幹部会議


「じゃあ今月の幹部報告会だ、アリア」


 会議室にズラリと並ぶCLOSEの幹部が面々、おそらくその道に通じる者が見れば背筋から凍りかねない絵面であり…一般人から見ても、高級な黒スーツに身を包んだ面々はどう見てもヤバイ連中にしか見えないだろう。


「お手元の資料をどうぞ、雑費や経費を差し引いて皆様に十分な給与をお渡しした上で概ね35億の純利益です、今月のMVPは社長&リーリャですね…大雑把な計算になりますが2人で4人分ぐらいの働きをしています」


 手元の資料に目を通して口笛を吹くアルフォンソ。


「凄いな、1人でやってる時じゃ考えられなかった額だ…サポートも万全でブッキングで揉める事もなくリーリャさんと葛の葉さんが事前偵察を出してくれるから異能の相性負けも無し!何よりメイドがいる最高の職場だな!!」


 若干興奮気味に語るアルフォンソ、事実として彼等の稼ぎは異常…と言うよりもどちらかと言えば解決速度が異常なのだ。


 アルフォンソの言う通り、まず式神と使役遺体が優秀であり数100万程度の雑魚なら偵察に出したそれだけで撃破出来てしまう。よしんば倒せない相手がいても式などで手負いにした上で、情報を抜いてから相性の良いメンバーをぶつける事が出来る。威力偵察を行える為に他の組織とは安全度が格段に違うと言えるだろう。


 先に言った通り、相性などを考慮し事前に標的の体力に削りを入れる事で戦闘負荷を軽度に抑える事により、億越え依頼を多ければ1日に3件は行う事で更なる効率化を図っている。ここまで来ると正直異様と言う他無い。


 無論、相手を削っていたとしても億超え依頼をそう安々と解決出来る筈もない。彼らの実力あっての物である。というよりも、他の組織ならばトップに立てる能力者ばかりが集まっているのだ、この結果は当然と言えば当然なのかもしれない。


「そんな上機嫌なアルフォンソに朗報だ、メイドの材料が最速で明後日には入ってくる予定になっている。その時に俺の腕も修理してもらえる予定だ」


「この会社ほんと最高」


 クロウの言葉により機嫌を良くしたらしいアルフォンソが大げさなリアクションで手を叩いた。


 そんなアルフォンソをまるで子供でも見守るかのように微笑む葛乃葉。


「現金やねぇ?ほな、ウチからも報告…遺体を運んどった飛行機が側の関税で止められたみたいやねぇ…」


 その言葉に穏やかな場の空気は一転、完全に凍った。


「まぁ、戦線布告のつもりなのかしら?」


 此処一月でリーリャの容赦の無さを理解しているが故に、顔も見えない相手の末路に思わず身震いをするクロウ。もっとも、悲惨なまでの行いは彼女の残虐性故ではなく、業界内で舐められないようにする為の処方であるのだが。


「もっと袖の下が欲しいんとちゃいます?まぁ、代わりに光り物で額に穴でも…」


 トントンと自らの額を小突いてクスクスと笑う葛乃葉、どうやら遠回しにクロウに判断を委ねているようだが…。


「放置で構わん、死体など長く置いていてもアチラも持て余すだけだ、常温放置で腐っていたら難癖つけて受け取り拒否すれば彼方も考えを改めるだろうさ」


 その判断に、一応の納得を見せるリーリャ。


「社長判断ならそれで構わないわ、遺体はこの前のでストックに余裕があるし、カルシウム鉱も足りているし…そのかわり…ね?」


 意味深に微笑むリーリャの視線はクロウに向けられている。が、別段ロマンチックな物でもなんでもない。


「また遺体加工の手伝いをしろと?アレ気が滅入るんだが…」


 延々と目玉をくり抜き、結合させた脳に手作業で100個程縫い付けた3時間を思い返しげっそりするクロウ。リーリャと共に黙々と行う作業は気が滅入るのであまりやりたくないが…他のメンバーがクロウに比べて不器用なのでクロウがその仕事を手伝う他無い状態に陥ったのだ。


 本物の手はなくとも異能でこさえた手を4本と強化服のエクステンドアーム4本で作業効率は非常に高く、同時にクロウの繊細さで倍率ドンである。観音像のような見た目になったクロウが通常の3倍以上のスピードで作業を行って行くのは中々見応えがあるのかもしれない。


「一番センスがあるのが社長だからね、多分その道でも食べて行けると思うわ」


「会社が潰れれば考えるさ、それで、他のメンバーの報告は?」


 その言葉に手を上げるリーリャと上原。クロウは2人の顔を見比べて優先度の高そうなリーリャの話を先に促した。


「ん、じゃぁとりあえずリーリャから」


「この前貰った社長の手首なのだけれど、解析を進めて行く内に副産物で異能側の抽出が出来る事が判明したわ」


「マジか!?」


 思わず立ち上がりそうになるクロウ、他ならぬ自らの異能の有用性を理解しているが故に取り出しが可能になればであっても、その能力を使用する事が出来る。つまり使い捨て可能な手駒を一山幾らで使えるようになるのだ。


 本人はそこまで非道な事は考えて居ないだろうが、異能能力の弱い連中を戦力として雇えるようになるぐらいは考えている。素人でも数を集めれば戦えるのは前の地獄で証明済み…やはり銃は強いのだ。


「とはいえ、取り出して使えるのは表層…社長が使っているは流石に使えないわ、無理やり使ったら死ぬ…かしら?あるいは手首がはじけ飛ぶとか?」


「ですが、銃器を作り出す事は出来る…と?」


 珍しくヒロフミが話しの先を促す。


「コンテナの出現までは再現出来たわ、多分クロウ側の生体データを取ればある程度クロウの使っている武装の種類も再現できる筈…だけど私の経験上から言うと再現できる銃器の種類はおそらく3種類が限界ね」


「その根拠は?」


「……機材側のキャパシティの問題が一番のネックかしら?私物のノートパソコン…一応一昔前のスパコンクラスの性能があるのだけれど、これでも制御に相当な負荷がかかってるの、それに手首1つにつきコンテナ2つが限界みたい」


 少しの沈黙の後、考えをまとめてから再び語りだすリーリャ。


「そうね、おそらく手首は水道の蛇口のような物で…本来の出力であるダムレベルの水を出しきれないのだと思うわ、逆に言えばクロウの遺体があれば全ての能力を引き出す事は…5%ぐらいの確率で可能かしら?」


 その言葉にかなりの不安を抱えながらも不敵に微笑んでみせるクロウ。


「誰かに知られたら、オルフェウスみたいにバラバラにされそうだな?」


「そうなったら私が守ってあげるわ、だって社長が寿命で死んだら労せず私の手中に収まるでしょう?それに…少なくとも社長に必死の殺し合い仕掛けるよりも、二人で蹴散らした方が絶対楽だもの」


 クスクスと笑うリーリャ、何処までが冗談で何処までが本気なのか少し掴めないクロウは苦笑いをしながら「まぁその時は頼りにするさ」と、曖昧な笑みを浮かべた。


「死の呪詛に関してはもう少し解析が必要ね、上手く行けば死神モドキが作れる筈だけど…そっちはあまり期待しないで」


「それと、ウチからもそれに関しての報告、多分ウチとリーリャちゃんで共同開発中の新型の式神にその銃器装備できそうな雰囲気やねぇ」


「ちなみに逢魔防壁が基準装備になるから、国取りぐらいなら簡単に出来ると思うわ」


 先程とは別の意味で場の空気が凍る。それは無限に量産可能な兵士の誕生を意味していた。おそらく…彼女の言う通り簡単に1つの国を侵略できる程のスペックは秘めている。


「なるほど、景気の良い話しだな…完成したら伝えてくれ、存分に使わせてもらうさ」


「あら、国取りはしまへんの?」


「しまへん、管理が面倒くさい…それにまだまだ国には役立ってもらわんとならんからな?イザナギも、つい先日青龍が新しい代になったばかりで能力が不明と来ているし…仮にそうなっても事を起こすのはまだまだ先だ」


 そう、少なくともクロウの代で国取りなどするつもりは無いのだ。今後存続していけば組織の方針としてソレがあり得るのかもしれないが…まだ、それは無いだろう。


「なるほど、安心しました」


 ニコリと微笑むヒロフミ。仮に国を取りに行くとでも言えば即座にクロウの首を切り落としかねなかったかもしれない。


「ウチとリーリャからは以上やね、最後は上原はんやけど…」


 その空気の中でも問題無く会話が進んで行く、命のやり取りがあまりにも自然になっている連中にとってこの程度でどうこう言うのは時間の無駄なのだろう。


「では、失礼しまして…まず、政府から赤紙が届いています」


「ああ…アレか」


 赤紙とは金を稼ぎすぎた組織に送られる赤い招待状であり、稼いだ金を適度に流してくださいという陳情書の意味も込められている。彼等が金をせき止めてしまうと、国家として成り立たなくなるので国営のリゾート等で相応の金を使用させる目的で送られる招待状なのだ。


 その招待状の住所に行くとこの世全ての楽があるとまで言われ、アンダーグラウンドなありとあらゆるサービスを受ける事が出来る。本来政界の大物や大企業の社長や代表取締役に送られる紙ではあるのだが…。


「一流として認められた、という事ですかな」


「ヒロフミは行った事あるのか?」


 反応を見せたヒロフミにクロウが問いかけると、首を横に振り否定するヒロフミ。


「いいえ、ただ…あまり良い噂は聞きませんね、子供の娼婦が居たり人相手に射撃練習が出来るとか、そんな良くない話しばかり聞きます」


 僅かに顔をしかめるクロウ。ヒロフミの言う通り彼にとってもあまり良い話しでは無かったらしい。


「国営だからな、無茶も通るんだろうさ…ま、普通のリゾートもあるらしいからそっちは社員旅行で行っても良いかもな…とりあえず各々適度に金はばら撒くように、国に睨まれるのも面倒だしな」


 それぞれあまりやる気の無い返答をすると、コホンと上原が咳払いをした。


「最後に、少し厄介な案件がありまして…」


 その場に居た全員が珍しい物を見るように上原を見た、彼女から厄介…などという言葉は今まで一度も聞いた事が無かったからだ。


「なんだ?」


「ウィッチの一団…ええと、"マギア・クラフトワークス"が我々組織に対して庇護を求めています」


 しん、と、会議室が静まり返る。


「マギア・クラフトワークス?知ってる奴は誰か居るか?」


 真っ先に切り出したのはクロウ。こういう時に真っ先に話しを切り出しておくのが上としての役目であると認識しているが故だろう。


「日本のマイナーな魔術協会の一つだったかな?確か模倣呪術なんかを専門でやってた筈だったような…」


 そう答えたのはアルフォンソ、彼は男魔女などと言われる"ウォーロック"の後天性異能を持っている。海外の地域では魔女の呼び名はウィッチで統一されているのだが、その中でも特別に"ウォーロック"と呼ばれる存在は特に畏怖されるのだ。


 ウォーロックはの剣術・体術・魔術を組み合わせた"三術理論"と呼ばれる戦闘技術を基礎とした、高い対人戦闘技能を習得した存在を指して呼ばれる。はるか昔魔女狩りの時代から教会と切った張ったをしてきた技術は、脈々と受け継がれ未だに洗練され


 常に新しい時代のウォーロックが最も強いとされ、近代兵器や新しい知識を貪欲に手に入れる事で第三次世界大戦にすら耐えうる戦士を作っている。言葉を選ばなければ殺しのプロであり、業界でもボディガードとして雇われる事も多い程である。


「おお、流石ウォーロック、詳しいな」


「一応本業だからね、しかし庇護って…一体何が?」


「はい、昨日の事なのですが…」


 上原の話をまとめると、昨日ビル2階の妖精だまりに気づいたマギアの連中が、何処かの大きな魔術組織が妖精を養殖していると思い助けを求めに来たらしい。


 上原は妖精越しに我々は魔術組織では無いと伝え一蹴したが、妖精達に懇願され今回の会議の議題に上げたのである。


「なんでも、組織内でクーデターが起きたらしくトップを殺害して組織を再編したとか…」


「で、頭が変わって方針も変わり、付いていくのが嫌になったと…相手側が此方にどの程度の利益をもたらしてくれるのかによるが、アルフォンソの意見を聞きたい」


「可愛い女の子なら助けて上げていいんじゃない?」


お前にイタリア人聞いた俺が悪かった、葛乃葉、わかるか?」


「渋いおじさまやったら助けてもええと思うけど…」


「……シリアスな所に急に天丼ネタされても反応し辛いんだが」


 普段見せないユーモアを急に見せられても困るとばかりにクロウが苦笑いすると、ヒロフミがコホンと咳払いをした。


「まぁ、一度あってみるのが良いでしょう、相手も魔女なら流石にアルフォンソの前で何かしようとは思わないでしょうし」


「ま、そうだな…上原、ウィッチに一度合って話し合うと伝えてくれ」


 その言葉に頷き、ポケットに入っていたダリアに小さく耳打ちすると、待ってましたとばかりにダリアは飛び立っていった。もしかすると以外と近場にいるのかもしれない。


「今日は依頼は受けず全員待機、酒と薬と遠出以外なら何やっててもいいぞ?ただし連絡したらちゃんと反応する事、アルフォンソとアリアの両名はウィッチとの話し合いに付き添ってくれ…それじゃぁ、他に無いか?無ければ社訓!」


「「「「「無理はしない、させない、生きてこそ、今日も明日もご安全に!」」」」」


「以上、一時解散、上原は連絡がつき次第教えてくれ、アリアとアルフォンソは装備の準備と点検を済ませておくように」


「「「了解」」」


 こうして、魔女との交渉が決まったのだった。

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