僕と天音が付き合うまで その14 (女子会その2)
家を出て最寄りの阿佐ヶ谷駅まで二人並んで歩く、僕は誰か知り合いがいないか気が気じゃないと辺りを見回しながら不審者の様に歩いていた。
「大丈夫だよー、誰も分からないって~~」
「いや……、そんな事言っても万が一ってあるじゃん」
「まあ、朋ちゃん人気者だもんね~~」
すっかり女友達にされてしまった……、でも楽しそうに笑う天音を見ると、僕の苦労も無駄じゃないって思う、兄妹になりたくてなったわけじゃない、でもせっかくなったんだから、仲良く楽しく暮らしたい、最近その思いが叶ってきたような気がして、僕もなんだか最近天音に関わる事が楽しくなってきた、毒舌も含めてね。
「僕ってそんな人気あるの?」
少なくともクラスでは若干異端児扱いされていて好奇な目でみられている認識なんだけど……
告白はそれほど多くないが入学以来何度かされ、前に縁が言っていた、僕と付き合う事がステータスなんて思われているせいか、美人な子や可愛い子など自分に自信があるような人達が僕の所に来る……そして僕はそれを全て拒否してきた。
当然なんだこいつ? ってなるよね、僕もそう思う……でも……いくら可愛いから、美人だからって、僕が好きになる理由にはならない、そして好きでもない子と付き合うなんて事したくない。
僕の理想はリン……顔も知らないリンが好き……
「うちのクラスで私に話しかけて来る子は、ほとんど朋ちゃん目当てだよ」
「そうなの?」
「うん、朋ちゃんに会わせろ、紹介しろってうるさいの」
「へーー」
「興味ある?」
「ない」
「即答!? 可愛い子とかもいるよ」
「うーーん、僕は顔で好きにはならないからね」
「さすが美人は言うことが違いますね~~」
「だーーかーーらーー、僕は男だってば~~」
「あははははははは」
そのまま何事も無く駅に着く、土曜日の早朝、阿佐ヶ谷駅は、いつものラッシュとは程遠い程の人の量、改札を通りエスカレーターで上がりホームに二人で並ぶ。
ホームには学校や部活に行く学生がチラチラいるせいか学生服でも全然浮かない、そして今のところ誰も僕の女装には気がついていない……と思う。
「お買い物したいんだけど、まだ早いから~お店とか開いてないんだよね~、とりあえず駅に着いたら喫茶店でモーニングでも食べよう」
「天音だいぶ食欲出てきたね、良かったよ」
「うん、朋ちゃんのおかげだよ、料理上手だよね~朋ちゃん、いいお嫁さんにななれるよ」
「だーーーかーーーらーーー」
「あはは、でも、本当に感謝してる……体重も戻ってきたの……、でも……胸が戻らない……どうすれば戻るんだろう?」
「な、なんの話し?」
「え? だから体重戻ってきたけど、おっぱいが戻らないって、朋ちゃんどうやったらおっぱい元に戻るか知ってる?」
「!! あのさ何度も言うけど……僕は…………」
いいかけた所で電車がホームに走り込んで来る、ごーーーーっというその音で僕の言葉は書き消された。
もういいやと諦め二人で席に座る…………近い……天音が僕の横にピタリとくっつくように座る、座席の端なので逃げられない……え、なんかこの距離おかしくない?
「なんか、楽しい~~誰かと出かけるってこんなに楽しかったんだ~~」
ウキウキとしている天音、でも僕は今ちょっと複雑な気分……女の子とこんな密着するの初めてなんだけど……その相手が義理とはいえ妹って……
「各駅だけどすぐ着くよね、なんか楽しくて遠くに行きたくなっちゃう、ねえ朋ちゃん、もっと田舎に行っちゃう?」
「田舎って?」
「山奥の温泉とか」
「どこだよ!」
「一緒に温泉とか入ったら楽しいだろうね~~~」
「あの、何度も言ってるけど、僕は男だからね」
この距離、この会話、なんかやばくない? 完全に僕の事を女友達って認識に……このデートって逆効果なんじゃ?
「あ、そうか、朋ちゃん女湯入れないんだ、じゃあ混浴なら」
「いや、そういう問題じゃないだろ、天音は平気なのかよ」
「え? 何が?」
あれ? 男って認識はあるんだ……でも……うーーんなんか……わかってるのか、わかっていないのか……
キョトンとした顔の天音を見る、そして一緒に温泉に入った姿を想像する…………!!!
「朋ちゃん顔真っ赤だよ? 温泉に入ったみたい、想像しちゃった?」
「…………」
想像したよ……温泉に入る天音を……
そんな会話をしているうちに、電車は吉祥寺駅に到着、天音はスキップでも踏むかのように電車を降りる、僕はなんだか既に疲れてきた……
まだほとんどの店のシャッターが降りている商店街の中で、1件某有名喫茶店が開いていた。
天音は調べてわかっていたのか、躊躇なくそこに入り、カウンターにて注文をし始める。
「フレンチトースト美味しそう~~、ティラミスもいいな~ねえねえ朋ちゃんどうする」
「えっと、僕……私はスープとコーヒーで……」
店員のお姉さんの顔を伺いながらメニューを指差す、今のところ変な目線は感じない……
「えーー、少ないよー痩せちゃうよ~~」
「いや、いいんだ……いいの」
少しあげぎみで声を出す、もともと低い声ではないが、天音の高い声色と比べると、女の子にしては低いと思われるような気がした。
「じゃあ、私の一口あげる~~」
天音はそう言うとカフェラテに厚切りフレンチトースト、ティラミスにサラダまでオーダーする……僕は最近天音に付き合って食べているが、今まではあまり朝は食べない事が多く、今でもそんなに多くは食べられない。
ドリンクだけ先に受け取り、2階に上がり窓側の空いている席に着く、土曜日のせいか店内は空席が沢山あり難なく座れた。
天音が僕の向かいに座りニコニコとカフェラテを飲む、ほとんど口元と眉で判断しているけど度の強い眼鏡でもうっすら目が笑っているように見える。
「どうしよっか~公園でゆっくりお散歩したり、ボート乗ったりする? でもお買い物にもいきたいな~、本当はジ○リ美術館とか行きたかったんだけど予約制なんだよね~あそこ、あと映画館もあるんだよね~なんか面白いのやってるかな~どうする?」
「うーーん、ボートとか公園って日焼けが気にならない?」
もうすぐ夏休み、まだ早い時間だが既に暑く日差しも厳しい。
「朝塗ってあげたファンデーション、日焼け止め入ってるよ」
「へーーそうなんだ」
僕は顔を触り感触を確かめる、よくわからん……
「一応折り畳みの日傘は持ってきたよ、あと日焼け止めクリームもあるし」
「準備万端ですか……」
「うん! 朋ちゃんの綺麗な白いお肌が大変な事になっちゃうからね、昨日から準備してた、後で腕とか塗ってあげるね」
天音は持っていた大きなリボンの付いた赤い布バックから品物を次々と出してテーブルに置く……
ちなみに僕は黒い小さめのリュックを持ってきた、なんだか二人で修学旅行の自由時間の様な感じになっている。
「塗ってあげるって……自分で塗ります……」
もう、完全に天音は僕に対して男っていうか、異性という認識はない……
テーブルに食事が運ばれ、嬉しそうに天音が食べているのをスープを飲みつつ眺める。
最近僕のご飯も凄く嬉しそうに、美味しそうに食べてくれる天音……僕はそれをとても嬉しく感じていると共に、なんか兄になったんだなと実感させられていた。
そしてこの妹の為に何かしてやりたい、協力してやりたいと日に日に思う様になった……だから今日泣く泣くこんな格好で出かける事に同意した。
「じゃあ、とりあえず井の頭公園に行こうか」
「うん!」
無邪気に返事をする天音に対して僕は何か変な感情が芽生えていた。
この感じってなんだろう? 何かいとおしい感じ…………そうか……兄妹愛か……
そう思った事に何か照れ臭さを感じる、でも他に理由がない…………多分……
ゆっくり食事した後に井の頭公園に行く事に決めたけど……でも確か……カップルが井の頭公園でボートに乗ると別れるって都市伝説があったような…………
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