ?そういうのって普通あっちの丘とかでするのが普通なんじゃ?」
「文化遺産が壊れるのでダメだそうです、日本ならあちこちに強固な逢魔がありますし中でドンパチやっても早々何か起きる事もありませんからね…」
つまりソロモン王候補達は今日本に借りがある状態であり、それを生かしてはどうかと言っているのだろう。とはいえ日本政府もこの貸しをあまり使いたがらないのではないかとクロウは睨んでいる。
「そうしたいのは山々なのだがしばらく前から発生している通信障害のせいで中々連絡がつかない、今回これだけのメンバーが集まったのも奇跡と言って良いぐらいなのだ」
そういえば、とクロウが首をかしげた。
「この大規模な電波障害の原因は分かってないのか?最低でも通信機が無いと連携が取りづらいぞ?」
「これに関しては各通信会社に確認の連絡を取っているが目下究明中との事だ。一応現場に入る最には此方で臨時の通信施設を設け、通信機での通話はできるように取り計らう」
その回答に僅かな違和感を覚えるクロウ。だが、一旦の問題はクリアされたと思い保留にしておく。
「それなら問題ないか、色々と話しの腰を折ったな、すまない」
「いや、確認してもらった方が此方としてもありがい、実際に戦うのは此処に居るメンバーではなく君達のような前線メンバーだからな」
「…なら、一応言わせてもらうが今回の依頼でそれなりの死傷者が出る筈だ、その埋め合わせをどうするかも各組織で考えておいてくれ。信用度が五分五分程のタレコミで、アメリカが日本に対して何かしらの妨害工作を行ってくる可能性があると聞いている」
その言葉に黒服が動揺を見せたのをクロウは目ざとく見逃さなかった。
「その様子だと政府はだんまりを決め込むつもりだったらしい、有能なのは結構だが二枚舌も程々にしないと舌を抜かれるぞ?」
「作戦前に不和の種になるような発言は控えてもらいたいがな」
「作戦前に不和の種になるような厄介事を黙って、利益を独り占めしたいって自白してるようなもんだぞ?俺も疑い半分だったが、その回答は政府と少し距離を取るには十分な理由だ」
チリチリと会議の緊張感が高まるのを皮膚で感じるクロウ。眼の前の政府の傀儡を問い詰めた所で事態は進展しない事ぐらいはクロウも理解している。クロウの目的は事態の進展ではなく政府側と企業側の切り離し工作であり注意喚起、もしも政府やイザナギと事を構える事になった際に他の全組織が敵に回るのを避ける為の布石だ。
「……さて、俺はそろそろ待ち合わせがあるから失礼する。既に先程言った通りヒロフミを防衛に出し他のメンバーは殲滅に回るとさせてもらおう、何かあればPCメールで伝えてくれ」
「では、我々も失礼させて頂きます、準備がありますので」
クロウが席を立つと同時に輪転道の男が席を立った。本来ならばただそれだけの事なのだが、此処での離席は企業側に着くか…はたまた政府側に着くかという意味合いを持たせてしまう程の状況だ。
如何に政府と企業が繋がっているとは言えど、その関係は利益関係に他ならない。騙し騙されもあるだろう。だが、日本が他国の介入を見逃すとなれば話は変わって来る、最悪の状況を想定するならば日本政府+企業対他国ではなく企業対他国という形式になりかねないからだ。
それに此処で席を立たないとなればCLOSEと輪転道に敵対視される可能性がある。何方か一方ですら手に終えないというのに、2組織から睨まれては事実上の組織の壊滅すら意味してくるのだ、それを理解していない者はこの中には少なくとも居ない。
「ふむ、では私も失礼させて頂こう」
そう言って損得を計算した上で幾つかの大きな組織の顔役が立ち上がると、やや遅れて他の顔役達も立ち上がる。結果、席に残ったのは親政府派の3つの組織だけであった。
◆
扉を開けて先頭で扉を出るクロウ。そのまま帰ろうとしたのだが、後ろから来た輪転道の男に捕まった。貰った名刺には確か…。
「まぁまぁ、そう焦らずに」
「天野さん…でしたか」
そう、確か名前は
「面接以来でしたね、まさか起業なさるとは思ってもおりませんでしたよ…それに、メンバーも皆一流ばかりだ」
僅かに目を細めた男の目に思わず背筋に寒気が走ったクロウ。だがそれを表情に出す程未熟ではない。
「タレコミの話ですか?」
「いえ、それはコチラでもある程度掴んでおりました、確信という程では無いですが情報源が代表でしたので…其処にそちらで掴まれた情報を合わせればほぼ確定事項です」
「代表が!?」
輪転道の代表取締役。偽名こそ世間に知られているがある程度耳聡い者であればその男が輪転道初代代表取締役であると知っているだろう。同時に、怪異である事にも気づく。
「代表は少し変わった力がありましてね?ああ、何れ貴方にもお会いしたいと仰っていましたよ」
思った以上にこの天野という男はかなりの権限を持つようだ。一切正体不明の代表とメールや電話であれ言葉を交わす事が可能という事は、上から数えた方が格段に早いポストにいる事になる。
「その事を伝える為に?」
「いいえ、個人的な所でして…葛乃葉さんは元気かなぁと」
「はは、相変わらず自由気ままに奔放な感じですね、やれ新しい強化スーツが欲しいだのやれ誰と組みたくないだの…けど、それを差し置いても優秀だからありがたい存在ですがね」
「……え?」
「ん?何か?」
「い、いえ…我が社に居た時はもう少しこう、かっちりとした感じでしたので」
「ええ…?葛乃葉が?」
クロウにとっては最初からトリックスター的なイメージしかない為中々想像し辛いようで、真面目な葛乃葉があまり想像できなかった。
「ですが、楽しそうで何よりです。彼女、根が真面目なので部署でも少し浮いていて」
「今でも少し浮いていますが、楽しんではいるみたいですかね?リーリャとも中が良く色々と相談に乗ったり技術面でも話が合うみたいで」
「なんと、彼女に技術的な話でついていける人が居るとは驚きです、代表ぐらいしかマトモに技術面での話が出来なかったので…印刷技術に関しても此処数年で一番の発見でした。社長と3日程語り合った後に試作品のプリンターを持ってきましてね、まぁその時は度肝を抜かれましたよ。代表も彼女なら社長、あるいは代表取締役を任せても良いと楽しそうに仰っていましたが…」
其処まで言って黙り込む天野。恐らく天野も葛乃葉の行いの真意を知っていたのだろう。イザナギは確かに強いが彼等の動きは緩慢であり、CLOSEのような小回りが効かないのも皆理解はしている。
だが、僅かに懸念が残るのも確かなのだ。何故彼女が其処までの兇行に及ばねばならなかったのか?何故イザナギは動かなかったのか?何故政府が動かなかったのか?あるいは不幸の積み重なりなのかもしれないが、クロウは其処に前々から違和感を覚えていた。
「彼女の育ての親が数代前の青龍という話は聞いていました、彼女なりにイザナギや御社・国家や育ての親に対しての最後の奉公のつもりだったのかもしれないですね」
「最後…ですか、なるほど。なら今の彼女は全ての枷から開放され、自由であるという事なのでしょうね…」
そういって、満足そうに頷く天野。
「濡羽様、あの子をよろしくおねがいします…では、失礼」
深々と頭を下げ、踵を返し去っていく天野。だがその光景は話し合いを眺めて居た他の組織からは別の意味合いに映ったのだった。
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