第22話 神からの条件
ある森の奥に三匹の子豚が住んでいました。
丸木の小屋で暮らしている三匹は実は元人間です。正確に言うならば、彼らは世界中の誰もが知っているような有名な科学者でした。
各国で暮らしていた三人のもとにある日、神様がお見えになり、それぞれを子豚の姿に変え、この森に集めて生活をさせたのです。
どうしてこんな罰を与えることになったのか。
それは、三人ともいろいろな発明をして人々の暮らしに貢献してきましたが、反面その発明のせいで不幸になってしまう人がいたり、地球のかけがえのない環境を破壊する原因となったからです。
軍事などの分野にも関わっていたため、たくさんの人が救われ喜ぶこともあれば、逆にその兵器の脅威により、大勢の老若男女の血が流れ、無残に死んでしまうこともありました。
もちろんそんな理由で豚にされてしまった三匹は納得などしません。
ひっそりとした薄暗いじめじめした森の奥で、日々不服をこぼし鬱々としながら生きていました。
彼らが突如として行方不明になったことは国を問わず、世間に大々的なかたちで報じられました。
世界中のあらゆる機関が総力をもって連日捜索をしましたが、当然発見されるには至りませんでした。
まさかこんなひと気のない森の中で子豚の姿に変えられているなんて、いったい誰が想像できたでしょう。
神様は彼らを豚にしたあと、こんな決まり事を伝えました。
「お前たちがここで何をして暮らそうが勝手だが、この小屋が見えなくなるほど遠くへ行くことは許さん。それともう一つ、三匹が身を寄せて身体を触れ合うことも禁じる。もしも約束事を破った場合はお前たちのみならず、その血縁者全員の命はなくなると思え。分かったか。これらのことをよく肝に銘じておくように」
神様はその条件を厳しい口調で伝えると、お姿をお消しになりました。
三匹は憤懣やるかたない気持ちで、自分たちはこれから一生こんな無様な姿で息をしなければいけないのかと、嘆き苦しみました。
もういっそ死んでしまおうかと考える者もいましたが、条件の中には自害をすることも禁止されています。
三匹が身をくっつけあって共に滅ぶこともできます。
しかし故郷にいる大切な親やきょうだいや奥さんや子供の命まで巻き込むわけにはいきません。
彼らはやはり毎日を何一つ良いことなく、おんおん泣き明かしたり、ブヒブヒ醜くわめいたり、自分たちよりも小さいバッタやコオロギなどをたくさん虐殺することでストレスのガス抜きをして、心の平衡を保とうとしていたのです。
小屋の周りには連日、食い散らかされた虫や小動物の惨殺死体の破片が、異臭を放ってそこここに転がっていました。
けれども狼など自分たちよりも強い猛獣が近くへやって来たときは、皆が皆、戸締りをした小屋に篭って息を潜めてやり過ごしました。
そんな惨めな暮らしが一年ほど続いた頃です。
すっかり心が荒んで森の小さな暴徒と化していた三匹のもとへ、神様が再びお姿をあらわしました。
「お前たちよく聞け。このまま三匹を命朽ち果てるまでその姿にしておこうと思ったが、お前たちがあまりにも哀れだ。よってそれぞれを人間の姿に戻してやろう」
降ってわいた幸運に、彼らは殺したリスを解体するのを中断して話に聞き入ります。
歯でくわえた木の枝を使って、生首から目玉をほじくっていた一匹が、歓喜の鳴き声をあげました。
「ただし、もう発明や研究は一切やらないこと。今後は凡人となり人目を避けて大人しく暮らせ。それと今までの経緯は誰一人として口外してはならん。どうだ。これらの約束事を守れるか」
子豚たちはもちろん二つ返事で承諾しました。
こんな豚のまま、ろくな楽しみもない薄暗い森の中で暮らすなんて、死ぬよりもつらいこと、まっぴら御免だったからです。
「それでは人間に戻してやろう。今からその光をあててやるから、三匹とも我の足元へ来るがよい」
涙をこぼして大喜びしていた彼らは、我を忘れたようにして神様の命じ通りに駆け寄りました。
そして嬉しさのあまり互いに身を寄せ合い、手を取り合うようにして抱き合ったのです。
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