異能格差
「……朱雀」
「まぁ、想定内だ」
クロウ達の後から来た連中が陣地の構築を始めてかれこれ2分程だろうか?彼等にとっての鬼の第一波が来たわけだが…彼等はこれを退けるも陣地構築を断念するに至る。彼等も決して弱くはないのだ、ただすこしばかり連戦に慣れていないというだけで。
一団を見ていてクロウが気づいたのだが、どうやらあのチームは複数の企業が安全を確保する為に合同で依頼を受けたらしい。先に此方に話しかけて来た男の企業が彼等の中で一番大きな集団であり、形だけではあるが顔役であるらしい。
「しかし、あのペースでバカスカやってたら本当に後2回程しか持たんと思うんだが」
「陣地があれば休憩を挟みつつ戦えるから話しは別だったんだろう、リーダーも相応には有能に見えるし…まぁ、私から見ても戦力として使えなくは無いと思うレベルだ」
そもそも、怪異払いというのは複数人で安全を確保しながら無理の無いように行うのが基本となる。クロウ達や四聖のように単身で突っ込んで敵を全滅させて終了…などと言うのは基本的に気狂いの所業なのだ。
「ってか、なんで異能の出力を落とさないんだ?」
そうクロウは素朴な疑問を口にした。そもそもクロウの能力の本来の使い方は非常に燃費が悪い為に限界まで削っての銃という形なのだ。その気になれば銃など無くても目や口からビームを放ったりエルフの戦士ように輝いて周囲を焼き払ったりもできる。
「黒が絞りすぎなんだよ、異能を一切守りに回してないじゃないか」
「強化スーツ着込んで体術で受けたら済むからな」
「普通は死ぬからね、それ」
強化スーツは確かに防御性能は高いが、それでもまともに一撃を受ければ骨折や内蔵破裂ぐらいは起きる。クロウはそれを体術で上手く受け、ダメージを最小限に押さえているのだ。だが、この前の土蜘蛛の時のように速度が極端に速い相手には、足が地面から離れた僅かな行動不能時間を狙われる事もある為に、絶対とは言えない。
一応そういう切羽詰まった時に判断して、能力を守りに使うぐらいに節約しろとクロウは言いたいのだろうが、極限状態でそれを行えるなら多分一流として認識されていると思われる。
なにせ企業など、まともな戦闘訓練など受けていない一般人上がりの連中なのだ。命がけでそういったノウハウを学ぶ他無く、30歳までにはその殆どが命を落とすような業界で薄氷を歩むような立ち回りを求めるのは無理という物である。
「守備を落とせばその分攻勢に回せる、怪異なんざ皆体力無尽蔵なんだし攻めに回らずどうするって話しだと思うんだが?」
「先に殺せば死なないって理論かい?アンタは大丈夫だろうけど普通は早死にするね」
「失礼な、俺だってこの前土蜘蛛とやりあってちょっとヤバかったんだぞ」
心外だとばかりに少し拗ねるクロウ。
「だったら身体を大切にするんだね、組織の長なんだろ?」
「そう言われるとなんとも言えないが…婆さんには勝てないな」
「アンタの倍以上生きてるからね」
その青く長い髪を揺らしフフンと上機嫌に笑う朱雀。2人が悠長に会話を楽しんでいる中、ドプリと地面の中から再び鬼連中が出現した。だが…その姿は今までのたるんだ鬼の姿ではなく…。
「朱雀、アレ不味くないか?」
「奇遇だな、私もそう思った」
引き締まった鬼、それも先の鬼の数倍の身体の大きさである。その中にはさらに大きい鬼も混じっており、討滅が容易でない事を示しているようにも見えた。
「…ッチ、仕方ないか」
パチンと指を鳴らすクロウ、するとその場に居た全員の耳に小型のインカムが出現した。異能の応用である。
「はじめましての方ははじめまして、株式会社CLOSEの代表取締役社長のクロウだ。このままだとそっちが全滅しそうなんで助け舟を出すことにした、だが変わりに此方の指揮下に入って貰いたい。此方の指揮下に入る奴はインカムを外して+のスイッチを長押し、入らず自ら対処するという者は-ボタンを長押ししてくれ…尚、押さない場合は指揮下に入る意思無しと見なす、制限時間は20秒だ、悔いのない選択を」
未だ鬼との距離は遠いが先の鬼と纏う空気が違う事ぐらいは分かったのだろう。皆どうしたものかと相談しているが、ガダラと名乗った男とその部下の多くはクロウの言葉に従う事に決めたようだ。
「クロウ、何を?」
「聞いての通りだよ婆さん、見捨てるよりも助けて名を売るのさ」
先程の鬼達よりも進軍速度が非常に速い為に、おそらく背中を見せて逃げても間に合わないだろう。強化スーツでも着ていれば話しは別なのだろうが、そういった稼ぎのある連中であればそもそも苦戦もしない筈である。
「カバーしきれないぞ!?」
「安心しろ、婆さんに迷惑をかけるつもりは無い」
しばらく待つと、クロウの目前にバイザーが展開される。これはいくつかの情報を視覚的にまとめる事の出来る、新しい強化服付随の情報端末である。葛乃葉の改造でクロウの異能とのリンクを設定されている為に、一部の異能は視界のリンク等を行う事もできる優れものだ。
クロウの視界には+を押した者が赤、ソレ以外が黒で表記されており、クロウにとって赤が優先で救う対象である。
「……英断をありがとう、ガイドビーコンを出すから赤い円形の内側に入ってくれ、急がないと先に鬼が到達するから駆け足でな」
クロウは此処で従う判断を下した者以外をほぼ見捨てた。はじめから朱雀と2人なら切り抜けられる状況であり、彼等を救うのは言わば慈善事業に近いからだ。
クロウに従う事を選んだメンバーが表示されている赤の円内部に入った事を確認し、クロウは此方に来た時のように…その異能の本来の能力を行使する。
空にいくつもの光が煌めいて、その光が流星のように地面へと突き刺さる。光の正体は近未来的な丸みを帯びた武装コンテナであり、落下したコンテナ同士が光の帯を放ち、連結させ、五芒星の陣地を引いた。仮に空を飛べる者が見れば分かるのだが、それは五稜郭に習った陣地構築である。
「光の帯にふれるなよ、触れた部分が炭化するぞ」
その言葉と共にコンテナが展開していき、皆が光の帯に触れないように安全用の装甲板を展開させる。さらに展開したコンテナの中からクロウが普段使っている銃器類がズラリと出現した。
「リロードが出来ない撃ち切りタイプだ、撃ちきったらコンテナから新しいのを取り出せ、人に向けて撃てないようにロックがかかっているが遊びでも銃を人に向けるなよ?交戦距離に入ったら全ての銃のトリガーセーフティを解除する、其処からの発砲は任意だ、気にせず撃ちまくれ」
「クロウは普通に人に向けて撃ってるけどな」
と、わずかに茶化す朱雀。
「ハハッ、少なくとも味方には撃たないぞ?それに米軍でも仲間に向けて撃つなって注意文があるぐらいだし戦場での誤射率は近代でも30%以上だそうだ、以外と洒落にならない話しだ」
つまりクロウの異能はその30%以上を消滅させる画期的な能力であるという事でもある。
「というか、そもそも自分自身の異能を他人に貸し出すなんて出来ないんだけどね…」
「やらないの間違いだろう、その気になれば大概の事は出来る」
一先ず陣地構築を完了し、迎え撃つ状況を整えた一団だったが…此処に来て先に従わない判断をした連中が騒ぎ始めたのだ。元より陣地の中に入る必要の無いクロウと朱雀は外に待機していたが、判断を誤った連中が殺到し始めたのだ。
「オイ!そんな事が出来るなら最初から言えよ!!」
「なんでそいつ等だけ!」
等と言った物言いである。何言ってるんだコイツという表情を浮かべるクロウだったが、その表情が気に入らなかったのか掴みかかろうとしてきた騒ぐ男。
が、もちろんその程度の相手に遅れを取る筈もなく。腕を捻り上げ足払いで地面に叩きつける。クロウも流石に彼等に呆れたのか…。
「お前達は他人に自らの能力を語る阿呆なのか、潜在的敵対者であるならば情報を伏せるのは当然だろう?彼等は此方の指揮下に入るという選択をした、それは場合によっては生殺与奪を俺に預けたという意味でもある、ソレを安全だったからやっぱり今更どうのと言うのは程度が知れるぞ」
と、至極正論を言う。するとソレも気に入らないのか強かに打ち付けた尻をさすりながら。
「相談出来るような時間じゃなかっただろうが!」
などと、のたまい始めたのだ。
「お前は目の前の怪異に相談するから待って下さいと言うのか?なら、今から此方で相談しますからあと10分程待って下さいと言ってこい」
「出来るわけねぇだろ!?」
「ならそれが答えだろうが、あと数十秒で敵の一団が殺到する、逃げるにしろ戦うにしろ朱雀が敵を引き寄せている以上此処に居るのはマズイ事すらも分からないのか?」
既に鬼の一団が目前まで迫ってきている。鬼の波とクロウの顔を見比べた連中は忌々しそうに逃げ出した。もっとも、中途半端な判断を行い時間を無為にした彼等が生き残るとは到底思えないのだが。
「随分と優しいな」
「そうでもないさ」
「後、私が引き寄せているのは否定しないが術で引き寄せてるだけだからな?別に不幸で寄ってきてるとかでは無いからな?」
「誰も其処まで言って無いだろ…」
ハァとため息をついて銃の発射セーフティを外すクロウ。
「全ての銃のセーフティを外した、発砲自由、好きに撃ちまくれ」
その言葉が引き金となり、光り輝く五稜郭から光の弾丸の雨あられが殺到する。通常の弾丸であればさしたる火力ではないが、クロウの弾丸は強い破魔・破邪の効果があり、人間相手でも掠めた部分とその周囲が炭化する程の威力だ。
陣地に居る頭数だけは揃っている為に、大雑把に狙っているとは言えその弾幕は分厚く、さながら重機関銃からの掃射を彷彿とさせる。だが、流石に大型の鬼には多少効き目が悪いのか完全に倒し切るまでに若干の時間がかかっている事に気づくクロウ。
「力自慢の奴は中央の軽機関銃を使え、重量は重いが発砲の反動は無い、使えるはずだ」
空に再び光が煌めくと、五稜郭モドキの中心部分と外側に追加のウェポンコンテナが展開され、中から軽機関銃とガトリングが出現する。外側に落ちた4つのコンテナはガトリングを1門展開した状態で能力事態の自己判断で発砲を開始、内側のコンテナは4つの軽機関銃を展開したままに誰かが手にするのを待っている。
「俺がやる!」
先にガダラと名乗っていた男がそう叫ぶと、五稜郭中央に落ちた軽機関銃を2丁引っ張り出し、外に向けて掃射を行った。大型の鬼に数秒の射撃を与えると、あっという間に粉微塵になり、ガダラが薙ぎ払うように銃を動かすと周囲の鬼の上半身と下半身が泣き別れしていく。
「へぇ、あいつも強化スーツ着てるのか」
本物よりはやや軽いとは言っても其処は相応の重量がある、少なくとも鍛えた程度であそこまで見事な
クロウもバイクのガトリングを2つ取り外し、両手で掃射すると、一瞬で周囲の敵を蹴散らして見せる。今回は流石に遊びではなく真面目にやっているようだ。
「大型以外の強度は然程だな、問題はこれ以上の大物が出てきた場合だが…」
最低の状況を想定…とまでは言わないが、ある程度不利な状況で考えて動くクロウと朱雀。心配しすぎて困るという事は決して無いのだ。
「可能性は十分あるねぇ、時間経過と共にどんどん強いのが湧いて出てきそうだ」
「最悪切り札を使えばなんとかなるが、可能な限り使いたくない代物だからな」
「切り札?」
「先代白虎とリーリャの二人と殺し合った時に使った切り札だ、使うと最低半日頭痛と吐き気で寝込むからあんまり使いたく無い」
「残念ながら私はご存知無いね、イザナギじゃぁその切り札を知っている者は居ないんじゃないか?」
その言葉に怪訝な表情を見せるクロウ。
「いや、知っている筈だぞ?その時の白虎には二人の付き人が居た筈だ、若い男女が一名づつ、名前は知らないが戦いを見届けていた」
「だとしたら誰かが情報を意図的に止めたってのかい?」
「当時の随伴者の履歴とか見れないのか?」
「いや、当時の白虎は単独行動中の筈だ、付き人など…」
ううんと首をかしげる朱雀、どうやら本当に居ないらしい。イザナギとしても一応は白虎を倒した敵対者の動向や能力は調べたい筈だろうし、その上で朱雀が知らないというのは確かに違和感があるだろう。
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