エピローグ 一旦の落ち着き
ちょっと忙しいので更新間延びしてます。すまない。
◆
空に上ったクロウの砲撃から1分弱、徐々に地獄から元の世界に戻りつつある地上では、目を含めた全ての身体機能を修復させたリーリャが頭を悩ませていた。と、言うのも肉体の修復こそ終わりつつあるが着る服が無いのだ。
肉体であればどうとでもなるが、服となれば中々に難しい物があるのだろう。流石にこの肉団子に入って戻るのは面倒臭いのだ。
と、言うのも行きはクロウの異能によって出した列車砲に砲弾として詰めてポーンと気軽に此方まで飛ばしてもらえたが、長門を出したクロウは著しい異能の出力異常を来す為に帰りは電車かタクシーによる移動となるだろう。
つまりこの肉団子は徒歩で返さなければならないのだが…最大時速30キロ程しか出ないので概ね1~2日程かかる事になる。それまでの間この肉団子の中に居座り続けるのは流石に面倒だ。
『アリア、少し相談があるのだけれど』
「なんでしょうか?」
『予備の服とか無いかしら、私服がズタズタになっちゃって今全裸なの』
「いえ、予備の服までは…クロウの分しか持ってきていませんが」
『……うーん、クロウの服を私が着ちゃうとクロウはあのスーツで帰らないといけなくなるわね』
ピチピチスーツで電車に乗っているクロウを想像して吹き出すのを堪えていると、アリアから至極真っ当な回答がでた。
「購入してきましょうか?」
『ええ、お願い出来るかしら』
アリアは小さく頷くと、軽やかに走り去っていく。その姿は洗練されており、急いでいるのに見苦しくないという矛盾した走りである。もっともアリア本人からすればその程度の事出来て当然なのだろうが。
『さて、と』
ひとまずこれで帰りの算段はついたとばかりに、再生の終わった身体を動かして行くリーリャ。どうやら肉体は先に失明した片眼含めて完璧に再生し終わったらしいが、体力と血液までは完璧には戻っていないらしく普段の白く透き通った肌が軽く青ざめた色になっている。
真っ白な人工血液を体に入れてはいる為、生命活動に支障は無いが…やはり本来の人体限界を超えた無茶をやらかしたからだろう。駄目とは頭で理解しながらもウトウトと船を漕ぐリーリャ。
…リーリャはその時僅かに夢幻を見た。
大きな瞳が空から全てを見下ろしているのを、大きな瞳が泣いているのを。
それが何かは分からないが、リーリャは何故だか少しだけ陽だまりのような暖かさを感じ、優しい気持ちになって…微笑みながら意識を落とすのだった。
◆
「殲滅完了、やはり周囲の小型逢魔を繋ぎ合わせて大型を維持していたらしい…我等が社員の慧眼には恐れ入るな」
自らの中に走る激痛を堪えながら、さも平然という表情で余裕を見せているクロウ。だが実際にはかなり無理をして痛みをこらえているだけである。本人からすればさっさと解除したいのだが、普段から押し込めている長門にこの空を感じさせてやりたいと思う気持ちが彼にもあった。
「終わりか、もう少し空を眺めたかったが…まぁ、良い、一応は堪能したでな」
んーと背伸びをする長門。彼女自信もクロウにかかっている負荷を重々承知しているのだ。そもそもの問題として、このクラスの異能を人間ごときが制御できる筈も無い。だからこそ、クロウは先導として力の方向を指し示しているだけに他ならない。
故に、細かい制御は完璧に長門任せなのだ。クロウが担当しているのはエンジンと船長としての判断の2つのみ。その2点に絞っているからこそ、これ程までの性能を発揮する事が出来るとも言えるだろう。
「すまないな、俺がもっと…」
「驕るな、先導め」
デコピンを一撃叩き込まれ脳震盪で軽く眩暈を起こすクロウ。だが長門は悪びれもなく足払いで追撃を行い、クロウを組み伏せるようにして覆い被さった。
「長門…」
「少しだけこうさせてくれ、どうせ会えるのは死地だけなのだから…」
そして、長門はその船体ごと徐々に薄くなっていく。長門側から出力供給をカットしたのだが、クロウは少し申し訳無さそうな表情を見せた。
長門が夢現のように消え去り、地面へと吸い込まれて行くクロウ。
ふと、空を見上げると、既に日は暮れており…周囲にはイザナギのバックアップ部隊が施した隠蔽の術特有の夕焼け色の光の壁が見えた。
「夕焼けも太陽も、夜には似合わないな」
黒いカラスは、大地に吸い込まれて行く。だが、漆黒が闇の中で燦めくように…クロウの姿は何処までも輝く黒として、その空の瞳に写り続けたのだった。
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