エピローグ 不穏な空気


「ついにこの日が来たか…」


 目を閉じ、感無量といった表情でそのの部屋を眺めるクロウ。土蜘蛛の一件依頼、クロウを直接指定した依頼は増加し、クロウはそれらを危なげなく処理していった。


 通常であれば複数人で部隊を組んで討伐すべき億クラスの怪異をほぼ一人で撃破し、時には1日で3件の逢魔を潰す事もある事から複数の企業からしつこく専属にならないかという問い合わせがあった程である。


 基本的に怪異払いといった職業は平均寿命が短く、30を越えて尚現役として生きて前線で活動している者は文字通り一握り、さらに億クラスを危なげなく撃破できるとなればそれこそイザナギかクロウぐらいの物であろう。


「しかし、面接する側も結構緊張するよな」


 そう言いながら、自らの服装を何度もチェックするクロウ。


「気負いすぎかと、堂々としてください、マスター」


「そうかな?そうかも…?」


 晴れてとしての表の顔を持つ"CROWS"という会社を設立し、今日は初めての面接なのだ。書類選考時点でかなりアリアとクロウで揉めたが、なんとか2人妥協点のすり合わせを行い募集した所、5件程の応募があった。


 5人と数は少ないので書類選考も無しの履歴書持ち込み面接である、小規模かつヤクザな企業でのみ許される事だろう。


「というかさ」


「なんでしょうか?」


「募集要項これで本当に大丈夫だったのか?一応実働部隊の幹部メンバー集めだからこのぐらい書いとかなきゃダメかと思ったんだけど」


 犯罪歴不問!億超え討伐者優遇!組織的バックアップ充実、メイン依頼は億超えなので歩合制でガッツリ稼げる!出勤より休みの方が多いアットホームな職場です。と書かれた募集要項をネットワーク上の怪異討伐専門サイトの求人部門に投稿したのだが、正直これで本当に良かったのかと首をかしげるクロウ。


 ぱっと見完璧にブラックのそれである。クロウだけに。


「5件来たのですからこれで良かったのでしょう、それよりも後30分で時間なので私は下で待っていますね」


「ああ、頼んだ」


 そう言いながら席を立つアリアを見送り、緊張を紛らわす為にふぅとため息を漏らすクロウ。


 3時間後、彼が頭を抱える事になるなど、神や仏や閻魔の類い……でなくとも分かる事なのだが、この時の彼にはまだ想像がつかないのであった。

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