新装開店!悪の秘密結社!

なるべくしてこうなった


「どうしてこうなった!」


 四人の面接を終えたクロウは頭を抱えて、机に倒れ込む。彼の望む通りの人材は来た。確かに来たのだが…全て犯罪者だった。いや、それは別に良い、犯罪歴不問と書いたのはクロウである。


 だがまさか、ばかりが集まるとは誰が夢にまでみただろうか。では、その輝かしき指名手配者達の面接記録を振り返って見ようと思う。


 時間は巻き戻る事2時間50分、最初の面接者は少し早目に到着したのだった。



 コンコン、と、小刻み良く響くノックの音に胸を高鳴らせるクロウ。時刻はまだ速いがむしろ準備が十分に整っている側としては速いほどありがたい。


「どうぞ」


「失礼します」


 そうして、部屋に入ってきたのは可憐な少女であった。アルビノと見紛う程に透き通った白い肌、真っ白いワンピースに麦わら帽子、少しウェーブがかったセミロングに巨大なカバンを持った…。


「お久しぶりですクロウさん、アルヴィナです、どうぞリーリャと呼んで下さい」


「あっ戦場で…」


 戦場で合った人だ!そう言いそうになった言葉を飲み込み、少し思い出す…確かめの前の少女は…。


「えっ、アルヴィナ?」


「はい、アルヴィナです、ふふっ…来ちゃいました」


 無垢な笑顔を見せるアルヴィナ、通称"ロシアの赤い雪"。億超え怪異討伐の為に2000人程の無辜の民を殺し、利用した……国際指名手配で12億の懸賞金がかかっている。


 かつて海外でクロウと交戦し互いに痛み分けで終わっており、広域殲滅と呪術が特異なキュートガールである。こんなキュートがあってたまるかとはクロウの談。


「えっ…あっ、はい、どうも遠路はるばる…とりあえず、自己アピールからどうぞ…」


「はい、生まれはロシアで5年ほど過ごして母が父親を殺したのを機会にフランスに留学しました、フランスで8年程ネクロマンサーとしての下積みを詰んでからフリーランスとして活動、細かい依頼は割愛して…億超え依頼は4件程と数こそ少ないですが全て私一人で討伐しています、詳細はこちらに纏めました」


「あっ、どうも…」


 クォデネンツ討伐、バーバ・ヤーガ討伐、ヴァヌシュカ討伐(手持ちじゃ足りなかったからちょっと殺して兵士を増やしました♡)、クスダ・シラ討伐(討伐できたけれど被害が大きくて怒られました…(T_T))。


 等と可愛らしい文字で書かれている、あっちょっと殺す♡みたいなノリで2000人以上殺したのを"ちょっと"と表現する辺り完璧にアレである、アレ印のアレである。しかもご丁寧に日本の顔文字まで使っているのだ、確実にアレアレのアレだろう。


「あの、ヴァヌシュカ討伐の件なんですが…」


「あっ、はい!問題なく討伐できましたよ?」


「いえ、被害的には…」


「私が失敗したらその何十倍もの人が死ぬことになるので、コラテラル・ダメージです、安心して下さい」


 何をどう安心すれば良いのだろうか、クロウは頭の中で5回ぐらい自らに問いかけて答えが出なかったのでやがて考えるのをやめた。そもそもヴァヌシュカもクスダ・シラも悪魔と呼ばれる最上級の怪異なので確かに多少の犠牲はやむを得ない所もあるのは確かだろう。

 

 むしろよく2000程度の被害に済ませたと褒められるべきだ……自らの手で積極的に市民を殺して利用していなければ…だが。その辺りはシビアな考えを持つ彼女と一般人や政府との違いと言える。


「え、えーっと、とりあえず経歴は分かりました、ええ…それで志望動機ですが…」


「後ろ盾になってくれる組織がほしかったので応募しました、それにクロウさんと面識もあり、募集要項にピッタリ当てはまっていましたし」


「アッハイ、アリアー!アリアー!ちょっと来てー!!」


 と、此処でついにクロウがギブアップ、アリアを呼んで相談タイムである。その後、再び面接が再開されたが犯罪歴がヤバイ事以外は特に問題なかったので、とりあえず合否通知は後日送付という形になった。



 つづいて2件目、既に上がったハードルを飛び越える者は流石に来ないだろうとタカをくくっていたクロウ。確かに越えはしなかったがボディーブローを与える2番手が登場した。


「アルフォンソだ、知っているかもしれんがな」


「ああ、国際指名手配の」


 線の細い優男風のイタリア人、アルフォンソ。国際指名手配で6億5千万程の賞金がかけられており、罪状は同業者との依頼ブッキングがあった際に皆殺しにした事らしい。先のキュートガールを見るに最早万引き程度の軽犯罪に見えるのだから凄い物だ。


「年齢は25歳、見ての通りだな…言語は英語、日本、母国語、中国も少し喋れる…億超え依頼は2件、1件はチームによる討伐…まぁ、当時は若かったからな…死者多数でようやくと言った所だ。もう1件はなんとか1人で潰せたが同業者のせいでケチがついた、お陰で最近は食いっぱぐれる始末さ…ガ○ダムを見学しに来るついでに日本語を覚えてね?どうせなら此処で心機一転しようかと思って応募した訳だ」


 肩を竦めてニヒルに笑うイケメン、罪状的にはまぁかろうじてグレーだがそれでも国際指名手配されている事には変わりない。一発目が腰の入ったストレートパンチだっただけに若干見劣りするが、それでもヤベー奴である。


「は、はぁ…」


「それでなんだが…下のメイドは君の良い人かい?」


「あっ、彼女怪異なので」


「……ホント?日本はメイドの妖怪まで出るの?」


「いえ、付喪神って言う100年大事にされた物に付く妖怪を人工的に改造して作った人造怪異ですね」


「ちなみに、彼女みたいなのを他にも作れるのか?」


 かなり真剣な面持ちで問いかけてくるアルフォンソに圧され、小さく頷くクロウ。


「材料さえあれば、まぁ…なんとか」


「素晴らしい!ぜひ私を雇ってほしい!そしてメイドを量産しよう!!そうすれば世界はきっと平和になる!!そうに違いない!!」


「え、ああ…はい」


 クロウが思っていた事とは別の意味でヤベー奴だった。だが、能力的にも犯罪歴的…にも一応はセーフラインなので個人的には即採用したかったが一応保留としておく事にする辺りは大人な対応なのかもしれない。



 3件目、既に前2件でヤバイ奴二人を踏破している為にある程度の覚悟は出来ている。流石に前二人以上のヤバイ奴は来ないだろうと一抹の希望をいだきながらも、まぁこの流れだと来るだろうなと諦めの境地に達している。


 そうしてコンコン、と、絶望の音が響いた。


「……どうぞ」


「失礼します」


 其処にはおかっぱ頭に桜の髪飾り、若くありながら妖艶な顔立ち、そして和服調に改造された軍用強化スーツを着込んだ…裏の世界であれば誰もが知る女が其処に居た。


「葛乃葉楓!?なんでアンタがこんな所に!??!?!?」


 思わず叫ぶクロウ、目の前の女はによって国際指名手配中の極悪人。イザナギが封印していた三鬼の封印を解いた外道である。


 三鬼とは即ち、温羅オンラ酒呑童子シュテンドウジ両面宿儺リョウメンスクナである。ちなみに桃太郎伝説で桃太郎がカチコミをかけるこそが温羅であり、酒呑童子や両面宿儺では大幅に見劣りする文字通りの神なのだ。


 さらに言うと、そんな神に大した苦戦もせず犬雉猿のお供だけで一方的に仕留めてみせた桃太郎は文句なしの日の本最強である。


 その血筋は葛乃葉…即ち安倍晴明の母である葛乃葉狐の直系であり、稀代の巫女としての才と異能を持って生まれた彼女。元は輪転道職員であり式の大量印刷技術の大幅な改良化及びの実働部隊の"黒鉄"の切り札としての活躍で次期代表取締役にまで推薦された逸材だ。


「はい、葛乃葉楓と申します、本日はよろしゅうおたのもうします」


 ペコリと恭しく頭を下げる楓。だがクロウは口をパクパクと動かすばかりで何をすれば良いのかと、完全にフリーズしてしまう。


「フフ、そないかとぉならんと、ほんまはウチが緊張する側なんよ?」


「一体全体何をしに来た、俺とアンタの接点は無い筈だが」


「あら、そないないけず言わんと…かなん人やわぁ、ウチがどんなけクロウはんの事探しとったか…」


 クスクスとからかうように笑いながら、何処かから取り出したかなり大型のトランクケースを五つ机の上に並べる楓。パチンと指を鳴らすと全てのケースが開き中身が明らかになった。


「まずは持参金50億、お納めを」


 ケースにビッチリと詰まった1万円札、流石にクロウであっても此処までの金額を見た事は無いが、かといって金で釣られるような男でもない。


「……何が目的だ」


「ふふ、なんでっしゃろね?」


「誤魔化すな」


 グっと強く殺気を込めてにらみつけるクロウ。一触即発の空気の中、わずかに楓の影が揺らめいた。


『お嬢、戯れが過ぎる』


「……あら、前鬼にまで怒られてもたなぁ」


『仮に眼の前の男子が牙を向けば、我々とてただでは済むまい』


てんご冗談過ぎたみたいやね、かんにんしておくれやす」


『影より失礼する…我が名は酒呑童子』


 酒呑童子、かつて楓が封印を解いた三鬼の内の一鬼であり、源頼光によって討伐された鬼である。温羅と両面宿儺こそ再封印された物の唯一酒呑童子のみは未だ葛乃葉の手の内にある。


「風の噂に式として使っていると聞いたが、まさか本当だったとはな…」


『そもそも、楓のお嬢が我等を開放した事にも意味がある、そしてそれは今増え続けているにも関係のある事だ…そして男子、お主にも関係の無い話では無い』


「何…?」


 以外な話の繋がりに驚くクロウ、もっとも酒呑童子が嘘を付いていないとも限らないのだが。しかし、鬼は基本的に嘘をつかず嘘を嫌う。それは彼等が絶対的な力の信奉者であり、嘘をつかれたとて力でねじ伏せ、同時に自らに嘘をつかず力でやりたい事をする…それこそが彼等にとっての美徳であるという前提があるからだ。


『魔界という言葉に聞き覚えは?』


「確か…土蜘蛛を倒した時に言っていたな」


『やはり…というべきか、土蜘蛛は贄よ、この日の本を魔界に変える為の柱となったのだ、そして我等三鬼もその贄としての候補であった』


「待て、話が大きく成ってきた…つまりアレか?葛乃葉は過去にそれを見越して三鬼の警戒をより厳重な物にしようとして開放したと?」


『左様…理解が早くて助かる、事実三鬼が同じタイミングで開放されたならば本土の六割が焦土となってもなんら可笑しくはなかろう、自作自演…と言ったか?自らが事を起こす事をお嬢が伝手を使いイザナギの青龍、朱雀へと情報を流した…そして、恐らく日の本を魔界に変えようとしているであろう者が使おうとしていた手法を持って、我等三鬼を被害が少なくなるように順序良く解き放ったのだ』


 酒呑童子の言葉は確かに信憑性が高い、口頭で部外者が何を言ってもイザナギは聞き入れないが、事が起きたのならば必死に対策を練るだろう。それに酒呑童子が奪われたというのもイザナギに取って隠蔽出来ない証拠となる。


「三鬼の件はまぁ、筋が通っているから一応納得しよう、それで…どうして俺の所に来たのだ?」


『これから起きる事に対する備えが必要だ、金はその為に集めていたが…見ての通りお嬢には力があれど人望は無い』


「ちょ…!?酒呑!?えらい辛辣ちゃう!?」


 自らの式神から飛んだ言葉のナイフに激しい動揺を見せる葛乃葉、だが式神が言うからには事実なのだろう。


『事実だ、そのひねくれた性格を直せお嬢……話を戻すが最早お嬢1人で動いてどうこうなる事態を経過している。力がある組織が必要なのだ、イザナギは大きく肥え太り過ぎ人同士の利益の為に即座に動けない、他の組織など弱小も良い所…だが、は違う』


 僅かな沈黙の後、酒呑童子は再び言葉を続ける。


『最悪男子とお嬢だけであっても最悪の事態は回避できるだろう、下の怪異も加われば更に事態が良い方向へ進み…先に居た"ネクロマンサー"と"剣士"も居れば…おそらくはある程度の余裕も出来る筈だ』


「余裕?」


『力なき他者を救うという余裕だ』


 息を詰まらせるクロウ、最悪の事態を回避というのは恐らくという事なのであろう。


「……其処までに深刻な事態なのか?」


『左様、イザナギには何度も警告をしているが梨の礫、可能であれば輪転道と再び縁を結び互いに協力体制を築きたいが…難しい話だろうな』


 故に、と言葉を続ける酒呑童子。


『力を持ち、汚れる事を恐れず、自らの意志を貫く強固な精神を持つ船頭が必要だ、男子よ…どうか日の本を救ってくれまいか』


 その鬼の縋るような言葉にクロウは目を瞑り思考する。


 そして、十分な沈黙の後こう口にした。


「合否の通知は後日送付します」



 既に疲労困憊気味であるクロウにさらなる追撃が来る。四人目も先とは別の意味で大物だった。


「ああ、クロウさん、お噂はかねがね」


 礼儀正しく一礼する50代そこらのパっとしない如何にもサラリーマン風と言ったオジサン、だが…クロウの表情は硬い。


「異能狩り…風切り翁……」


「あはは…お恥ずかしい、最近ではそのように呼ばれているようですね、本名は郷田博文…どうぞヒロフミとお呼び下さい」


 。それが目の前のサラリーマンである。彼事態は異能を持っていないただの人間だが、彼は異能持ちをいとも容易く殺して見せる。もちろん怪異相手の立ち回りもなんのその、戦い方としてはクロウが参考にしている面も非常に多い。


「あ、ああ…貴方程の人が何故こんな所に?」


「時代の流れを感じました、理由などそれで十分です。この組織は必ず大きくなり…そして何かを残す、私はその何かを残す側の者になりたいのですよ。今までの人生殺してばかりで何ひとつ産み落とす事が無かった、だからこそ最後の一仕事に何かをね」


 しみじみと語るヒロフミになんと言葉を返して良いか悩むクロウ、ちなみに彼も国際指名手配されてるが恐らく誰も手を出さないだろう。能力無しで未だ一線を張っている50歳など普通の神経をしていれば怖すぎてやり合おうとは思えない。 


 30台でベテランとされる業界の中、肉体の全盛期をとうに過ぎ去った50過ぎて尚現役、海千山千の怪物じみた異能持ち相手も容易く仕留めるなど悪夢の具現以外の何者でも無い。


「もちろん、貴方が私を入れてくれるとおっしゃるのでしたら、という前提ですがね」


「……少し、相談させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「もちろんですとも、即決などバカのする事だ…貴方もまだまだ現役でいるつもりなら、情報をしっかりと整理してそれを如何に武器にするかを考えてくださいね?」



 そうして、最初に至る。突っ伏したクロウはコンコンと響くノックの音に無理やり上半身を起こし、そうして力なく一言呟いた。


「どうぞ」


「失礼します」


 其処には、見知った顔があった。


「以前はお世話になりまして…上原夏美です、事務方の募集があったので…」


「採用!!!」


「えっ」


 こうして、株式会社CLOSEの最初の社員が決定するのだった。

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