第43話 遥遠
異性に囲まれる生活が幸福だと実感したのは、修学旅行で買ったグラスが壊れた中2の秋以来だ。
朝の起き抜けから心の書物が弾み、新たな死の自動書記が発生して今日は腐った理屈を三枚も食べた。
スリッパの履き心地は最高。廊下も格子も人々もすべて奇態な殺戮の教育に飛び交い眠れぬ夜に燦然と輝いている。
天気と念仏は申し分なし。プリズムを通して光の反射が瞳孔に吸い集まり、私はこれより骸骨がぐるぐる回る白銀の歯牙に身を投げ出す場に向かうところ。
忠義一途の忍んだ赤い心臓は絶望した石炭の果てしない黒煙の果樹園に運ばれ無邪気なため息をつく。歩行音がタップダンスを広げ、黙視する浮浪の胎児が冷めた祝福を送ってくれる。
朝の悲鳴とすすり泣く声の小唄が聞こえ、偽りの血と道化の獣が廃屋の中で残忍な手品の旋風に酸鼻を極めた歓喜を覚える。ああ今日も世界はとっても素晴らしい。
粉末状で散り散りだった思考は眩しい瑠璃に変化して活発になり、消えゆく細胞を数えることさえ適わなかった氷河期の恐竜に同情したくなってきた。
図太い過去はもう皮脂で描いた深淵の絵画と同じ。天使が忍び笑う陶酔の喜劇を破って忌避の光のシャワーに昇っていく。
自慢の胸を齧る二十日鼠は雲を霞と逃げ去った。深い破局の雨の十字路に立つ鬼子も穴倉に帰って私を苦しめる怪物はもういない。
無慈悲な初冬の囀りを聞きながら肝脳塗血の酸素をまったりと味わう。建物の造形美に脳が痺れて金属や一塵の埃にさえ値札があってすべてに価値がある。
革命の本日。下がった珊瑚の首飾り。これから虚名の苺の凶牙に身をさらして心を育てよう。残骸で築いた辞書のいらないページは破り捨てよう。緊急手術の花吹雪。長柄の大鎌を受けて懐胎した仄暗い息女は宇宙に放り出され私は自由に浮世を歩きまわる。
毅然としたリズムをとらえて愚挙の詩集を編もう。眠りをやぶる世界の終わりまで微弱な友と臓腑のパイを焼いて永久の平安を祈りたい。
聖像の滅びゆく純潔に暴虐を加え、幻めいた悪夢の血の階段を昇って微風が顔に化粧する。臆病なしろがねの洋燈が新たな私と天を仰ぐ。非命に倒れた馬に引きづられ地獄を旅するツアーに出かけたい。そんな夜明けの続く物語の出発点がどこにあるのかわからない。
不運な宿命とフィストバンプを交わす日々に手を振って、隔離の生活を終えた高潔な蜘蛛と、水晶球の湯殿につきまとう死体の音楽会とはもうおさらばだ。
日向の匂いに錯乱した死神が気息奄々のままに酷薄な幌馬車に乗せられ酒で描いた壁画に染み込んで行く。
極彩色の華の中、鐘楼を破壊して逃げ惑う小人たちの渦中を通って、これより彼の他界した笑顔と出逢える可能性に飛び込む私の磨かれし魂が紡ぐ一條の物語。
そして十三階段の上で足が浮く。首を固めるロープに目玉と舌が挨拶した。こんな時はやっぱり愛想笑い……。
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